第 22 話
「孤児院?」
「ああ、ここに来たことはないが、孤児とかそういう子たちが群がる場所あると聞いたのだがどう?フォンド。」
「うーん、孤児院ではないが、庭という子供の独立、うーん、自立?互助?とにかくそういった感じの組織はあるけど、あんまり歓迎はされないと思うよ。」
「歓迎されるとは思ってねえ、そもそもここ外の人間を歓迎するようなどころあるのか?」
「たしかにそう通りだな、じゃ、こっち。」
大通りから離れ、路地を通ってわたしたちはどんどん地下街の中心から離れた。
周りの建築ももはや住居とは言えなくなり、廃墟そのものとなっていく。
「こんな辺鄙などころに子供たちが住んでるのか?」
どう見ても人が住んでいるような場所じゃなくなっていくのを見てリリアは疑問をぶつけた。
「ああ、むしろこんな辺鄙などころでもなければ子供は住めない。」
「え?なんで?」
「街の中心に住めばいやでも人目につく、子供なんて弱い生き物がこの街にぶらついたらそこを狙う輩も自然に湧いてくる、それに地下街の中心に住居を構えるってことはそこを守る必要も出てくるので結局こんな辺鄙なところが最善だ。」
ミューゼが返事するまでもなく、わたしがリリアの質問に答えた。
「なるほど、でも下町にも孤児院あるし、なんで上の街にいかないのか?」
たしかに、なんでだろう。上の孤児院は地下街の人間を受付ないとか?
「そういうルールだよ、地下街の子供は上の孤児院に行ってはいけない、そもそも十歳以下の子供はこの地下街すら出てはいけない。まあ、母親は上で産んでそのまま上の孤児院に預けるならいいんだが、そんな良心を持ち合わせている母親なら自分で育ててるし、抱え込みの娼婦とかそもそも自分すら自由になれない母親もたくさんいるからな。」
「なんでそんなルールを?」
「さあな。」
リリアの問いにミューゼは知らないと言うが、たぶん知っているのだろう。
わたしでも大体理由はわかる、この地下街は貴族たちの汚れ仕事を受けているとさっき言ってた、そんな仕事は当然安全なわけがない、加えて治安も悪ければ、人が突然死んだり、重傷を負ったりなんて日常茶飯事だろう、そんな人口状況の中で子供が全部上に行ってたらこの地下街は上から堕ちたやつを大量に受け入れないと行けなくなる、そんなことしたらどうなる?
少なくとも混乱は免れないだろう、そして、混乱というのは闇の世界においてもっとも忌み嫌われるものである。
「ルールといえば、この庭という組織にもルールがあって、まず成人した子供は庭を出なければいけない、そして二度と庭に帰ってはいけない。あとは庭では年長者が年下の子供の世話をする義務があるらしい。」
「へえ、わりとちゃんとしてるんだな。」
「そろそろ着きますが、そういえばなんで孤児院に?兄貴。」
いつお前の兄貴になったんだよ、勝手に呼ぶな。
「コホン、この街の住人は一筋縄には行かなさそうだから、まずは簡単に行けそう子供たちからだと思っただけだ。」
表向きの理由としてはな。
「でも子供にそんな大した情報持ってるのか?」
「子供でも集まれば案外侮れないよ、むしろ子供は基本警戒されないからいろいろ盗み聞き出来たりする、それにわたしは別になにか機密情報がほしいわけではない。そういうのは監察院でも任せればいい、わたしがほしいのは街の状況やどこにも転がってる噂話だけだ。」
「着いた、あそこだ。」
ミューゼの指の先にあるのは長さ百メールぐらいの木の柵、柵の内部は見えないが、入口の扉の横には監視塔があって上に人影があるように見える。
「ずいぶんと厳重な警備だな。」
「ええ、兄貴の言う通り、ここは狙われやすいからね。」
「その兄貴っていうのをやめてくんない?」
「え、なんでっすか、尊敬の兄貴を兄貴と呼んでなんでダメなんっすか、兄貴は一生おいらの兄貴っす。」
「お前っ、まあいい、いくぞ。」
いきなり攻撃してくるかもしれないから一応防御魔術をかけて、入口に近づく。
「止まれ、これ以上近づくな。」
柵から三十メートルから離れたどころで監視塔の上の人に呼び止められた、当然魔導銃の威嚇射撃付きで。
魔導銃、名前の通り魔力を動力とした銃だ、主に二種類に分けられていて、一つは遠距離射撃特化型の自由式魔導器、魔力を集中させ、攻撃範囲を犠牲にして射程と貫通力を上げるという効果がありますが、それ以外普通の自由式とあんまり変わらない、もう一つは地球の銃とかなり似ていて、魔導石の魔力を利用して魔導石自身を打ち出して殺傷能力を発揮するという武器だ、動きシンプルで、弾道も光学照準だけなので、魔力や精神力が弱い人でも簡単に扱えるのが売り、そして今足元の地面に穴をあけたのはまさにこれだ。
ってか跳弾するから危ないだろう、防御魔術かけといてよかった。
自分の用意周到さに感謝しつつ、警備の人に自分の目的を伝える。
「お前らと取引がしたい、ここのリーダーに合わせろ。」
「貴様らは何者だ?今すぐここから離れろ、でないと撃つぞ。」
「上から来た人だ、お前らにとってメリットしかない話を持ってきてるって、お前らのリーダーに伝えろ、あと、言っとくけど、その銃の扱いには気をつけた方がいいぜ、戦いになったらお前ら絶対後悔するぞ。」
そう言うと、ブオンと衛兵の持ってる銃が突然燃え上がった。
「うわぅ。ちょ、あつ。」
驚いた衛兵は慌てて銃を捨て監視塔から降りていった。
所詮は子供か。
もちろんわたしの仕業である、話してると同時に発火の魔術を発動準備をして、警告したあとすぐ彼の銃を燃やした。
「さすがに子供をいじめるのはよろしくないと思いますが、せ...さま。」
「いじめとは人聞きの悪い、教育よ教育、軽率に人に銃口を向けては行けないという教育。」
「兄貴も大人げないっすね。」
「大人げあるからしっかり教育を施すのよ。ってか君らもここらの子供と大して歳変わんないだろう。」
「精神年齢が違います!」
そうやって張り合う時点精神年齢もたいして高くないと思うのだが。
「俺がこの庭の管理者のパーロッドだ、君たちはいったい何者だ。なんのためにここに来ている。」
くだらない雑談をしてると監視塔の上には数人が現れた。
ずいぶんと急ぎに報告しにいったんだな。
「さっきも言ったはずだ、俺たちは上から来た、お前らと取引をするためにここに足を運んでいる。」
「自分の素性すら明かせないような人とは取引をしたくない、もし戦うならこっちも応戦するしかない。」
こっちにとって利用価値があるから戦いにはならないと自信あるのかハッタリなのか、判断としては悪くないが、声がまだ若すぎるからちょっと演出的に減点だな。
「教えてやってもいいが、君一人にしか教えられない。話し合いの場所用意してくれ。」
要求に応じるか揉めてるのか、向こうは長く沈黙した。
「兄貴、盗み聞きしないっすか?」
「なにを話してるか大体想像つくし、する必要もないだろう、余計なことはせずに、ほら、終わったみたいだぞ。」
「君と俺、ふたりだけの対談なら応じる、場所はあそこ小屋だ、どう?」
彼が指定したのは扉の横にある小屋、もちろん柵の外だ。
あくまで中には入れさせてくれないか。
「構わない、待ってるぜ。二人はここで待ってろ。」
「あの、あ、にき、大丈夫ですか、罠の可能性は...」
リリア、あなたまで兄貴って呼ぶ必要はないのだぞ。
「まあ、なくはないな、けど、そんな子供の罠でわたしが躓くと思う?」
わたしは思う、正直めっちゃ怖い、けどここまで来たらもうあとは引けないのだ。
「わかりました、わたしたちはここでお待ちしてます。」
「うん。」
重い脚を動かし、小屋に向かうと、庭の扉もゆっくり開けられ、中から一人の男の子が出てきた。
その男の子と小屋の前で合流し、小屋の扉を開けようとしたその時。
「死ねえぇぇぇぇぇ!」
殺意のこもった叫びと共に監視塔の上から一つ黒い影を襲い掛かってきた。
その影のスピードはすさまじく、声が聞こえた時にはもう頭上まで来ていて、避ける余裕すら与えてくれはしなかった。
バーンという巨大な轟音と共にもともとかなり老朽化が進んだ舗装路が衝撃に耐え切れずまるで水しぶきようにはじけ飛び、舞い上がった土煙が視界を遮った。
「せっ、うぅうぅうん!」「兄貴!」
自分の叫び声で上書きしながらミューゼは聖女さまと叫びそうになるリリアの口を抑え付けた。