第 18 話
「はあうー。」
朝の支度時間に鏡の前でデカいあくびした。
「聖女さま、大丈夫ですか?朝食の時間を遅らせますか?」
「あ、いや、ありがとう、けど、大丈夫だ。」
あのあとミューゼを追い出そうしたらごねる、結局強制命令で無理矢理言う事を聞かせたけど、ベッドに入ってもずっといろいろ考えちゃって全然寝付かなかった。
前の問題も解決してないのにまた次の問題が湧いてくる、状況がどんどんややこしくなって、ストレスが溜まる一方だ。
「いいえ、こちらこそ、わたくしでは役不足かもしれませんが、ラスタリアの民を代表して聖女さまに感謝を捧げます。」
いや、こっちは逃げることを考えてただけだから、感謝されても。
「いや、君が気にするじゃないよ。」
わたしはそう言いながら鏡を通して内情を知っているミューゼを覗く。
さすが密偵というべきか、リリアと同じく感心してるような顔をしやがる。
「ミューゼ、今日の服を頼む、今日は平民ひいては貧民、いや、みすぼらし過ぎると逆にやりづらいか、とにかく下町で行動しても目立たないような格好で。」
「え?」
「聖女さま?」
戸惑うミューゼとリリア。
「今日は王都の街に出る、ついでに例の地下街とやらも行ってみたい。」
「なりません!聖女さま、危険です。」
ま、そうくるよな、だがここは押し切らせてもらう。
「危険?このわたしが?なら良かったわ、そこまで危険な王都ならカゼッタ連邦の軍勢も簡単に対処できよう。」
「それは、ええと。」
「本当にそこまで危険なのか、それともわたしを王宮から出したくない他の理由でもあるのかね?」
「いや、その...」
リリアがここまで慌てるのをはじめてみた、ちょっとかわいくて、なんかもっといじめたくなってしまう。
「なにをそんなに慌ててるのかな、リリア?もしかして誰かにわたしを王宮の外に出すなとか言われてる?」
「い、言われてませんです。」
「なら別に行ってもいいだろう、ミューゼ、服の用意を。」
「ふ、はい、ただいま。」
あ、ミューゼのやつ今笑ったな。まあ、いつも真面目な顔をしてるリリアがここまで挙動不審になるのはたしかにちょっと面白いけどね。
「手が止まっているぞ、リリア。」
「あ、申し訳ありません。」
言われて髪型のセットを続けるリリアだが、心ここにあらずで全然まとまらなかった。
「はあ、もういいよ、リリア、髪は自分でやるから、朝食を見ていてくれ。」
「も、申し訳ございません。」
まるで地獄から解放されたようにリリアは部屋から逃げていた。
たぶん上の人に連絡しにいくんだろうな、グレンなのか、それとも国王のほうなのか、はたまた別の人なのかは知らんが。
もともと髪型こだわるタイプではないので、複雑なセットができるはずもなく、軽く髪を結び、ポニテールにして、鏡の前で前髪を整えたら終わりにした。
この体になって、前世では味わえなかった着せ替え、いや、ゲーム脳が過ぎた、コーディネートの楽しさを味わえた。
なにせ、どんな服、どんな髪型、どんなメイクしでも鏡の中に映るのは美人だからだ、これ以上楽しいことなんて、もう目の前のこの美人とえっなことをするぐらいだろう。
鏡の前にポージングを楽しんでたらあっという間にミューゼが帰ってきた。
「聖女さま、王宮の用意した服では安い服ありませんでしたので、知り合いの仕女から私服を借りてきましたが、大丈夫でしょうか?」
「全然大丈夫よ、むしろちょっと着古してる方がいい。」
早速借りてきた服を試着してみる。
「ダメだ、地味な服を着ても全然一般人には見えない。」
この体があんまりにも人間離れしてて、どんな服きても目立ってしまう。うーん、こうなりゃもう魔法使うしかないのか?
「やっぱり、聖女さまの輝きはこんな服じゃ隠しきれないですよね、聖女さまの美しさこそが世界の真理!聖女さまどんな服を着ても、いや、服着なくても、うへへ、聖女さまの裸、脳内に焼き付けておいてよかった、ああ~。」
「お、おう。」
なんかこいつウジウジし始めたぞ、おい、まじか。
こいつなんかどんどんやばくなってねえ?
もしかして昨日身バレしたからタガが外れた感じ?
「あ、申し訳ありません、聖女さまの美しさに当てられて少々失礼をいたしました。」
少々ってところじゃないだろう、もう怖いよ、リリア助けてー。
「そういうのはちょっと控えてほしいというか。」
「はい、もちろん人の前では必ず控えます、安心してください。」
いや、わたしの前でも控えろよ、全然安心できねえ。
「とにかくこんなんじゃダメだから、魔法使うわ、君とリリアももしついてくるならちゃんと準備しときなさい。」
今後ミューゼとふたりぎりになるのは避けよう、と思いながらわたしは足早に部屋から逃げた。
王都カルサル 貴族区
「さて、これからどうしようか、リリア、ミューゼ、君らどっちのほうが下町に詳しい?」
わたしたちは今王宮から出て数百メートルの貴族街にいる。
幻覚魔法をかけて極普通の町娘に変装してるので、この貴族街では逆に少々浮いているかもしれない。
「わたくしは王宮からあんまり出ないので、貴族街ならまだ土地勘はありますが、下町はちょっと力になりそうにないです。」
だろうな、リリアは自分がお嬢様じゃないっていうけど、どこをどう見てもお嬢様だから、はなから期待はしてない、だけどミューゼは違うだろう。
「あ、あの、聖女さま、下町ならすこしは知っています、地下街は何回かしか行ったことないですけど、入口の案内までならできます。」
うん、たしかに人前では控えてるな、ただ、なんだろう、逆に違和感がすごいというか、はやくも洗脳されちゃってるな、わたし。
「じゃ頼むよ、ミューゼ、とりあえず貴族街を抜けるか。なんか公共交通機関とかあります?」
「ええと、ここ付近では...」
「貴族街の住人は基本自分の車持ってますから、公共交通機関は少ないです、だからこんなこともあろうかと、事前に車を用意させました、あちらです。」
ミューゼの言葉を遮り、リリアが提案した。
「おう、さすがリリア、じゃとりあえずその車で下町まで行くか。」
リリアが用意した車に乗り、貴族街の大通りを走り始める。
「そういえばこの国の貴族ってたしか二種類あるよね、みんなここに住んでるのか?」
この国の貴族は中央と地方の二つに分かれている。
中央貴族は国会議員と似ていて、貴族院という場所で国王と一緒に国の政策について議論することが仕事だが、地方貴族は地方議員というわけではなく、執政官を筆頭に都市の実務を処理する人になる、つまり官僚と近い感じだ。
「いいえ、ここに住んでるのはほとんど中央貴族です、王都政務を担う方以外の地方貴族はここに屋敷を持ってたとしても基本ここには住みません。」
「なるほど、でも王都担当の人だけここに住むとハブられたり、嫌がらせ受けたりしない?この地方貴族が!って。」
「それは、具体的言うのは憚れますが、度々あるそうです。なので基本王都の執政官は信頼のあるベテランの方が務めることになります。」
多数派の群れの中に暮らす少数派だ、さぞ肩身狭いだろう。自分が地球にいた時でさえ思ったりすることだ、そこに権力争いも加えれば尚更だろう。
「まあ、ここは仕事がやりづらい分、利益も大きいから、多少の我慢もきくだろう。」
「待って、止まれ、リリア!」
道の角を曲がろうとしたリリアがミューゼの大声に反応し急ブレーキする。
「どうした、ミューゼ。」
「あそこです。」
ミューゼの指の先には数台の車が道の真ん中に止まっており、そしてそれに群がる人たがりが道塞いてた。。
「交通事故か?」
「どうしますか?聖女さま、わたくしが見に行きましょうか?」
「いや、お忍びだからそれはダメだ、とりあえずこれで状況把握してみよう。」
手を前席に伸ばし、指でリリアとミューゼの間の空中に軽く一突きしたら、その指を中心に術式が現れ、やがて人たがりのなかの様子を映し出す映像となった。
「これはディアスさまとクリロフさま!」
映像の中の人物がはっきりしてきた途端、リリアは驚いて声を上げた。
「知ってる人なのか?」
「はい、ディアスさまとクリロフは一等勲の中央貴族の方で、今貴族院の議会で連邦との戦争のことでかなり揉めているらしいです。」
「なるほど、それ争いを街のど真ん中にまで持ち込んだと。」
「たぶんそうです、ディアスさまは連邦に無血開城すべきと主張して、クリロフさまは最後の一人まで戦うと毎日議会で大喧嘩してたそうなので。」
ふーん、なるほど、これはいいこと聞いたわ。
エルデンリングのDLC買ってしまいました(ノ≧ڡ≦)☆!なので更新がすこしばかり不安定になります、はい。m(´・ω・`)m