第 17 話
美人だ。
自分を除いたらこの世界で見た中で一番の美人といっても過言ではない。ミューゼやリリア、ほかの仕女たちもみんな美人ぞろいだけど、目の前にいる奇跡級の魔力を持つ女には勝てなかった。特にその燃え盛るような赤髪と血色の瞳には一瞬目を奪われた。
「結構な美人じゃないか。」
「いいえ、聖女さまの足元にも及びません。それにこの奇跡級の実力がなかったらとっくに醜い老婆なので、聖女さまの美貌とはわけが違います。」
あ、そういえばだった、生物は奇跡級になれば寿命が延長される、そして短命種であればあるほど大幅に延長され、どの種でも奇跡級に登臨できれば千年の寿命は保障される。つまり目の前にいるのはロリババアの可能性が高い。
「そんなに自分を卑下する必要はないよ、その実力も君の努力の賜物だ、それで手にした若さも君の一部である。それに、年齢と言ったら千をも超えるこのわたしを超えることはまずない。」
「いいえ、聖女さまは、その...」
「老けるまえに若さを手にしたから衰老の恐ろしさを知らないといいたいのかい。」
「いえ、その...」
「事実だから憚れる必要はない。ちなみに君はいま何歳で、何歳のごろ奇跡級になった?あ、これは命令ではないので、答えたくないなら答えなくていいよ。」
ついつい聞いちゃったけど、さすがに失礼かな、もともと人間関係苦手に加えてニート歴ながいから、よく考えたらこの数日も結構いろんな失礼なこと口走ってたような気がしてきた。
「ミューゼも族内のみんな知っていることなので今更隠すようなことでもありません、妾は今年すでに七十二の身、恥ずかしながらも四十六の時奇跡級に到達しました。」
七十二か、マジでロリババアじゃん、いや、ロリっていう見た目でもないので、少女ババアってとこか。
「そうか、族内の奇跡級は君一人だけ?」
「はい、先代が十年前になくなったあとは妾だけになりました。」
「ちなみにその先代はさっき言ってた先祖か?」
年齢の話で気付いたが、もしその先祖が奇跡級だったら現代まで生きていても不思議ではない。
「いいえ、先祖の二人は聖王国崩壊の混乱に巻き込まれてなくなったと聞きました。」
それもそうか、もしその二人が生き延びたら聖女はもっと早く復活されたでしょう。
しっかし、千年も存続した組織か。
「ちなみに聖棘の組織規模はどれぐらいだ?」
「家族メンバーなら約三千人、それ以外の外部構成員を含めたら一万程度です。」
さすがの千年家族というべきか、結構な規模だ。
「たった三千人で奇跡魔術師を産出し続けたのか。まあ、いい、君らのことなら大体理解した、けど今日ここにきたは単純に顔見せにきた訳では無いだろう。」
「はい、もちろん聖女さまに我々の存在を知っていただきたいという目的もありますが、もう一つ聖女さまにお伺いしたいことがございます。」
「聞きたいことがあるなら聞くといい、ためらう必要はない。」
「はい、聖女さまは本当にラスタリア王国の戦争に参加するおつもりでしょうか?」
なるほど、命綱を握られている以上、争い事には参加させたくないよな。
「もしそうだとしたら?」
「もしそうであれば、我々もそれに向けて準備しないといけません、もし聖女さまが戦場に出れば我々は命代えてもお守りいたしましょう。ただ...」
「ただ?」
「ただ、僭越ながら妾は聖女さまがこの戦争に参加する理由がわかりません、聖王国はすでに滅び、聖女さまの故郷であるサザブも今や見る影もありません。先祖さまの残した資料によれば聖女さまとイーノー家の関係も良好とは言えないはずです。なぜそのような決断をされましたのか...」
そりゃそう思うよね、そもそも参加するつもりもないし。
「待て、わたしはまだ戦争に参加するとは言っていない。今しばらく様子見をしてるだけだ、この王宮の住み心地も悪くなかったしな。」
「そうでしたら...」
「この時代に来てわたしはなにをしたいのかはまだ決めていない、それを決めるのにわたしはこの時代について知らなさすぎる、だから今は情報収集がしたい、君らには悪いが、忠誠を誓った以上、協力はしてもらう。」
「わかりました、なんなりとお申し付けください。」
彼女はまだまだ言いたいことがあるようだが、言わせるつもりはない。
「まずはこの国の各方面の勢力がこの戦争に対する態度、あとは連邦と共和国の動向、そして、もしできるならカゼッタの勇者軍団についても調べてほしい。」
「かしこまりました、報告はミューゼからでもよろしいでしょうか?」
「それでいい、ほかに用がなければもう下がっていい。」
「ありがとうございます、では、失礼いたします。」
ミューゼを一瞥し、荊棘は部屋の影へと溶け込み、間もなくしてその気配も部屋から消えた。
また面倒なことになってきたな、本来なら、この人たちを使って脱出するのも手だが、彼女の言葉の真偽を確かめる手段がない以上、迂闊についていくのも危険だ。
それに例えその言葉が真実だとしても、このままついていったら、それはそれで後々面倒なものを背負ってしまうことになるからできれば避けたい。
どんどんややこしくなる状況に思わずため息を漏らすどころ、残されたミューゼが目の前で土下座し始めた。
「申し訳ありませんでした、聖女さま、どうかわたくしに罰をお与えください。」
正直罰とか考えもしなかった、そもそも命令を聞いてただけの彼女を罰しても意味がない。
「罰ねー。」
ベッドから降り、跪いて土下座をしているミューゼの後ろに回り、ミューゼの体のラインを堪能する。
よく見たらいい尻してるよね、ミューゼちゃん。
「あ、思いついた。」
思い立ったら即実行、わたしは姿勢を低くし、両足でしっかり地面を踏みつけ、右手を大きくあげた。
パン。
と土下座の姿勢で突き上げたミューゼのおしりを思い切り叩いた。
やっぱりわたしの目に狂いはなかった。いい尻だった。
「あり、す、がとうござい、ます。」
強く叩き過ぎちゃったのか、ミューゼの声がすこし変だ。
「罰はこれぐらいにして、ミューゼにはいろいろ質問があるんだよね、まあ、しりでもさすりながら答えるといいよ。」
「待って、聖女さま!もっと、もっと罰をください。ミューゼの罪は一発だけでは、十発、いいえ、百をください、お願いいたします!」
いや、許すって言ったろ、こいつ、うん?まさかとは思うが。
肩を震えている彼女を見て少し違和感を感じた。
うずくまって彼女の両足の間から彼女の顔を覗く。
そこには痛みではなく快楽で歪んだ顔があった。思わずスカートをたくしあげると、その下にはうっすらと光るものがあった。
うそだろう、こいつまじかよ。
「せ、聖女さま?そんなに見つめられるとわたくし...」