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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 15 話 

 半年前 カゼッタ連邦 首都ウーゼンルブ 某所地下

「痛い、ここが天国、いや、地獄なのか。」

 周囲は薄暗く、自分の指先ですらかろうじて輪郭が見えるぐらいの光しかない。嗅覚を研ぎ澄ますとわずかに腐臭なのか、血の匂いなのか、とにかくよくないことを連想させるような不快な匂いが漂っているのがわかる。

 こんな場所、天国か地獄かという聞かれたら間違いなく地獄と答えるだろう。

 そしてこの二択なのかというと、それは僕が学校の屋上から飛び降りたからだ。

「その天国と地獄がどんな場所かは知らないが、残念ながらそのどっちでもないぞ。」

 突然後ろから男の声がした、その同時に強い光が灯された。

 思わず声に反応して、後ろを向くとその光に当てられ、目の前が真っ白になった。

「あ、目がっ!」

「これはすまん、大丈夫か?」

 数十秒かけてゆっくりと目を開け、光に慣れさせ、なんとか見えるようになる。

「まだちょっとチカチカしますけど、大丈夫です。」

 視界の中にまだ残っている光の残影を我慢しながら周りを見回す。

 何も無い。

 自分が座っている石造りの台、そして目の前にいる逆光でよく見えない二人の人影を除いたら、残るのは同じく石造りの壁と出口付近の鉄格子だけ。

 まるで牢屋だ。

「牢屋だよ、昔はね。」

 え?今僕口に出してた?

「口には出してないぜ、そもそも俺は君が話してる言葉がわからないし、君も俺の言葉がわからないだろう。」

「じゃ、どうやって...」

「精神交流だよ、まあ、君の魂に直接話しかけているとても思ってくれ。そのおかげで君の名前もわかるよ、田中くん。」

 精神?魂?なにそれ?

「え?知らない?そっちの世界にはない概念なのか?」

「いいえ、あr、待って、いま、そっちの世界って?」

 え、異世界転生したのか?僕。

 何度も夢に見たことを、ついに、僕が?

「その異世界転生かどうかはわからないが、君は間違いなく我が国の英雄としてこのグラントゥギアとは異なる別の世界から召喚されたんだよ。」

 召喚、英雄。

「勇者ってことですか?」

「勇者?勇者、ふーん、そう、君は勇者だ。」

「うはは、勇者、僕が、うふふあは、勇者、はは。」

 まるでなにかのスイッチが入ったような僕を無視して、男はずっと後ろに控えていた人影に指示を出した。

「さあ、我らが勇者をもてなしたまえ。」

「△□※◯。」

 人影は軽く頷き、言葉を発した。

 言葉の意味はわからないが、女性の声であることは間違いない。

 女性はゆっくりと近づき、距離が縮むことにつれて、もともと逆光によって見えなかった顔もどんどんはっきり見えるようになってくる。

 きれいな人だ、金色の髪と白い肌、ハリウッド映画で出てきそう。

「△□※◯△?¥%&□※¥◯△&□※◯¥△□※◯。」

「あのう、何言っているかわからないですが。」

「ハハ、俺としたことが、君と精神交流できるのは俺だけだ、すこし待ってくれ。」

 男は懐からなにかを取り出し、いじり始めた。

 その間、僕は変な考えが浮かばないように女性の顔から目を逸らした。

「よし、勇者よ、こっちを見ろ。」

 言葉に反応し、男の方に振り返り、彼と目があった瞬間、大量な情報が頭の中になだれ込んできた。

 その瞬間、体の制御が利かなくなり、僕はそのまま倒れた。

 数分後。

「う、ぅ、はあ、はあ。」

 なだれ込んでくる情報がピタッと止まり、それによる精神負荷もだんだん和らげ、体の制御も戻って来る。

 何度も深呼吸を繰り返し、袖で額の冷え汗を拭いて再び男の方を見る。

「今のは...」

 男は無言で女性のほうを指した。

「勇者さま、わたしの言葉がわかりますか?」

「え?」

 今のって...

「どうやらうまくいったようだな、さっき精神交流で君の脳にオンフィア語の知識を送っただよ。まあ、入れたばかりの知識だ、自分から話すのは無理かもだけど、聞く分には問題ないだろう」

「なるほど。」

 やばい、本当に魔法の世界だ、僕が剣と魔法の世界に転生したんだ!

「ふ、さあ、レイラ、彼を部屋に案内したまえ。」

「はい、では、勇者さま、こちらへどうぞ。」

「あ、はい。」

 レイラのあとをついて、僕は牢屋から離れた。

 ......

「どうだ?どんな祝福かわかったのか?」

 田中がいなくなった牢屋の中、さっきまで田中と話してた男が言葉を発した。

「いいえ、残念ながら、我々の記録の中のものとは一致しませんでした。」

 男の後ろの影から、もう一人のロープ姿の男が現れた。

「そうか、ならはやく調べ上げてくれ、そんなに猶予はないぞ。」

「ええ、心得ております、今回の取引は我々にとっても重要なので。」

「ふん、なら早く成果をあげるんだな。」

「はい、ただ成果をあげるには実験体の協力が必要ですが...」

「勝手にしろ、ただ壊すなよ。」

 そう言い残し、男は牢屋から去っていた。



 夜

 ラスタリア王国 双蓮宮 使用人部屋 

 今の双蓮宮は広いわりには使用人の数が少ない。原因は言うまでもなく、聖女さまの復活が極秘だからだ、実際聖女さまに付きっきりの二人以外は全員双蓮宮から出られないようになっている。

 そんな状態なので、一人一部屋でもかなりの余裕があり、誰かさんが聖女さまの近くに寝たいという理由で何度も部屋替えできるぐらいだった。

 そのおかげで、こうして人目気にせず一人の時間を楽しめる。

 ピコン、ピコン、ピコン

 残念ながらそんな穏やかな時間も耳元で響く着信音と目の前に表示されるダイアログによって壊された。

「お父様。」

 深呼吸して、通信を取った。

「はい、同僚たちもあんまり社交的ではありませんので、そのおかげで特に疑われることまありませんでした。」

 正直これは監禁同然な生活を適応できるかつ秘密厳守できる点から選んだ人選なのか、それともこの仕事がバレないため選んだのかはわからないけど、そのおかげで助かっているのは事実だろう。

「はい、ありがとうございます、いえ、申し訳ありません、ただ、報告に値するような情報は...」

 叱りを受け、すこししょんぼりになる。

「わかりました、少々お待ち下さい。」

 窓から離れ、机に向かうと、鍵付きの引き出しから一冊のノートを取り出す。

「では、始めます、初日は魔導器やこの国ことなどいろいろ聞かれましたけど、特に気になる事はありませんでした、二日目は朝方一瞬目を離した時間があって、その間に侵入者が見つかったとのことでした、この件についてはすでに報告していますが...」

 一旦報告を止め、通信の向こうの返事を待つ。

「そうですか、わかりました、で、その後は宝物庫と訓練場に行かれまして、こちらも前の報告にありました。続いて三日目ですが、いや、三日目以降ですが、毎日部屋で勉強なさっています。」

 ノートのページをめくり、続ける。

「内容は地理、歴史、社会、魔導工学、術式理論、刻印技術などさまざまな分野をまたがっています。」

「...はい、それ以外は特に、どんな人ですか...うーん、親しみやすい方、ですかね。はい、勝手なイメージですが、もっと気品溢れる方だと思ってましたが、実際はもっと、ええと、親近感のあるといいますか、すこしだらしない感じのある方でした。」

「え?本物...だと思います、戦の聖女とも呼ばれていますし、戦場で優雅に振る舞うなどそもそも不可能でしょう、それに忘れがちですが、聖女さまは貴族出身ではありません、故郷から出てずっと戦場を生きてきましたから。あ、申し訳ありません。」

 少し語りすぎたと言われ、思わず手で顔を覆う。

「はい、では、おやすみなさい、お父様。」

 通信を切り、一息をつく。

「もう、寝ようか。」

 魔導器を置いて、ベッドに潜りこんだ

 ...

「じゃ、うちも報告しようか。」

 窓の外、ボソッと漏らした一言とともに一つの人影が現れては消えていった。


主人公が出ない回でした、ついでに報告ですが、最近仕事が忙しく、書ける時間が減ったので、しばらくの間すこし更新の頻度が下がってしまうかもしれません。

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