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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 14 話 

 ラスタリア王国、王宮、双蓮宮

「このようで、ハイラー共和国の消極的な対応により、今カゼッタ連邦の攻勢はすこぶる順調で、分析によると、あと二十日もあればパライスタとオークアは完全陥落するとのことです。」

 長々と小一時間ぐらい戦況分析を聞かされたが、正直まったく頭に入ってこない。そもそも戦術レベルの話を聞いても仕方がないし、わたしには関係のない話だ。

「でその次はこのラスタリアが狙われると。」

 関係ない話だが、タイムリミットだけはちゃんとしないといけない。

「はい、十中八九は。」

「ふーん、わたしはこの時代の戦争形態についてまだ詳しくないので、君たちに聞きたいが、この両国を攻め落としたあと、このカゼッタ連邦が体勢を整えて再び侵攻に出るまでの時間はどれぐらい必要だと思う?」

 つまり逃走計画のリミット時間だ、前の予想はあくまで自分の適当な予測であてにはできない。ちゃんとした専門家の意見がほしいというのもこの会議に参加した理由の一つである。

「それは次の攻撃対象の数にもよりますが、分析によると、もし我々のみであれば二十日、もし同時に北のフィリアまたは西のナカ-ルを侵攻すれば一ヶ月以上は必要かと。」

「君からしてどっちのほうが可能性が高い?」

「同時かと。」

「国王も同じ考えで?」

「ええ。」

「ほう、ハイラー共和国が盟友である君らを見捨てた理由に心当たりはある?」

「それについては不明です、たしかにカゼッタの軍事力は強いが、ハイラーも隣国の盟友が占領されて黙ってみるしかできないほど弱くはない。突然見捨てる理由など...」

「不確かな情報ですが、ひとつだけ理由はあります。」

 困惑してるグレンをよそに、国王マルセルはさらっと新情報を出す。

「おう、さすが国王だね。」

「いいえ、まだ不確かな情報ですが、ハイラー共和国の超大型戦争要塞に不調が起こってしばらく動けないだと。」

「ほ、ほほ、ほんとですか?陛下、どうりで、これはまずいです。」

 超大型戦争要塞、か、この世界の核、いや、奇襲性は劣るが、持続力や防御力的に核兵器以上の戦略兵器らしい。それが動けないことは横にいるミューゼですら驚きを隠せないぐらいの大事だ。

 もしそういうことなら、カゼッタは確実に同時侵攻を選ぶ、ハイラーの要塞が復旧する前にできるだけ多くの土地を占領し、のちの交渉ための優勢を作りたいからだ。

「なら今はその情報をほんとだと仮定して、ハイラー共和国の援助はしばらくの間望めないということになる、待て、要塞はカゼッタ側にもあるよね、なのに今の戦場に姿を現してないのなぜだ?」

「小国の我々にはそれを動かすまでもないでは?要塞が動くと大量魔導石が消費されますので、温存しているかと。」

 それはそうかもしれませんが、わたしなら小国を一個でも多く攻め落とすほうを選ぶ、そもそもどれだけ魔導石消費されても小国一個の魔導石を全部巻き上げれば十分賄える。ハイラーが小国全部落としてもまだ動けないという確信があるのか、または別の企みがあるのか。

 いや、待てよ。

「この連邦がこの戦争をはじめた理由はなんだ?目的は?」

「一応公表された理由は虐げられてきた東大陸同盟の民の解放らしいです。」

「それは建前だろう、本当の理由は?」

「先ほどの要塞の話では...」

「それはきっかけに過ぎない、ってか大丈夫?あなた。相手の要塞が動けなくなったから戦争するとか、あなたがわたしより弱いからあなたを殺すと同じだぞ、本気でそんな理由が成立すると思っているのなら、今ここでその腐った脳みそをくり抜いてやるか?」

 グレンが馬鹿なことを言い出そうとするところ、遮るようにわたしはまくしたてた。

「も、もしわけありまへん。」

 わたしの突然の怒涛のまくしたてにビビったのか、グレンは縮こまってしまった。

 そんなグレンを無視して、マルセルのほうを見る。

「国王はさすがにわかるよね。」

 マルセルは縮こまるグレンを一瞥し、口を開く。

「グレンは魔術一筋で生きてきたので、こういう政治の話は専門外なのです。あんまり責めないであげてください。戦争の理由は、あいにく、我が国の情報網の届くどころではないので、あくまでわたくし個人の分析になりますが、よろしいですか?」

「もちろん、どうぞ。」

「主には経済的な理由ですかね、近年ハイラー共和国の機械魔導工学をメインとした技術発展は著しく、その商品は東大陸同盟内だけでなく、都市同盟や南諸国ひいては精霊王国の市場にもシェアを伸ばしています、連邦はその逆で年々赤字を出していて、さらに去年魔導石の主要産地である両教国の争いが勃発し、魔導石の価格が右肩上がりで、両教国と隣接していない連邦にとっては大打撃としか言いようがないでしょう。そのせいで大統領のホークの支持率も芳しくなく...」

「十分だ、まあ、よくある話だね。ということは戦争の目的は経済の活性化か?」

「なるほど、屍術を扱う連邦にとって戦争で作った死体も資源になるから...」

 マルセルの話を聞いてグレンはボソボソとつぶやいた。

 死んだ人の精神力を死体に残留させ、それを利用して生ける屍、屍人を作るという魔術か。どんなものなのかちょっと気になるが、今は戦争の話、たしかに経済活性化を目的とするなら要塞使わずにコスト削減するというのも納得はできるが...

「カゼッタが今投入している戦力はどれぐらい?」

「東部の大半と中央軍の半分を投入してます、それに加えて奇跡魔術師を三人、あとはよくわからない勇者軍団という新部隊も。」

 え、なにそれ?

 戦力の話も引っかかる部分はあるが、それより勇者というこの世界では馴染のない言葉が気になる。

「勇者?」

「ええ、この部隊については情報が少なく、戦場での活躍も正直いまいちですが、開戦の数ヶ月前に新設した部隊なのでなにか目的があるではないかと我々も懸念しています。」

「その勇者部隊に特筆すべき人物はあるのか?例えば別の世界からきた人とか。」

「はい、それをご存知とはさすが聖女さまです、ご推測の通り、その部隊の中に異世界から召喚されたと言われる人物がいます。」

 うそ、まじか、やべえじゃん。

「その人物の名前や年齢は知ってるか?」

「たしか、タナーカだったか、そんな感じの名前で、年齢は具体的はわからないが、見た目的十代ぐらいの男の子だったそうです。」

 タナーカ?田中ってことなのか?日本人の十代でしかも勇者って、マジか、いよいよやべえぞ、ラノベ主人公じゃん。そんなもんと戦ったらぜってえ死ぬ、いや、最悪主人公パワーで洗脳されてハーレム入りさえありえる、ってかこの容姿じゃ絶対そうなるに決まっている、それだけは死んでも回避せねばならん。

 刺客を送って暗殺してしまうか?いや、やめたほういい、失敗して変に繋がりを作ってしまったらまずい、やはり逃げるのが勝ちか。

 予想外の状況で一瞬パニックになったが、ジュースを啜って一旦気持ちを落ち着かせる。

「もしカゼッタがこっちに集中攻撃したとして、わたしなしにこの国の戦力はどのぐらいの間死守できる?」

「多くても二十日ぐらいが限界かと。」

「いや、三十日、少なくともそのぐらいは持つ、いや、持たせます。」

「陛下...」

 ほう、国王だけが知ってる切り札があるようだね。

 だが、それでも足止めにしかならない。一応、戦争開始後の混乱に乗じて逃げるのもありだが、相応のリスクも伴う、開戦後の逃亡は予備計画ぐらいに思った方がいい。

「とりあえず、カゼッタと我々の両方の戦力報告を送ってくれ、あとで見る、それと防衛線の構築と補給兵站の保証は言わなくもわかるよね。」

「はい、もちろんです。」

「あと、パライスタはないかもしれないが、オークアからは難民がくるはずだ、ちゃんと利用しておけ、故郷や家族を奪われた人たちだ、武器を与えればいい兵士になってくれるし、いざとなれば肉の壁にもなってくれよう。」

「え、それは...」

 わたしの言葉を聞いたグレンは言い淀みながらマルセルの方を見るが、マルセルは無言にうなずく。

「わかりました。」

「じゃ今日の会議これで、わたしは部屋に帰るわ、君らはここでお茶でもしていくかい?したいならリリアを残しておくが。」

「いいえ、先ほどの指示を実行するために会議を開催するのでお茶は遠慮させてもらいます、グレン、いくぞ。」

「はい、陛下。」

 ふたりを見送ったわたしは言葉通りに部屋に帰ることなく、そのまま座った。

「飲み物もお菓子も全部下げて新しいのを持ってきて。」

「え、部屋に戻るのでは?」

 黙って従うリリアと違って、ミューゼはぼそっと疑問を口に出してしまった。

「あいつらをここから追っ払うための文句だ、気にするな。」

「そう、ですか。」

「そんなことはどうでもいい、リリアはさっきの会議どう思う?」

 流れるようにリリアに質問する、ついでではあるが、彼女たちを会議に参加させたのもついでにその裏にある人の正体を探れるかもと思ったからだ。

「わたくしごときが口出しすべきことではないと存じますが。」

「そういうのはいいから、この国の未来についてもわたしの提案についても含めて忌憚のない意見をくれ。」

「申し訳ありません、この国これからどうなるか、わたくしにはわかりません。それを左右する力もわたくしにはありません。一国民としてできるのは聖女さまや陛下たちを信じて従うことだけです。」

「ふ、ふははははは、はははは、はー。」

「せ、聖女さま?」

「いや、なんでもない、ふたりとも下がってお菓子の準備をしてくれ。」

「「はい。」」

 ふたりが部屋を出るの待って、わたしは椅子の背もたれに寄りかかって目を閉じた。

「ふ、信じて従う、か。ほんっと人間ってのはどの時代もどの世界もどいつもこいつもみんなおんなじだな。」

 席を立ち、窓際で王都の風景を見下ろす。

「だが、残念、わたしはカルシアみたいなバカではないよ。」

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