第 145 話
「退け!これ以上邪魔したら緊急事態法に則って貴様をここで処刑する!」
王都カルサルの大通りのある商店の前で、一人の士官が絡んでくる商人に魔導銃を突きつけた。
「そんな横暴なっ。」
商人はまだ何かを言おうとしたが、士官は銃口を商人の額に押し当てて黙らせた。
「横暴?その言葉は連邦軍に言え、こっちは国を守るためにやってんだよ、というかお前ニュース見てねえのか?別にただで徴収しているわけでもない、戦争終わったら賠償はするって話だろう。」
連邦軍の王都急襲を受けて、普段一つの法案で数年は揉める王国議会が一日で緊急防衛法を可決、それによって軍は特別な許可なく民間人所有の必須軍用物資、例えば魔導石などを強制徴収することができるようなった。
そして今ここでまさにその徴収が行われている最中である。
「戦争終わったらって、どこに弁償求めるんだよ、巡りか?」
士官の言葉を聞いて、商人は俯いて小声で文句を垂らした。
「ぁああ?今何っつった?今ここで巡りに送ってやろうか?」
小声とは言え、士官は歴とした魔術師なので聞き逃すはずもなく、すぐブチ切れて魔導銃を商人の脳天から思い切り押し当てて彼の頭を地面に近づかせた。
「すみません、何も言ってません、許してください!」
頭をおもいっきり押し込まれて体のバランスが崩れたは商人はとっさに両手の肘を地面につけて体を支え、ちょうど土下座のような体勢になった。
「ふん、ごみが、おい、お前ら!やれ!魔導石の一個も残すな。」
士官はそんな商人の肩に蹴りを入れて蹴っ飛ばしたあと、後ろに控えている兵士に手を招いた。
「はっ!」
士官の命令でとっくに準備していた兵士たちは続々と商店の中に入っていた。
「リリ姉、何見てるんっすか?」
商店からすこし離れた建物の二階にあるレストランで、ナディアーナたち三人が食事をしていた。
聖棘の非常用ルートを使って最短の時間で王都に戻った三人は
「いいえ、なんでも、ただちょっと昔のことを思い出しただけです。」
商店から視線を戻し、リリアは首を横に振った。
「昔のこと?」
「そういえばちょうどあなたと出会った日のことでしたね。」
「え?めっちゃ気になるけど。」
「そんな大したことではありません、さあ、早く食べて。」
「ちえー、また隠し事して~。」
話題を逸らそうとするリリアにナディアーナは不満げに唇を尖らせた。
「やることあるんでしょう?昔話はまた落ち着いてからにしましょう。」
「はい、はい、あたしは一回孤児院にいってみようと思うけど、二人はどうする?やることあるならついて来なくていいよ。」
目の前にある肉料理をフォークでぶっ差してぱくっと食べたあと、ナディアーナはリリアを見た。
「わたくしは一回実家に戻りたいと思います。」
「うーぅーん、ごく、いいよ、そういえばリリ姉の実家ってどこなん?」
頬張った肉を飲み込み、ナディアーナは好奇心を剝き出して掘り下げた。
「ラフィニアはどうします?」
しかしリリアはその好奇心を満たすつもりはないないようで、まるで聞こえていないかのようにラフィニアに話題を振った。
「自分?自分特に行くとこもありませんので、こいつについて行きますよ。」
「また無視して~、ってかこいつとは何だよ、こいつって。」
「そうですか、なら頼みました。」
「うん。」
文句を垂らすナディアーナを二人は依然と無視して話を進めた。
「では、わたくしはもう行きますよ。」
「まだ料理残ってるよ、食べないんっすか?」
「ええ、もう十分ですので。」
そう言って、リリアは立ち上がり、そのまま店から出た。
「ねえ、リリ姉の実家、知っているよね?」
コソコソと窓からリリアが一階から出ていったことを確認してナディアーナはラフィニアにそう聞いた。
「ええ、一応情報としては知っています。」
「じゃ、こっそり教えてよ。」
「それは本人から聞いた方がよいのでは?落ち着いたら教えてくれるそうですし。」
リリアと同じくラフィニアもなぜか教えたがらなかった。
「もう!二人してあたしをいじめるんだ!やけ食いしてやる!はむ、はむ...」
ナディアーナは頬を膨らませ、両手でフォークを掴み、次々と料理を口に運んだ。
「ふっ、もっと頼みますか?」
「うっ、うーぅーん、うー。」
一時間後
「うっ、うおぅ、食い、食い過ぎっ、た。」
「でしょうね、言っておきますけど、治癒魔術得意ではないから自分でなんとかしなさいよ。」
外傷ならともかく、食べ過ぎとか専門の治療師でもなければわざわざ勉強したりしない、ラフィニアもその例外ではない。
「わっ、うぅ、がったよ、こう見ても師匠の、弟子だから。」
そう言って、ナディアーナは自分の膨らんだお腹に手を当てた。
食べ過ぎという病気でもなんでもないことをどうやって治療するのか、ラフィニアもちょっと気になるので視線を向けた。
「うっ!」
しかし、次の瞬間、ナディアーナは立ち上がり、レストランの端へと走っていた。
数分後。
「はあ、もう大変な目にあったよ。」
席に戻ってナディは背もたれにもたれかかって嘆いた。
「自業自得でしょう。」
「二人のせいだもん、はあ、もういい、いこう。」
「待って、これだれが払うんですか?」
ゆるりと立ち上がるナディアーナを見て、ラフィニアは疑問をぶつけた。
「え?ああ、ラフィ姉が払ってよ、あたし金持ってないから、へへ。」
普段こういうのは全部リリアが払っていたから、支払とかナディアーナの頭から完全に抜けていた。
「お前な...」




