第 143 話
「さっき手術の時、君の体調べてもらった結果がそれだから、間違いないよ。」
「そんなことありえるんですか?」
正直ナナが驚くのもわかる、霊界悪魔なんて名前こそ聞いたことあるが、会ったことある人はほとんどないような生き物だ、そんな生き物の血をひいているなんて言われたらまずは疑うのが正常な反応だろう。
「かなり珍しいが、ありえない話でもない。」
そう言ってわたしは手術用のベッドと同じ高さの椅子を生成し、軽くジャンプして座った。
「今はこそ社会的な問題を避けるためにほとんど言及されなくなっているが、オンフィアの繫殖能力は原始四族及びその派生種族、いわゆる人族に限ったことではない、獣や魔獣とも普通に繫殖できる、もしかしたら霊界生物もその例外ではないかもしれない、そう考えると神とも...」
自分で言って気づいたが、封印の中に眠っていた神の予備の体、あれを使ってもしかしたらなにかヤバいことできるかもしれない。
「魔獣と...たしかパライア人はオンフィアが...とか聞いたことがっ。」
パライア人、地球でいう獣人のような種族のこと、その起源は諸説があり、どれ大変興味深いもの、時間あれば研究したいものである。
「ナナさん、その言葉パライア人の前には絶対言わない方がいいですよ。」
パライクの起源説のなかに、パライクはオンフィアと魔獣の雑種であるという説がある。そして、パライク人はその説を極めて嫌っている、もしそれをパライク人の前に言おうもんなら戦いは免れないだろう。
「それはもちろんわかっています、それより自分の中に霊界悪魔の血が入っていることでなにか良くない影響あるんでしょうか?」
「それは安心するといい、霊界悪魔は総じて人族より基礎能力が高いので、その血はメリットはあってもデメリットはほとんどないだろう。」
「良かった~、ちなみにどんなメリットがあるんでしょうか?」
わたしの言葉にほっとしたのも束の間、ナナはすぐにメリットの方に目が行った。
「ふっ、現金だね、まあ、たとえば君の精神力が同齢の生徒より高いだろう?」
「はい、そのおかげで去年下級魔術師になりました。」
そのことを誇りと思っているのか、ナナはすこしドヤ顔になっている。
「あとは確かではないが、変身魔術や精神魔術などへの理解度が高くなる可能性がある。」
「まだそこまで研究してないからあんまり実感がないんですが。」
自分の手を見て戸惑うナナだが、すこし口角が上がっている。
「とは言っても、せいぜい天才の枠に納まる程度なので、あんまり調子に乗ると痛い目見るかもしれないよ。」
「はい!わかりました!」
全然わかってなさそうだが。
笑顔ではきはきと答えるナナを見てわたしは思った。
戦争でいらぬ重荷を負って大人びているが、こいつもまだ子供だ、そして自分は今その子供が人を殺すのを手伝っている。
ここが地球だったら間違いなくネットで叩かれまくって迷惑電話までかかってくるようになるだろうね。
「まあ、手術は終わったし、わたしたちは戻るわ、あとのことはここの人が引き受けるので、ちゃんと言うこと聞くようにね。」
自分の中の道徳基準の問題を一旦放置し、わたしは椅子から降りて別れを告げた。
「待ってください!」
「まだなにか?」
今日いろんな人が来て大分時間食ってしまって研究目標がだいぶ遅れている、自分の気持ち次第でいくらでも変えられる目標とはいえ、自分以外の原因で達成できなくなるのはできるだけ避けたい。
「魔術を教えてください!」
「しばらくは静養って言ってなかった?」
「言ってません!」
あんまりにも自然で堂々と答えるものだから、わたしは自分の記憶を疑った。
「うん?」
「静養とは言ってません!」
なるほど、そういうことね。
「似たようなことは言ったんだろう、言ってなかったというなら今言うわ、静養しなさい。」
「怪我したは足です!手も目も頭も動けます!お願いです!教えてください!」
ちょっと興奮してしまったのか、ナナはかなり大きな声で叫んでた。
「ちょっとうるさいよ、はあ、わたしの体じゃないし、そこまで言うなら、ほれ。」
わたしは次元倉庫から数本のノートを取り出し、彼女の目の前に置いた。
「これはなんですか?」
「君にここを教えた人、あの子は一応わたしの弟子で、このノートたちは彼女を教える時に使ったノート、わたしはしばらく忙しいので、これ見て自習でもすればよい。」
「えー、そんなの贔屓じゃん、差別ですよ差別。」
ノートを手で叩きながら、ナナはごね始めた。
「ふっ、差別もなにも、君はわたし弟子でも何でもないけど?それに彼女は今わたしの代わりに王国で戦っている、君はわたしの何の役に立つの?」
「それは...」
考えたことなかったのか、ナナは慌てた。
「そうだ、メイド、そこの姉さんのようにメイドになります。」
「はあ、メイドを誰でもできる仕事だと思ってるのか?メイドには教養が必要なんだよ、というか、復讐はどうするんだ?メイドの仕事をする余裕あるのか?」
「復讐終わったあとにやります、一生頑張ります!」
わたしの言葉攻めに取り乱したのか、ナナは言葉を選ぶ余裕がなくなった。
「ふーん、魔術を教えてもらうだけでなく、ついでに一生の食い扶持まで確保するとは、ずいぶん頭がいいのね。」
「いや、そんなことはっ。」
「まあ、いいわ、その条件のんでやる。」
「え?」
突然の成功にナナは喜ぶより戸惑いのほうが勝った。
「ただし、もう一つ追加ね、わたしの研究実験体になること。」
「もちろんです、ちなみになんの実験ですか?」
「まあ、霊界悪魔のことよ、じゃ取引成立したし、戻るわ。」
そう言ってわたしはドアへと向かった。
「魔術っ。」
「今日はそれでも見てなさい、明日またくるわ。」
前回投稿忘れてたのでまとめて上げました