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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 13 話 

 ラスタリア王国、王宮、玉座の間

「今日もまだ聖女からの連絡はないのか?」

 言葉を発したのは我がラスタリア王国の国王であるマルセル・ディ・イーノー陛下だ、普段は冷静沈着で、威厳のあるお方ですが、最近はカゼッタ連邦との戦争の対応に追われ、かなり苛立っている、特にここ数日は復活した聖女さまについて毎日思い悩んでいるようだ。

 五日前、聖女の復活儀式を行うとグレンさんと陛下が密談をしたとき、俺も近衛隊長として知っておくべきだと同席させてもらったが、未だに実感が湧かない。

 この国、いや、グランとノランの二つの宗教国家以外の大陸のすべての国で聖女といったら真っ先に浮かぶのは歴史の教科書とか映画とかでよく見かけるあの伝説の人物だ、魔導ネットでもよく聖女が早死しなければとかそういうタラレバ話をよく見かけるが、まさかその伝説がリアルで蘇って、そして、陛下の悩みの種になるとは。

「はい、まだです、リリアによるとここ数日ずっと魔導器などこの時代の技術について研究なさっているとのことです。」

「はあ、それも大事だろうが、こっちの話を聞いてからにしてほしいな。」

 そう言いながら、陛下は手で顔を覆いこめがみを擦る。

「パライスタ共和国はもはや陥落したも同然、オークアもそう長くは持たんだろう、そうなればつぎは我々の番だ、もう時間はない、なんとしても今日中に聖女を会議に出席してもらわなければならん、いいな、グレン。」

「はい、尽力いたします。」

 グレン殿の額の汗が半端ないぞ、そこまでいやなのか?聖女さまって一体どんなお方なんだ?

 陛下が仕女の付き添いで白銀宮に戻ったあと、俺はグレン殿に話しかけた。

「グレン殿、大丈夫ですか?汗がすごいですよ。」

「え?あ、本当だ、これは失礼しました。」

 グレン殿は自分の額に触り、あっと驚いた、どうやら自覚がないようだった。

「聖女さまというのはグレン殿が脂汗かくほど恐ろしい方なんですか?」

「いやっ。」

 グレン殿は窓の外、いや、まるで虚空を見つめているような目で遠くを眺めながら口を開いた。

「隊長たちから見たら恐ろしいなんてことはないでしょう、ですが、わたしから見たら彼女は底知れない深淵に等しい。」


 ラスタリア王国、王宮、双蓮宮、メイド待機室。

「ミューゼ、聖女さまは今部屋で?」

「あ、リリアさん、はい、いらっしゃいますよ。」

「今グレンさまから連絡が入っていて、邪魔しても大丈夫な感じ?」

「特に言い付けはされてませんので、大丈夫だと思います。」

「よかった、グレンさまかなり焦ってましたからね、では。」

 急いで走ってきたことによって少々乱れる髪と服を整い、リリアは部屋のドアをノックする。

 トット。

「リリアです、グレンさまからの伝言を預かってまいりました。」

「入れ。」

 ゆっくりとドア開け、部屋へ入るとそこにはベッドに寝転りながら魔導ビジョンを見ている聖女さまがいた。

「聖女さま、グレンさまの伝言、よろしいでしょうか?」

「待て。」

 リリアの報告を待たせ、エレスは魔導ビジョンの内容に集中する。

「それでは続いてのニュースです、今朝ハイター共和国の内閣記者会見が行われました、内閣報道官のミー・ター氏が今回のカゼッタ連邦の侵攻について「我々はカゼッタ連邦の軍事行動に強く反対し、制裁を含めた様々な措置を取り、盟友と団結して対応する」と発言しました。現場の状況はこちら。」

「先ほど、報道官さんは様々な措置を取るとおっしゃいましたが、具体的どんな措置でしょうか?その措置の中には共和国の直接な軍事介入は含まれますか?」

 魔導ビジョンの中に記者が報道官の人に質問した。

「カゼッタ連邦に対して経済的な制裁及び盟友への武器、経済的援助を予定しています。直接軍事介入は現在予定しておりませんが、その他の措置も現在討論中ですので、しばしお待ち下さい。」

「その他の措置というのは...」

 魔導ビジョンを閉じ、エレスは体を起こし、ベッドから起きた。

 大きく背伸びをしながら彼女は窓際のテーブルに移動し、その横に座って窓の外の景色を眺め始める。

 それを見たリリアも追随し、ついでにベッド横のハンガーから羽織物を手に取り、エレスの肩にかける。

「リリア、さっきの声明どう思う?」

「大変申し訳ございません、わたくしごときの知恵では到底理解できませんと自覚しておりますので、聞いていませんでした。」

「ふ、君も古狸みたいなこというのね、まあ、いいわ、グレンの用事っていうのは?」

 見逃してくれたと内心ほっとしながら、リリアは報告を始めた。

「聖女さま、昨日パライスタ共和国の首都が陥落しました、これでもはやパライスタは風前の灯火、戦火は刻一刻ラスタリアに迫っております、ゆえに早急に作戦会議を開催し、聖女も参加していただきたく存じます、何卒よろしくお願いいたします。とのことです。」

「またか。」

 たしかに戦況は芳しくない、王国は一刻でも早く聖女の協力を得たいだろう。

「ねえ、リリア、グレンの様子どうだった?」

「グレン様ですか?うーん、大変焦っているご様子でした。僭越ながら、これ以上の引き伸ばしは難しいと思います。」

 これまで、復活してばっかで体の調子が戻ってないとか、もらった資料がまだ目を通してないとか、いろいろの理由をつけて会議を先送りしたが、さすがに今日はもう無理か。これ以上誤魔化そうとしてもむりやり押し通して自ら双蓮宮まで足を運んできそうだ。

「はあ、仕方ない、いいわ、ただ一つだけ要求がある。その会議はこの双蓮宮で行うことだ。」

「はい、伝えておきます。では、失礼いたします。」

 リリアは一礼をし、踵を返そうとした時、また呼び止められた。

「待て待て、まだ終わってない、それを伝えて承諾を得たら、お茶会の準備をしてくれ。」

「お、茶会ですか?ええと、軍議は?」

「いいから、さあ、早くいったいった。」

 エレスの意図が理解できないまま、リリアは部屋から追い出された。



 双蓮宮、応接室。

 庭の景色を眺めながら、わたしは今ボルターシュとアポルーテのジュースを楽しんでいる。

 もうこのようなセレブ生活を享受できる時間も残り少ない、今のうちに楽しめるだけ楽しんとかなきゃ。

「あの、聖女さま?」

「うん?なんだ、ミューゼちゃん。」

「あの、ほんとに大丈夫なんでしょうか?わたくしたちがここにいて。」

 ミューゼはモジモジしてかなり緊張しているようだ。

 まあ、無理もない、この国の命運を決める会議の場をお茶会にして、メイドの二人も同席させたからな。

「なにを言っている、わたしがいいと言ったら、いいに決まっている。」

 むさ苦しいおっさん二人と会議するより、かわいいメイド二人に囲まれて会議する方がいいに決まっているだろうがよ。

「コホン、どころで、リリア。」

「はい。」

「あのふたりはまだこないのか?急いでると言っておいて遅刻か?」

「あの、聖女さま、お言葉ですが、約束の時間までまだ三十分ありますよ。」

 え、来るのはや早すぎたか、まあ、暇だし、いいか。

「ラスタリアには前もって到着するような文化はないのかいね?」

「はい、そういった文化は特にないと思います。」

 まあ、地球でも国や人間がそれぞれだ、一時間前もって到着するやつもいればぎりぎりのラインを踏んでくるやつもいる。

「急いでるって言うから、一秒でも早くきて待機でもしてると思ったが、そんなに急いでるわけでもなさそうだね。」

「そんなことはございません、はやく来すぎて聖女さまのご機嫌を損ねたらまたそれを理由にまた引き伸ばされかねませんので。」

 もちろんそんな嫌味の含んだ言葉を発したのはリリアではなく、部屋の外から入ってきたグレンだった。

「ふーん、その嫌味もわたしの機嫌を損ねかねないとは考えないのね。」

 なんだこいつ、勝手呼んで、戦争の道具として利用して、ちょっと遅延されたぐらいで嫌味言ってくるとか。

「それは申し訳ございません、どうかお許しを。」

「聖女さま、グレンはまだ若く、言葉遣いが至らぬ点が多々ございまして、どうか許してやってください。」

 出た、嫌味じじい二号。

「そうね、わたしはもう若くないし、ババアとして三十歳でも奇跡級になれなかった子供には寛大な心で許してあげないとね。」

 一瞬、場の空気が凍りついた。

 ちょっと言い過ぎた?

 このぐらいいいだろう、こっちとら知らない世界に飛ばされていきなり命の危機に晒されてずっとストレスが溜まってるんだわ。

 手元のジュースを一口啜り、すこし気持ちを落ち着かせる。

「まあ、いいわ、座りなさい、急いでいるんでしょう?」

「は、はい、ありがとうございます。」

 グレンはまるで呪縛から解放されたように、後ろの国王のことすら忘れてそそくさと座った。

 そんなグレンを見てマルセルもちょっと苦笑をしながら座る。

「ええと、では始めてもよろしいでしょうか?」

「ああ、はじめてくれ。」

「あの、このふたりは...」

 そう言いながら、グレンはリリアたちをちらっと見た。

「このままはじめなさい。」

 ジュースをすすりながら冷たい視線を送るとグレンは体がピックとしてから助けを求めるようにマルセルのほうを見る。

 マルセルは軽く首を振り、このまま続けるように指示する。

「でははじめさせていただきます。まずは今回の戦争の状況説明させていただきます。」






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