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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 137 話

「敵襲!敵襲!」

 連邦軍の襲撃がすでに予想されていてそのための準備もしっかりできていたからか、アラームの音と戦闘音がほぼ同時に結界内で鳴り響いた。

「こっちから向かわなくていいのか?」

 結界コアの近くで待機しているナディアーナは戦闘音がする方を見て、ラフィニアに聞いた。

「必要ねえ、どうせ向こうからくるさ、それともなに?兵士の死傷でも気になるってのか?」

「うん、さすがすこしは。」

「相変わらずあめぇな、あいつらも戦士だ、死んであたりめぇなんだよ、そんなことよりこっちの作戦を成功させた方が大事だろう、ってかお前、他人の心配してる余裕あんのか?そんな自信あるわけ?」

 戦闘モードに入ってだいぶ口が悪くなったラフィニアは戦いの準備をしながらもナディに容赦がなかった。

「自信はないけど、師匠のことは信じているから大丈夫と思います。」

「ふっ、そっ、でもそれは相手がまだ理性があるって話だろう、前回の動き的にそうには見えんがな。」

「そ、それは...」

「どっちにしろ、ここまで来たらもうやるしかねえ、うまくいくように祈っとっ、くるぞ!」

 パァアアン!

 重さ数トンの大型魔導装甲がまるでぬいぐるみのようにぶっ飛ばされ、ナディアーナたちの目の前の地面に叩きつけられた轟音とともに、一人の男、田中がその衝撃によって作られた土煙の中から現れた。

「どうやら祈りは通じなかったようだぜ。」

 ラフィニアは田中を睨みながらそう言った。

 ナディがその視線に沿って田中の顔を見るとその理性の光が一切なく、まるで生血を見た狂った魔獣のような瞳に捕捉された。

「下がってろ。」

 田中の目を見て気圧されて動かなくなったナディをラフィニアは金属製の棒状の魔導器で突き、下がるように促した。

「あっ、はい!」

「ふぅ、こいつ使うのも久しぶりだな、使い方忘れてなきゃいいんだが。」

 ナディが離れるところを見て、ラフィニアは手に持った魔導器を軽く振った。

 その瞬間、数十メートル先にいた田中がまるで瞬間移動でもしたかのようにラフィニアの目と鼻の先の空中に現れ、拳を振り下ろした。

 そんな致命的な状況に、ラフィニアにはまるでそうなることを知っているように顔色一つ変えず、瞬間に魔導器に何重もの魔術を付与し、その魔力光が流れてる魔力器で田中の拳を右に受け流し、自分の体はまるで羽毛のよう左側に飛んでいた。

「こいつ、重すぎだろう。」

「ふん!」

 一撃を躱された田中はそれを屈辱だと思ったのか、怒りをあらわにして再びラフィニアに突っ込んだ。

「はっ、わかり、やすいね!魔獣でも、もうちょっと、複雑な、攻撃を、するぜ!」

 力もスピードもあるが、大振りな攻撃をラフィニアはことごとくいとも簡単そうにいなし続けた。

「ぁぁああああ!死ねええああああ!」

 このまるで空気を攻撃している状況に不快感を感じたのか、それともラフィニアに煽られて血が頭に上ったのか、田中はさらに力を込めて攻撃を仕掛けた。

 そしてその攻撃があんまりにもわかりやすかったので、ラフィニアはその隙をついて攻撃を避け、距離を取った。

「おい、ぼさっとしてないで、例の方法をやってみろ!」

 田中から距離を取った隙にラフィニアはナディアーナにそう言った。

「でも...」

「でももくそもあるか!やらなっきゃ死ぬぞ!」

 でも今は優勢ではっと言おうとしたところ、背中越しで魔導器を握っているラフィニアの右手がナディの視界に映った。

 普段白くて肌すべすべのその手は今青筋、いや、血が皮膚から滲み出てもおかしくないぐらい赤筋を立てながらビクビクと震えている。

「はい!」

 それはどういうことなのかすぐに理解したナディアーナは前もって作ったカンペを取り出して準備を始めた。

「なるはやで頼むぞ。」

 武器を左手に持ち変えて、無意識に右手を何回か軽く振ったあと、ラフィニアは再び田中との闘いに戻った。

 そして彼女たちが数回激しい攻防を繰り広げたあと。

「おい!野人!こっちを見ろ!」

 ナディアーナの声に反応して田中が彼女の方向を向くと、そこにはこの世界のものではない文字が空中を浮かんでいた。

「こんにちは、地球人。」と。

 文字の意味を知っているのか、意味の分からない文字を見せられて混乱したのかがわからないが、田中の動き一瞬が止まった。

 こんなチャンスをラフィニアは見逃すはずもなく、すぐ後ろに下がり、事前に用意した術式の傍に立った。

「さあ、いけ!」

 彼女の言葉と同時、無数の光が田中の周囲から現れ、槍のように彼に飛んでいた。

「ふん!」

 さっきの戦いでいくつかの術式が破壊され、包囲網に若干穴が開いていたが、田中はまるでこんな攻撃避ける必要もないとでも言っているかのように、一歩も動かずにその場で防御をした。

 その無数の槍が進み、田中の防御に突き刺さろうとした瞬間、槍はぐにゃっと縄に変化し、田中に巻き付け、瞬く間に田中は繭に化した。

「やったのか?」

「まだ終わってないぞ、油断するな、ほかに手があったら準備しとけ、さっきの様子からしてまったくの無意味ではなさそうだ、もしかしたら...」

 ラフィニアの言葉が終わるのも待たずに、繭は突然異様に膨らみ始めた。

「暴れん、な!」

 ラフィニアの頑張りで一瞬繭が引っ込めたものの、すぐにまた変形し始め、また抑え込まれて...

 そうやって二人のシーソーゲームが数分続き、中の人が諦めたのか、繭がやっと静かになった。

「やっとかー、なっ!」

 二人がほっとするのも束の間、落ち着いた繭が一瞬で膨らみ、ラフィニアが反応する時間も与えずに繭は引き裂かれた。

「クソ!」

 さすがのラフィニアも命の危機を悟って取り乱したのか、今までの守りの姿勢を崩して中級魔術を乱発した。

 向かってきた魔術の数々に対し、田中は何も言わずにラフィニアに突っ込んだ。

 そんな田中に対しラフィニアは魔導器を上げて、振り下ろした。

「待ってくれ!」

 死を覚悟した二人の予想を裏切り、田中は攻撃することなく、片手でラフィニアの魔導器を防ぎながらそう言った。

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