第 134 話
「え?ちょっと!」
霊界から来客が体から消え、部屋に残るのは自分とすでに虫の息の大司教だけだった。
「どうするのよ、これ。」
「安心したまえ、我はもう戦う力が残ってない。」
そっちの心配はしてないんだが。
「権能があれば力はどうでもいいじゃないのか?」
「権能を使用するにも最低限の力が必要だ、今の我にはそのぐらい力すら残っていない、それにたとえ使えたとしても効果が発揮する前に君に殺されるのだろう。」
カルシアに心折られたのか、わたしが皮肉で言ったつもりの言葉を真面目受け取って大司教はペラペラと説明し始めた。
「ミューゼ、大丈夫なのか!」
当然わたしはそんな説明を聞く気分ではなく、無視してずっとミューゼと連絡をとろうとしていた。
正直すぐ外に出て自分の目で確認したかったが、大司教をここに放置するわけにもいかないので、とりあえず連絡を試みてみた。
「お嬢さま!よかったぁぁ、うぅう、しく。」
「わたしは大丈夫だから、もう泣かないで、例の敵ならもう倒したんでこっちのこと片付けたらそっちに戻るから待ってて。」
「う、はぃ、かしこっまりました。」
「ふぅー。」
なんか今日ミューゼのこと泣かせてばかりで心が痛んでしまうわ。
「さてと、お前にはいろいろ聞きたいことがある。」
連絡を終えてわたしはおとなしく黙っていた大司教に向き直った。
「ああ、われも君に聞きたいことがある。」
「どうせお前を倒した人のことだろう?本来敗者に質問する資格なんてないが、いいだろう、わたしの質問にちゃんと答えたら、教えてやる。」
冥土の土産にな。
「なら聞くといい。」
「まず、この装置は何の装置だ?」
「ふっ、いろいろ機能はあるらしいが、一番主要な役割は命神の復活装置だ。」
「命神の復活?」
「ああ、なぜ使われていなかったのかわからないが、この下に命神の予備の体が眠っているのは間違いない。」
マジか、つまり命神は大崩壊の前にすでに自分の死を予測してて、そのために逃げ道を用意していた、しかし最終的予想は外れ、やつ死んだのではなくただ力を失っていたから...いや、もしかしたらすでに別の装置で一回は復活していた可能性も...
「ほう、でこれはどうやって使うんだ?」
「簡単だ、われが今座っている椅子に座ればよい。」
「はあ?ふざけているのか?」
「ふざけてなどいない、われが今こうなっているのはこの装置が起動するためには膨大なエネルギーが必要で、それを吸い取られたから、それだけだ、今装置すでに起動しているし、君ほどの力を持っていれば運用も問題ではないだろう。」
「うーん。」
死にかけの大司教を見てわたしはこのリスクを冒すべきかを考え込んだ。
「われを信じていないのはわかるが、君が呼んだあの人は信じれるのだろう、その人がなぜわれをここに押し付けたのか考えたことはないのか?」
言われてみれば確かにそうだ、彼女なら相手を無力化する方法なんていくらでもあるはず、なのにわざわざここに座らせて、しかもこの装置について何も言わずに去ったわけだから、とくに危険性はないという可能性が高い。
「わかった、この問題はこれでよしとしよう、次の問題だ、お前はどうやって今まで生き延びてきた?二千年前の人ならとっくに寿命が尽きたはずだ。」
「われの研究の成果だ、仮死状態に陥る代わりに寿命が大幅に伸びる。」
「仮死状態で寿命が延びてもっ、お前まさか?!」
仮死状態に陥ったはずなのに自分がここに入った瞬間に起きて襲い掛かってくる、ここの装置は起動するのに膨大なエネルギーが必要で、この下には神の予備用の体が眠っている。
「大司教なのに、不敬とか思わないのか?」
「ふん、死んだ神に不敬もなにもなかろう。」
正直無信仰者として狂信者よりこういう考えのほう共感できるが...
「その神がまだ死んでいなかったと言ったら?」
「う、今、なんっと?」
「今はわからないが、命神は少なくとも千年前には生きていた、。」
わたしの言葉を聞いて大司教は黙り込んだ、表情を何回か変え、彼は再び口を開く。
「それならなおさらだ、信者を捨てた神など要らぬ。」
「そうか、なら約束通り、例の人のことを教えてやろう、彼女はね、千年前、つまりお前たちが閉じ込められた千年後の命神教の聖女だよ。」
「それは本当なのか?!」
「ええ、今さら噓ついてどうする?わたし今ここに入れるのもその証明だ。」
一部事実は隠したけどね。
「なぜ...」
命神は死んでいないにもかかわらず、自分らはここで二千年も閉じ込められている、しかも外では新しい命神教が現れて命神承認の聖女まで現れているという。
ショックなんだろうな、でもこれがミューゼを泣かせた罰だっと大司教の光の失った目を見てわたしは思った。
「で?まだ聞きたいことはあるか?可哀想だから特別にもう一つ教えてやるよ。」
上から見てくるわたしを一瞥し、大司教はゆっくりと目を閉じた。
「もう十分だ。」
「そうか。」
黙り込んだ大司教を見下ろし、わたしはゆっくりと手を上げた。
...
「ミューゼ!無事か?!」
「お嬢さま!」
最速で封印から飛び出したわたしをミューゼはすぐに出迎えた。
「よかった、無事で。」
「お嬢さまこそ、大丈夫なのですか、あの人...」
「大丈夫、わたしの敵ではないよ。」
今日二回涙を流してやや腫れてしまったミューゼの目元を指でなぞって治癒魔術をかけながらわたしは恥ずかしげもなくカルシアの手柄を横取った。
「さすがお嬢さまです!」
こうやってわたしはいつもの会話と今日一のミューゼの笑顔に疲れを癒されました、めでたしめでたし。
「妾の心配もしてくれてはどうじゃ?」
というわけにもいかず、横からテラーの不満の声が聞こえてきた。
「あ、そう言えばテラーは大丈夫か?」
「はぁ、もうよい、妾は無事じゃ、この程度どうということはない。」
「いやぁ、それは良かったわ。」
頑張って戦ってくれたのに完全に忘れてしまって、さすがのわたしもちょっと申し訳なさを感じた。
「すみません、大司教は...」
仲間と互いの無事を確認し終わったあと、マティアスは恐る恐ると聞いてきた。
「ほう、わたしたちが中で仲良く話し合ったとても?命神に会わせてやったよ。」
「大変申し訳ございませんでした!」
わたしが怒っていると思ったのか、マティアスは頭を下げた。
「それはいい、どころで君、中に何があるのか知っていたのか?」
「いいえ、そんなっ、すこししか...」
わたしに疑いの目を向けられたことに気づいたのか、マティアスは否定の言葉を飲み込んだ。
「ほう~」
「中には神が残したすごい装置があって、それがあれば神にでもなれると先代から聞いています。」
「なるほど、じゃその神の装置とやらをいじってくる、テラー、悪いけどここを頼んだ。」
そう言ってわたしは再び封印の中に入った。
「本当、人使いが荒いのう~」