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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 133 話

「来たか。」

 外部との連絡が途切れ、しかも知らない人が封印を越えてきて、内心かなり焦っているが、それでも我慢してまるで侵入してきた大司教が自分にとって何の脅威にもならないように振る舞った。

「あなたが...聖女?妙だな...」

 ピラミッドの上から見下ろすわたしを見て大司教はなぜか困惑した。

「なにが?」

 正直こんなことどうでもよくて、ミューぜたちが無事なのかが知りたいんだが、自ら弱みを晒すわけにもいかないので流れに乗った。

「あなたから凄まじい力を感じるが、権能の気配はまったくないし、命神の祝福を受けた様子もない、なのにここの封印を通り抜けることができた、一体どういうことだ?」

「さあ、命神に聞いてみたら?」

「命神が今どうなっているのか、そっちのほうが知っているのであろう?」

 うん?外の人から聞いたのか?命神のことを。

 いや、ここの封印を通れるということはこいつは命神教の大司教ということだ、命神が死んだと聞いてこんなに淡々しているわけがない、どっちかというととっくの昔から知っている様子だ。

「知っていたのか、ならなぜここに居続ける?その力があればとっくにここから出られたはずだと思うが?」

「ここはどういうところか、まだわからないようだな。」

「ええ、教えてくれるのか?」

「教えてやるよ。」

 マジかっと思ったその時、大司教は突然目の前に現れ、手を振りかざしてきた。

「権能がなければ力だけあっても無駄だということをな。」

 こいつ、自分より弱い相手でも不意打ちするかよ。

 幸い、短い時間でもできるだけ準備はしたし、警戒も怠っていなかったおかげで、すんでのところで転移魔術でかわした。

「ふーん、いい反応だ、だがいつまでも逃げられると思うなよ。」

 せっかくの不意打ちが躱されてよっぽど悔しかったのか、大司教負け惜しみの一言を放った。

 一方、一時的安全になったわたしは一刻も休まず小声で詠唱を始めた。

「霊界の闇を徘徊せし悪霊、白銀の騎士、漆黒の聖女、終焉を見届けし処刑人、危険で可憐で麗しい乙女。」

「ふん、儀式術か、だれを呼ぶというんだ、助ける神はもういないぞ。」

 わたしがやろうとしたことを察してすぐに目の前に移動する大司教。

 そんな大司教を一瞥して、わたしはため息をつく。

「はあ、助けてくれ。」

「ふっ、なんだその祈禱詞は?ふざけてるのか?」

 あんまりにも適当な祈り言葉で大司教を務めてた男は思わず一瞬だけ攻撃を止めた。

「ええ、ほんと不敬よね、この子。」

 止まった大司教の手が再び振り下ろされた時、「わたし」は顔を上げ、その腕をガッチリと掴んだ。

「なんだ?君は、神?いや、そんなはずは...」

 驚く大司教に「わたし」はただ微笑みを浮かべただけだった。

「ふん!力だけは強いみたいだな、けどそれだけでは勝てぬぞ。」

 こっちが黙っているのを見て大司教は「わたし」の手を振りほどいたあと、逆にこっちの腕を掴んだ。

 ...

 そしてそのままなにも起こらなずに数秒間が経ち、大司教の顔色がかなり悪くなった。

「なぜだ?君から我より位の高い権能はないはずだ。」

 なにかの攻撃を仕掛けたけど成果を得られなかったことに彼は困惑しているんだろうか。

「ああ、わたしはもうこの世界のものではないからね、当然この世界の理には縛られないよ。」

「な、それはいったいどういう...」

「つまり、わたしを倒したいなら力で圧倒するしかないということだ。」

 そう言って「わたし」は左手で自分の右腕を掴んだ大司教の手に手首を掴み、力を入れた。

「ぅ、うああああああ!」

 激痛で大司教は手を離した、そしてその大司教の手を「わたし」もあっさりと解放した。

「あんまり汚い手で触らないでよね、もうこの子にあげちゃったとはいえ、元はわたしの体なんだから。」

 握りつぶされた手首を痛み耐えながらいそいそと治療している大司教を見下ろしながら、「わたし」は右手首を軽くはたいた。

「久しぶりに来たけど、この世界の魔力濃度下がりすぎでは?うん?...なるほど、じゃここが命神の、相変わらず人格も趣味も最悪なこと。」

 まるで大司教のことが眼中にないのように、「わたし」は治療中の彼を追撃することもなく、逆に背中を向けて周りを観察し始めた。

「き、貴様は一体何者だ?」

「へえ、逃げないんだね君、逃げるなら今のうっ、そう?悪いね、逃がしちゃダメって言われちゃったよ、残念。」

「ふん!」

 もう残りの道は一つしかないとわかったのか、大司教は入ってから初めて自分に防御魔術をかけた。

「その術式見たことないね、君二千年前から封印された人だよね、それ自分で考えたの?」

「教える義理はない!」

 遠距離の術式が苦手なのか、それともそもそも研究してなかったのか、大司教は依然として突っ込んできた。

「この子のために聞いたんだけどな、まあ、いっか。」

 突っ込んできた大司教の攻撃をわけなく受け流し、さらに遠くに投げ飛ばした。

「だから触るなって、あーあ、懲りないね。」

 投げ飛ばされてもなお突っ込んでくる大司教に「わたし」は手を上げた。

 そして次の瞬間、無数の魔術が虚空から現れ、大司教へと向かった。

「わたし、こういう泥臭い戦い結構すきなんだよね。」

 片方が一方的に攻撃して、もう片方は逃げ回るしかできないという戦いがどう見ても泥臭いとは言い難いが、「わたし」はかなり盛り上がった。

「こういうの結構久しぶりだから、なんか楽しくなってきたかも、ほれ、もっと逃げ回れ、うふふ。」

 さらに攻撃の密度が上がったにもかかわらず、なぜか大司教が追い詰められることはなく、ずっと逃げ回れていた。

「クソ!」

 大司教は突然足を止めた、そのせいで元々彼が避けられた攻撃が回避されることなく彼に真っ直ぐと向かった。

 しかし、その攻撃が当たる直前に魔術の軌道が曲がった。

「おとっと、危ないじゃないか、死ぬわよ、あんた。」

「そう玩具にされるぐらいなら死んだ方がマシだ。」

「本当わがままね、せっかく楽しくなってきたのに、もっと楽しませてくれよ。」

「わたし」のあんまりの鬼畜すぎる発言に、大司教は目を瞑ってまるで処刑を待つように座り込んだ。

「はあ、仕方ないな、そろそろ時間だし、片付けるか。」

 そう言って「わたし」は大司教の前に現れ、彼を魔術で拘束し持ち上げてピラミッドのてっぺんまで登った。

「暴れるなよ。」

 まるで自分の運命を知っているかのように、大司教はなにも言わなかったまま椅子に座らせられ、そして次の瞬間、今まで何の反応もなかった装置がなぜか作動し始めた。

 その作動とともに、椅子の上の大司教はみるみるうちに弱っていき、最後にはもう大司教というよりただの老い朽ちた老人になった。

「よし、じゃわたしは戻るよ、今度は自分でなんとかしなよ、わたしとていつも暇じゃないんだから。」

 その言葉が終わったあと、まるで巨大ななにかが消えたように、部屋内の空気が一気に軽くなった。



最近忙し過ぎていろいろと限界なため、休載とまでは行かないけど、しばらく更新頻度が下がります、たぶん来月までには回復するのでよろしくお願いいたします。

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