第 132 話
バーン!
テラーの挑発の言葉が終わった瞬間、彼女の拳もうすでに大司教の目の前にあった。
そして大司教もまるで彼女の行動がわかっていたかのように彼女の拳を防ぎ、ミューゼたちがまだなにが起こっていたのかすら把握していないうち、二人の最初の攻防はすでに轟音の中に終わった。
「ほう、この妾の一撃を防ぐとは、大口を叩くだけのことはあるようじゃのう。」
「ふっ、そっちは思ったより弱かったがね。」
「なんじゃと、その生意気な口引き裂いてやる!」
そう言ってテラーは再び大司教に突っ込み、全力の一撃を放った。
しかし、そんな一撃の結果は彼女を驚かせる結果だった。
大司教は彼女の拳を一歩も引かずに受け止め、彼女の拳をそのまま掴み、体を一周回転し、円を描きながら彼女を封印の方に思いっきり投げた。
「うっぐ!」
幸い封印はただの侵入防止の術式で、反撃用の術式がないおかげで彼女が大したダメージ受けていないが、精神的なショックはかなり大きかった。
「お前本当に人間なのか?」
自分はたしかに力を誇れるタイプの魔獣ではないが、それでも一般的な人間よりは力の上限が遥かに高い、実際今まで同じく同盟の領主の戦魔以外、人間との力比べで負けたことは一度もなかった、なのに今はこうも簡単にあしらわれている。
「気持ちは分かるが、我の種族は間違いなくオンフィアだ。」
「戦魔みたいな脳筋が他にもいるとは...」
名前の通り、戦魔は戦いを趣味としている変態だ、そしてやつの奇跡魔術は無制限なポワーアップ、簡単に言うと魔力さえある限り、自分の体の上限に縛られることなく無限に力を増強できるという脳筋魔術だ。
頭脳で勝負する人間の魔術師の世界であんな脳筋プレイを見せるやつは間違いなく変態中の変態だ、そんな変態がまさに二人目がいるとは...
「戦魔というのはどういう人か分からないが、我は脳筋ではないぞ。」
「どうでもいいわ!」
そう言ってテラーはまたもや突っ込んでいたが、今度は前より数倍速いスピードだった。
さすがにそのスピードに大司教も反応できず、思いっきりの一発を食らってしまったが、まるでダメージがなかったかのように一歩も動くことなかった。
そんな大司教を見て、テラーもめげずに攻撃を繰り返した。
二人は白熱した戦いを繰り広げている中、ミューゼたち三人は爆風で大変なことになっている。
「このままじゃ巻き込まれます、とりあえず外に出ましょう。」
「はい!」
ちょうど戦いのせいでエレスとの連絡が途切れたところのミューゼも心配はしつつもさすがにここ居ても足手まといにしかならないと自覚し、大人しく離れることを選ぶ。
そして彼女たちが入り口にたどり着いた頃。
「どうしたのじゃ?口ほどでもないのう~」
ずっと防戦一方の大司教を見て、テラーは挑発をした。
「われもさすがに歳かね、でも、こんなのひ弱な攻撃じゃいつまでも決着はつかないぞ。」
「ふん!」
それはテラー自身が一番わかっている、奇跡魔術師同士の戦いで奇跡魔術なしの決着はないと、だから挑発して先に手の内を晒してもらおうとした、しかし、相手もそれを分かっているようで、のってはくれなかった。
相手の目的は聖女さま、そして最初の自分らを無視して封印に突っ込んでいたことやさっきの会話からして相手はこの封印の中を知っている、そんなやつが今のように吞気で待っていられるってこと中に他の出口はないということ。
つまりこのまま戦いが長引けば聖女さまが外の状況を知らず出てくるかもしれない、その最悪の事態を防がなければっとミューゼはエレスと封印を越えて連絡が取れること知らなかったテラーは思った。
「安心したまえ、今すぐに終わらせてやる。」
その言葉が言い終わる前に、テラーの手はどういう方法でか、すでに大司教の防御をすり抜け、彼の腕を直接掴んだ。
そして、その触れた瞬間、大司教の腕も服もまるでジェリーのよう溶け始めた。
「なるほど。」
瞬く間に体の三分の一が溶けたにもかかわらず、大司教の目には慌てる色は一糸もなく、むしろ笑みを浮かべた。
そんな異常な反応に驚く暇もなく、テラーは自分変化の術の進行が遅いことに気づいた、それだけでなく、徐々に進行が止まり、変化した部分の体も回復し始めた。
「なん...じゃ?」
奇跡魔術師になって以来初めて見た光景にテラーは驚いて離れることも忘れてしまった。
「残念だな。」
そんなテラーの腕を大司教は逆につかまった。
「他の系統ならともかく、生命系の下位権能でこの命神教大司教に勝とうなど到底無理な話だよ。」
腕を掴まれてやっと気がついたテラーは振り解こうとしたが、時はすでに遅し、次の瞬間彼女の体はまるで麻酔銃でも撃たれたかのように力を失っていた。
「うっそ...じゃぁ。」
そのまま倒れ込んで気絶するテラーを大司教はとどめを刺すこともなく、ただゴミを捨てるように横に投げた。
そして彼はヨドやマティアスに挨拶することもなく、そのまま封印へと向かった。
このあんまりにも速い決着を目にしたミューゼはすぐに引き返して大司教に追いかけようとしたが、追いつけるはずもなく、ただ封印とぶつかってはじかれただけだった。
「お嬢さま...」
まるで心臓がわし掴まれて氷水に入れられたかような感じに襲われ、ミューゼはそのまま気絶した。