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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 131 話

「思ったより規模は小さいね。」

 部屋に入り、真っ先に目に映るのは外の封印術式よりだいぶ小さい神術式だった。

「規模は小さいですが、強度は外の封印術式より断然高いです。」

「ええ、そのようだね。」

 近づいて観察すると術式の規模こそ小さいが、つぎ込まれている力はほとんど差がなく、そのおかげか術式に欠けるところも弱くなっているところもなく、解除するのは至難の業でしょう。

「で、これはどっやって解除するんだ?」

「解除はできぬ。」

 自力で解除は無理だと判断したわたしが老人に問い詰めるも、老人はばっさりと言い切った。

「はあ、どうせなんかあるんだろう、もったいぶらずに言ってくれ。」

「ふ、ああ、わしらには入れぬが、命神の祝福を得たものは通れる、つまり、もし君が本物の聖女であれば君だけは中へと入れるはずだ。」

 またかよっと内心でツッコミを入れつつ、試しに手で術式に触れてみる。

 一体どういう原理でなにをもって識別しているかはわからないが、結果としてはあっさりすり抜けた。

「これって中から解除とかできるのか?いや、わかるわけないか。」

 あんまりの面倒臭さに呆れながら、わたしはゆっくりと背負っているミューゼを前に移した。

「起きて、ミューゼ。」

「うーん、お嬢さま!これは一体?」

 軽く彼女の頬をぺちぺちしながら呼ぶと彼女は目を覚ました。

「大丈夫、慌てないで、君はちょっと寝てただけだ、とにかくわたしは今から少し離れるから、君はテラーと一緒にここで待ってて。」

 わたしの言葉を聞いて、ミューゼは何も言わなかったが、圧迫感を感じさせるほどわたしの服を掴んでいる彼女の両手は間違いなく彼女の気持ちを表している。

「すこしこの中に入ってくるだけだから、安心して。」

 正直できれば起こしたくはなかった、不安にさせたばかりなのにまた離れるとか、どうなるかは目に見えている。

 しかし、なにかあった時のために起こさないわけにはいかない。

「...わかりました。」

 どういう原因なのか、彼女はすこし考えたあと、おとなしく手を離した。

「ありがとう、じゃ行ってくる。」

 そう言い残し、わたしは彼女を地面に下ろして、術式の向こうへと向かった。

 ...

「なにこれ...」

 術式の向こうの景色を見た途端、わたしは自分がまた異世界転移したのかと疑った。

 まるでどこかのSF映画から持って来たようなピカピカな金属の床と壁、その上に這わされた何らかの術式か回路のような模様、そして一番存在感が溢れている部屋の真ん中にあるピラミッドのような巨大装置。

「なんか神代って思ったよりやばい時代だったかも。」

 そうつぶやくも、目の前のワクワクするような光景の魅力には抗えず、足は自然とピラミッドの前面にある階段を登った。

 ピラミッドのような巨大装置とはいうものの、ピラミッドのようにブロックで積み上げられている感じではなく、むしろただの一個の金属の塊ではないと思うぐらい隙間など一切なく、ツルツルとした表面だった。

 そんな装置と周りの景色を観察しながら、わたしはピラミッドの最上部に辿り着いた。

 最上部には光り輝く伝説の宝物が置かれているというわけもなく、逆にがっがりするほど何もなく、ただ椅子が一つ置かれていただけである。

「どういうこと?」

 装置の規模とその頂点にあるもののギャップがありすぎてすこし頭が混乱した。

 どう見ても座り心地悪そうな金属製のガチガチの椅子の背もたれに触れ、座ってみるかと考えたその時。

「お、お嬢さま!聞こえますか?」

 契約を通じてミューゼが連絡してきた。

「聞こえる、なにかあったっ」

「敵です!今テラーさまが苦戦っ、あぁ!」

 わたしの言葉が終わるのを待たずに、ミューゼがとんでもなくやばい報告をしてきた。

「大丈夫か!ミューゼ!ミューゼ?!」

「だ...じょ...ぶで...し、敵の...的はお嬢...です!にげ...ださい!」

 その敵とテラーの戦いが白熱しているせいか、精神力の繋がりがだいぶ不安定でミューゼの言葉が終わった瞬間に切れていて繋げなくなったが、それでもミューゼの伝えたいことはわかった。

「逃げるってどこに?」

 逃げ場なんてない、相手はテラーすらも苦戦する相手だ。

「どうする、ここの封印が守ってくれることを祈るしかないのか、いや、そしたらミューゼたちが...くそ。」

 ...

 遡って数分前、エレスが封印に入ってすぐ。

「さて、妾たちはどうしようかのう~、そうじゃ、メイドの嬢ちゃん、なんかお茶でも出したまえ。」

 椅子を出して座りながら、テラーはミューゼに絡んだ。

「いやです、わたくしはお嬢さまのメイドであってあなたのメイドではございません。」

「少しぐらいよいじゃろ、減るもんじゃっ!」

 なんとかミューゼの懐から美味いもんをせびりだそうとするテラーが突然椅子から消えた。

「おっと、こそこそ何しようとしているんじゃ?ゴミムシがっ。」

 消えたはテラーは封印の前に現れ、その彼女の目の前にはなにかの修道服を着たかなりやせ細った男性が立っていた。

「見逃してやるつもりだったのに、のこのこと命を捨てにくるとは。」

「大司教?!」

 立ち止まった男の顔を見て、案内のヨドとマティアスが驚きの声を出した。

「ふん、ヨドか、お前もずいぶん老けたな。」

 彼らの声を聞いて大司教は目の前のテラーの存在を無視して振り返った。

「なんで?どうして?千年前になくなったはずじゃ...」

 大司教が生きていることがよっぽど驚愕なことなのか、老人のキャラは崩壊しかけた。

「そのことは後でも話す、今はまず邪魔者を排除せねば。」

 そう言って大司教はテラーの方に向き直った。

「上等じゃ、待ちくたびれたぞ。」

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