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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 130 話

「お嬢さま!お嬢さま!」

 突き飛ばされ、まるで底なしの深淵を落下するような無重力感を味わったあと、わたしは自分の、カルシアの体に戻った。

 そしてすぐミューゼの焦った声が耳に届く。

「どうした?」

 目を開け、目の前のミューゼの涙のこもった焦り顔を見てわたしは思わず彼女の頬に触れる。

「お嬢っ、しっ、さっまぁう、ぅううう。」

 わたしの言葉でなにかのスイッチを押してしまったか、ミューゼの目にためてた涙が一気に零れ落ちた。

「ちょ、なんで?泣かないでくれ、どうしたの?一体。」

「しっく、だいうおうえす、ただ、うっぐ。」

「いいから、いいから、喋らなくていいから、落ち着いて。」

 泣き出すミューゼの頭を自分の胸に寄せ、その背中をさすりながら、隣でわたしたちを冷たい目で見てるテラーに目をやる。

「テラー、これは一体どういうこと?」

「どうもなにもじゃ、あんたがあれに触れてからびくとも動かなくなったからじゃろう?」

「そうなのか、いや、それはそうなるのか、わたしはどれぐらい止まってたんだ?」

 心配させた申し訳なさ感じつつも、なにがあったわけではないとほっとする。

「数分ぐらいじゃ。」

 体感的にはもっと経った気がするが、それが聖霊殿の時間の流れるスピードがグランと違うからか、それとも単純に自分の感覚の違いなのかはわからないが。

 そう考えていると腕の中のミューゼの泣き声もどんどん落ち着いてきた。

「ミューゼ?」

 ...

 返事がない。

 泣き止んでいるし、だいぶ落ち着いてきたはずだが、ミューゼはわたしから離れる気配がなかった、それどころか、むしろ抱き締められた。

 普段だったら喜んで抱き締めて幸せな一時を楽しんでいたが、今はみんなの目の前、さすがのわたしでも恥ずかしい。

 しかし、彼女もだいぶ不安だったろうし、引き離すのは忍びない、結局諦めて、彼女の肩に軽く手を置くだけにした。

「コホン、これでわたしはテストをクリアしたっとことでいいかね?」

 気まずさと恥ずかしさを緩和するため、わたしはマティアスたちに声かけた。

「うーん、反応はしていたようだが、なにが起こっていたか聞いても?」

 聖女だということを確認したからか、老人の口調がすこし変わった。

「それは言えない。」

 聖霊殿に言ってこの体の元の持ち主と話してきたなんて言えるはずがないし、中途半端に隠すぐらいならいっそ全部言わない方がいいだろう。

「そうか、それは残念だが、偽物であることを証明できなかった以上、案内はする。」

 ...

 そう言ったものの、老人はその場で動くこともなくただこっちを静かに眺めているだけだった。

「あのう、ミューゼ?そろそろ...」

 老人、いや、周りの三人の無言のプレッシャーに耐え切れず、わたしはミューゼの肩を叩いた。

「ミューゼ?」

 しかしミューゼは何の反応もなかったのでもう一度呼んでみたが、彼女は動こうとする様子はなかった。

「どうした?」

 さすがに様子がおかしかったので、ちょっと力を入れて彼女の肩を自分から引き剝がすと、なんと彼女は寝てしまっていたのだった。

 正直今口付けでもしたいぐらいかわいい寝顔だが、こんなに見つめられているなかでさすがに堪能できる余裕はない。

「は、はっは。」

 予想外の事態に乾いた笑いを引きずるしかなかったわたしは仕方なく彼女を魔術で浮かし、ゆっくりと彼女を起こさないように自分の背中にあずけた。

「すまん、ええと、いこうか。」

 さすがに面の皮が厚いほうだと自負しているわたしでも、今はやや顔の皮膚の温度が上昇していることを自覚してる。

 なんとか無理やり自分から注意力を逸らさせようと言葉を繕う。

「ああ、ついてきてくれ。」

 幸い三人ともわたしをからかうつもりはないらしく、特に辱められることもなく、老人の案内が始まった。

 部屋の横のドアを抜けて、長い長い階段を下って行く。

「こんな深い地下施設、下の方の空間は崩れたりしないのか?」

「ご安心ください、後でお目にかかると思いますが、この地下にも命神さまが残した術式がありますので。」

 下にも命神の術式?

 上の入り口のはこの世界の封印だから命神がかけるのは当然だが、この下はただの命神教の宝物庫なはず、命神が信者の財産を守るためにわざわざ術式を残すのか?

 普通に考えても、命神の話しをした時カルシアのあの反応からしても、それは有り得ない、だとすると、この下はただの命神教徒の宝物庫ではないということになる。

 そう考えると思わずミューゼの太ももを支える手に力を入れてしまう。

「う、ぅう。」

 それでミューゼを痛くしたのか、後ろからうめき声がした。

「ここだ。」

 わたしが慌てて力を緩め、強く握った場所を指の腹でやさしくさすっている時、老人は階段の横にある扉の前で止まった。

「ここ?じゃこの下は?」

 目の前の何の変哲もない金属の扉とまだ下へと続いていく暗い階段を見てわたしは疑問を口にした。

「この下は霊柩の間です、かつての大司教がこの下に眠っています、興味がございましたら一回足を運んでみますか?」

「いや...その、騒がせたら悪いんで。」

 興味ねえよって拒絶の言葉を吐こうとした瞬間、さすがに不敬かもと思い、言葉を飲み込んでそれらしい理由を見繕った。

「そうですか、では参りましょうか。」

 マティアスと話している間、老人はすでにドアを開け、中へと入っていた。

 当然わたしも入らない理由はないので、ほかの二人に続いて部屋の中に入る。

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