第 129 話
「あれ?戻るの早すぎない?それなりに力を与えたつもりだけどな~」
台座に触れ、視界が真っ白になった中で、突然聞き覚えがある声が聞こえた。
「この声、カルシアなのか?」
とっさにカルシアと決めつけたが、正直彼女が誰なのかはわからない、ただこの声が自分が聖女として復活されたあの日に聞いた声であることは間違いない。
「ええ、そうよ。」
ごまかす気も隠す気もなにもなく、声の主はあっさりと認めた。
「ここは...」
まるで彼女の声になにかの魔力があるみたいに、白色に覆われた視界が徐々に回復し、周りの景色がだんだん目に映り始めた。
真っ黒、それは数か月前のトラウマを掘り起こすほどの真っ黒だった、幸い、数か月前のとは違い、目の前にはここ数か月毎日目にする姿をした女性が立っている。
「聖霊殿よ。」
「え?ここが、ですか?」
はっきり言ってこの空間に聖霊殿という文字列を連想できるものは何一つ見つからない。
「そんな畏まらなくていいよ、残念ながら君が想像するような煌びやかな宮殿じゃないけど、ここは間違いなく聖霊殿、そんなことより、君は何でここに戻った?死んだわけではなさそうだけど?」
あんまりその話したくないのか、カルシアは話題を逸らした。
「命神が残した遺産?みたいものに触れて、気付いたらここに。」
「ふーん、なるほど、いかにもやつがやりそうなことだね、とりあえず安心しな、やつがなにを企んでいたとしても、今はもう全部水の泡だ。」
「やつというのは命神のこと?」
カルシアがあんまりにも自然に語り始めたから、一瞬なのことか理解できなかった。
「そうだけど?」
「命神はその、カルシアさんの生まれる前に死んでいたのでは?」
「ああ、たしかにそんな話しあったね、うーん、端的に言うと、ほとんどの神は死んでいない、殺されていなければ今もどこかで生きてるんだろう、あいつら寿命だけは無駄に長いからな。」
マジか、わたしここ数か月何回も神は死んだとか言ってたけど、大丈夫か?
「大丈夫よ」
まるでこっちの考えがわかるように、カルシアはそう言い放った。
「生きているだけで、神としての力は失っているから、なにもできないし、そもそも人前に出る勇気すらないだろう。」
「それはまたなんで?」
「神ってのはね、人間とは何もかもが違うんだよ、化けていたとしても人間社会で長く過ごせばいずれバレる、そしてもしバレたら...」
「それは恰好の研究材料だね」
神の力を失った神がいるなんて聞いたら世界中の魔術師が躍起するに決まっているんだろう。
「ふ、ふははははははははっはははっ。」
「ど、どうしたんですか?」
突然狂ったように笑い出すカルシアを見てわたしはビビった、なんせ目の前のこの人はその気さえあればわたしなんて小指一本でつぶせるからだ。
「いやぁあ、君もずいぶんこの世界に染まったな、それともわたしが送った記憶のせいか、ふっふ、まあ、いいや、せっかく来てくれたんだ、送り帰す前になんか聞きたいことがあったら聞くといい。」
正直聞きたいことが山ほどあるが、教えてくれそうなことは...
「実はユナという人が...カルシアさんの部下だったらしいだけど、他にいい方法があれば教えてほしい。」
一通りユナのことや今彼女の状況と自分の考えた方法を説明したあと、わたしはそう聞いた。
「ええと、ユナ、そんな部下いたっけ...うーん、まあ、いいや、君の考えた今の方法でもいいとは思うだが、あくまでも一時的なものだ、もし君の言う通り彼女はわたしの部下だった人ならもうすぐ寿命がくるのだろう、その方法で助けたとしても長くは持たない。」
「じゃどうしたら...」
「簡単だよ、こうすればいい。」
カルシアは幽霊のようにゆらりと近づいて耳打ちしてきた。
まるで美の女神の化身のような女性が至近距離まで近づいてきて耳打ちしてくるなんて本来ならドキドキしていろんな衝動が抑えきれないところだったが、なぜか不思議と冷静にいられて、そして彼女の口から出た言葉を聞いたらなおさら欲情する気がなくなった。
「そんなこと、できるわけっ、そこまでして失敗したらどうするんだ?」
「わたしもここで手伝うから、失敗なんて万が一もないよ、それでも失敗したというのなら、それはそれで頑張ったって自分に言い訳がつくのだろう?」
「わたしは言い訳なんてっ!」
反射的に否定するわたしをカルシアは人差し指を立てて止めた。
「人は自分に言い訳をしながら生きていくものよ、無理強いはしないわ、やるかどうかもやり方も自分で考えなさい。」
そう言ってカルシアは立てた人差し指でわたしの額にツンっと触れ、一つの文字列は頭の中に流れこんできた。
「これは?」
「連絡先よ、やる時これで連絡しなさい。」
「ああ、うん。」
...
「もう聞くことはなさそうね、じゃ戻りなさい。」
無機質に返事したあと黙り込むわたしを見て、カルシアはわたしの胸に手をあてた。
「まっ!」
まだ聞きたいことがあるっと言おうとしたわたしを無視して、その手はほこりを払うようにわたしを突き飛ばした。




