第 125 話
「当然じゃ、妾は最強じゃぞ。」
地下遺跡で封印の暴走と戦っていたわたしたちがようやく封印を解き、神拓界の中に入った。
「はい、はい、さすが最強だ。」
ドヤるテラーを適当にあしらい、わたしは無理やり抱きかかえたミューゼを地面におろし、周りの環境を見回した。
「この人たちがここの原住民か?」
「ええ、そうじゃ、こやつは...ええと、えい、はよう自分で自己紹介せい。」
自分がまだ男の名前を聞いていないことを思い出したテラーは振り返り、男に自己紹介を要求した。
「うん?なにをしておるんじゃ?お前。」
しかし、テラーの振り返った先の男はなぜか地面に跪いていた。
それだけでなく、彼以外の原住民も全員跪いている。
「え?テラーがさせているわけじゃないのか、これ。」
正直自分もかなり驚いていた、入ってよく見たらなぜか全員跪いて、テラーだけがドンと座っていたから、どうせテラーが全員をボコボコにしてさせたんだろうと思って敢えて触れなかったが、まさか自発的な行動だったとは。
「なぜ妾がこんなことさせなきゃならんのじゃ?」
テラーを庇うように、彼女の斜め後ろにいる男は立ち上がり、魔道具を渡してきた。
「その通りでございます、聖女さま、これは決してこちらのお客さんの要求ではございません、我々の聖女さまに対する評価敬意を表わすために行ったことでございます。」
わたしがそれを受け取った後、男は口を開いた。
「聖女さまって、テラーが教えたのか?」
「ど、どうだったかのう、覚えておらんのう...」
絶対言ったじゃん、こいつ。
「聖女さま!我々が聖女さまを聖女さまとして認めたのはお客さんの言葉ではございません、聖女さまのお顔が伝説の聖女の姿と同じだからです。」
ああ、なるほど、ずっと地下にこもってて幻覚魔術なんてかけてなかったからか、そもそもさっきのあの状況かけている余裕も...
いや、待って、こいつらって二千年前の人だよね、なんてカルシアを知っているんだ?
「伝説の聖女というのは?」
「え、聖女さまは聖女さまですが...」
わたしの質問が彼にとってあんまりにも変だったのか、男は首を傾げた。
「いや、その伝説の聖女というのはどういう名前でどんな人なの?」
「聖女さまに名前なんて...」
質問をさらに具体的にしたつもりが、さらに相手を困惑させてしまった。
「それはどういう...」
「よく存じ上げておりませんが、我々の先祖が残した記述によれば、すべての聖女に個々の名前はなく、みんな等しく聖女と呼ばれています、そしてすべての聖女は同じ姿形をされていると...」
マジか、これってつまり今まで思っていた聖女を美しくするという聖女試練の効果はただの勘違いで、本当は歴代の聖女をとある理想の姿に変貌させることである。
問題はこの理想の姿というのは誰のこと?初代の聖女?命神イスラティル自分自身?それとも...
「そのう、聖女さまが来てくださっているということは偉大なる命神イスラティルさまついに我らを...」
突然の情報にわたしが黙り込んでいると男は恐る恐ると聞いてた。
「ああ、命神イスラティルならもういないよ。」
「い、い、いないというのは...」
「死んだ、消えた、隠れた、存在しなくなった、言い方は好きに選んでくれてもかまわないが、とにかく、大崩壊っ、二千年前の君たちをここに閉じ込めたあの事件以来、命神イスラティルを含めたすべての神が地上顕現したことは一度もない。」
男にとってあんまりにもショックな話だったのか、わたしが言葉を口にするたびに彼の体は震え、しまいには両手を地について座り込んだ。
「なんと、しかし、聖女さまがまだおられるということはまだ...」
「残念ながらわたしは君たちが思う聖女とは違う。」
希望を願う眼で見上げてくる男にわたしは容赦なく絶望を叩きつけた。
「たしかにわたしは命神聖女の力を受け継いでいるが、イスラティルを信仰してはいない。わたしたちがここに来たのも君たちを救いにきたわけではなく、ただここにある命神教の遺産が目当てなだけだ。」
落ち込む男を無視してわたしは続けた。
自分の言葉で怒り、悲しみ、絶望、驚愕する原住民たちを見回して、彼らが今の状況を理解する時間を与える。
「そんな...神の恩典も失った我々はいったいどうやって生きていけば...」
「安心しろ、命神イスラティルを信仰しているかは怪しいんだが、この世にはまだ命神教は存在している、君たちは神代や大崩壊の生き証人だから、研究価値は十分にあるんだからこの人に言えば居場所ぐらいはなんとかしてくれる、まあ、病気とかは気を付けた方がいいかもしれないが。」
あ、よく考えたら自分らこんなのこのこと二千年も隔絶された人たち居住地に入って大丈夫なのか?
うーん、もしかしたら無意識にだいぶやばいことやったかもしれん。
まあ、この世界の医療技術は大航海時代、何なら現代の地球より進んでるし、なんとかなるんだろう。
「この方...」
「え?妾?お、おう、そ、そうじゃ、妾は最強じゃからのう。」
たぶん何も聞いていないだろうけど、テラーいい返事をした。
「心より感謝申し上げます。」
テラーに一礼して感謝を述べたあと、彼は立ち上がり、下にある他の原住民に向き直った。
「非常に残念なことに、我々の神は創造主グランの元へ帰られました、ずっと我ら生活を支えてきた神の恩典も見ての通り消え失せ、みんなさんもきっと大変不安でしょう、わたくしも同じです、しかし、我らが同胞のためにもここで歩みを止めるわけにはまいりません、幸い、聖女さまとこちらの客人が我々に新しい道を示してくださった。」
そう言って男はテラーの方向に手を伸ばした。
「これから我らのゆく道はきっと困難と挑戦が溢れる道となるでしょう、どうか、どうか今一度このわたくしとこの新しい時代に生きる道をともに歩んでくれませんか!」
いや、こんな時にいいえなんていうやつおらんやろと内心つっこんでいるところ、案の定、誰一人反対するものはいなかった。
原住民たちの反応を見て男も満足げに振り返った。
「聖女さま、命神教の遺産がお望みでしたよね、どうぞこちらへ。」