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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 115 話

「よし、これで行けそうだね。」

「おめでとうございます、お嬢さま。」

 かつて命神教の教士たちが残した資料、カルシアが遺跡で習得した知識などの先人たちの知恵借り、数日をかけてようやく封印を突破する方法を見つけることができた。

「術式自体がかなり弱ってたおかげでもあるけどね。」

「おう、さすが聖女さまじゃ、複製体でもこれほどの性能とは。」

 何やこいつ。

 自分が作った話とはいえ、こう面と向かってコピーと言われるとさすがにムカついてくる。

「君、デリカシーないって言われたことない?」

「うん?デリカシー?ないんじゃが?」

 何言っているんだって顔で見つめてくるテラー。

「だろうね。」

 正直魔獣にデリカシーを求めるという言葉自体が変だと自分でも思うが、千年も人間社会で生きていれば少しぐらいは学んでほしい。

 まあ、今までそういうこと言われてこなかったのはこいつが関わった人間が「こいつどうせ魔獣だから」っとどこか思っているんだろうなと考えるとこいつを責める気も失せた。

「まあ、いいや、どうせついてくるし、今後の課題にしよう、今はこっちが先だ。」

 机の上に広げられた資料やらを片付け、わたしは例の術式の前に立った。

「やっぱり神力というのは不思議ね、精神力制御もなしに空中でこんなものを作れるなんて。」

 拠り所が一切なく、空中に浮かぶ術式を見て思わず感嘆する。

「うん?別に珍しくもないじゃぞ、妾でもそれぐらいはできる、変身魔術だけじゃが。」

 いや、十分珍しいだろう。

「なるほど、奇跡級以上になればできるということはこれはこの世界の法則やらによって維持されているのか。」

 テラーの力自慢に敢えて触れずに淡々と分析する。

「ミューゼ、刻印粉はどれぐらい持っている?雑原素石入りのやつ。」

「ええと...」

 同じく術式を見つめていたミューゼが呼ばれてはっとなり、慌てて探し出す。

「申し訳ございません、雑原素石入りの刻印粉はあんまり使う機会がありませんので、持ってませんでした。」

「まあ、普通はそうか。」

 ほとんどの人は普段刻印石、つまり原素石の上に刻印を行っているため、刻印粉に原素石を入れる必要はない、ただ今回はかなり大き目な術式をしたためる必要があるので、その規模にあう原素石なんて見つかるはずがないし、例え持ってたとしてもこんなところに使うのは勿体なさすぎる。

「あのう、作りましょうか?」

 わたしの要望に答えられなかったからか、ミューゼはすこし落ち込んだ表情を見せた。

「いや、さすがにそれは面倒くさすぎる、街に出て買って来てくれればいいよ、悪いけどテラーもついててくれないか?」

 ミューゼの提案を却下し、ついてテラーに買い出しの同伴を頼んだ。

「はあ?妾はパシリではないじゃが?彼女一人で行けばよかろう。」

「こんなところで彼女一人で行動させてはいろいろとトラブルになりかねないだろう、それにわたしたちと一緒に旅するならこれぐらいの協力はしてもらわないと困るし、これを機に二人が親睦を深めたらこれからの旅にもいいことしかないよ。」

 まるで子どもをあやすみたいに諭すわたし。

「え~」

 そしてまるで子どもみたいにゴネるテラー。

 何なんだこれ。

「頼むよ、ねぇ。」

「わかった、わかった、行けばよかろう、さあ、ゆくぞ小娘。」

 なんだかんだ言ってテラーは結局ミューゼを連れて部屋を出た。

「どっちのほうが小娘のやら。」

 二人の姿が消えたあとわたしは思わずそうツッコんだ。

「さて、一体何の用のかな?」

 二人を見送ったあと、わたしは封印の解除を着手することもなく、ただ次元倉庫から一冊のノートを取り出した。

 ナディから連絡があったからだ。

 その連絡があったから二人を買い物に行かせたのかといったらそれだけではないんだが、ミューゼはともかくテラーがいたらいろいろと面倒くさくなりそうだからと言うのは大きい。

「どれどれ?ついにナディも王都から出なければいけなくなったのか、あの国王、とっくにナディは偽物だってことを知っているだろうし、バレることを恐れて王都から出さないようにすると思ったけど、ついに臣下たちの圧力に負けたのか?」

 ナディの話によると、彼女が派遣されたのはクップルスクという村で、秘密裏で派遣されたので、久々にナディの本来の姿でいろいろ堪能できたという。

「最低な師匠でごめんね。」

 彼女のその言葉に一切の他意はなく、ただ自分の喜びを大好きな人と分かち合いたいだけだが、だからこそわたしの罪悪感を呼び起こしてしまう、ただ自分の無責任さがために、自分のことを母のように慕ってくれた少女に彼女が負うべきではない重責を負わせた罪悪感を。

 その後に綴るリリアとの楽しい思い出やラフィニアへの不平不満ですこし落ち込んだ気持ちをお持ち直したところ、本題が切り出された。

 それが村で出会った足をなくした少女の話だ。

 連邦軍に村が襲撃され、家族の犠牲のおかげで村から逃げられたものの、必死に逃げていたせいか、足をひどく怪我し、しかも大面積の感染があって、村の薬師の力では足を切断するしかなかったとのこと。

「うーん、足の再生か...」

 正直その子が目の前にいたら助けてあげられなくもないが...

 そう考えながらわたしは筆を執った。

「残念ながら君たちの力では無理だ、状況的難しいだろうけど、聖棘か軍に聞いてみるしかない。」

 うーん。

 少し考えたあとわたしは再び筆を動かす。

「もしそれがだめだったら、戦争が落ち着いたら、彼女を師匠のところに連れて来ればいい。」

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