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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 110 話 

「これが例の封印か?」

 宿屋から徒歩二十分ぐらい離れた軍事施設の地下で、目の前の巨大な術式を見てわたしはそう聞いた。

「そうじゃ、この封印を解けば神拓界のなかに入れるのじゃ。」

 わたしの質問に答えたのは当然テラーである。

 ユナの恥ずかしい姿を堪能したあと、彼女たちと話し合ったが、結局今の状況的にわたしたちにはテラーの提案を受け入れる以外の選択肢はなく、ひとまず受け入れてまたのチャンスを伺うという結論に落ち着いた。

 この結論をテラーに伝えたら彼女は大はしゃぎで、その勢いのままわたしたちをこの場所まで連れてきた。

「見たところずいぶん力が弱ってるし、君なら簡単に壊せるんじゃない?」

 かつての命神が作る直径数十メートルにも及ぶ巨大な術式だが、外周の強化や補助術式はほとんど力を失って機能していない、実際生きているのはコアのである術式のみなので、たとえ神の術式だとしてもここまで弱ってれば凡人でも壊せる。

「弱まっているのはこの術式だけじゃないのじゃよ、この神拓界自体もそうじゃ、もし無理やりこじ開けたら神拓界ごとこわしてしまうじゃろう。」

 なるほど、忘れてたわ。

「それは困ったな、解除方法は解明されていないのか?」

 具体的な時間はわからないが、この場所が発見されてからもう数百年は経ってたんだろうし、かなり研究されたはずだ。

「それが、そもそも解除方法などないのじゃ。」

「どういうことだ?」

「命神教のやつらの話によると、ここは命神が大崩壊から自分の信者を守るための避難所の一つで、本来なら大崩壊後命神自ら封印を解くはずじゃが...」

「すべての神が大崩壊で姿を消したから解除するものがもういないのか。」

「ええ、命神自身も自分の死を予想してなかったのじゃろう、ほかの解除方法など用意されてなかったのじゃ、こっちに神の使う神術式を知るものもいないんじゃし、下手に触って崩壊させたらかなわんじゃから、それ以上の研究はやめさせたのじゃ。」

 たしかに、この遺跡を発見した時、命神教の人おこの地での生活はすでに安定しているし、わざわざ高いリスクを冒す必要もないだろう。

「しっかし、どうするか。」

 短時間で何とかなるならまだしも、封印解除するのに大量の時間を要するならそんなことやってる暇はない、できれば早くその判断をしたい。

 そうと決まればさっそく動くべき。

「ミューゼ。」

「はい!」

 さすが我が自慢のメイド、わたしの一声ですぐわたしの意図を察し、椅子、机、筆記用具など次々と用意され、しまいにはお茶の準備も始めた。

 準備された椅子に座り、わたしは紙を広げて封印の術式の書き写し始めた。

「この術式の研究資料とかはまだ持っている?」

 作業を進めながら、テラーに過去の資料を求めた。

「当然用意しておる、ほれ、これじゃ。」

 そう言ってテラーは次元倉庫からかなり古びた紙束を取り出し、バンと机に置いた。

「ずいぶん古いね、これは昔命神教の人が研究したものなのか?」

 古すぎてちょっと力入れたら紙くずとなって崩れ落ちそうな紙を指でやさしくつまんで一枚一枚確認しながら、テラーに尋ねる。

「そうじゃ、そやつら以外誰がおる?」

 うん?そいつら以外誰が?ってことは...

「テラー自身は研究に参加してないのか?」

 資料の記載が丁寧で細かく参考資料や自分の推論などが書き記してあるから、テラー以外のやつが作ったじゃないかとは思ったけど、まさか。

「こんなちまちましたものなど妾がわかるはずなかろう?見てるだけで目が回ってムカついてくるわい。」

 なんでこんなやつが奇跡級になれるんだよ、この世界バグってんのか?

「はあ、こんなでなんで神獣になれるだよ。」

「知らんわい、なんか力んだらなってたから仕方ないじゃろう。」

 力んだらって神獣ってうんちかなんかか?

「そんなわけあるか、そんなのでなれたらそれこそ奇跡魔術師が街中うじゃうじゃだ。」

「お前ら人間は知らんが、魔獣はみんなそうじゃぞ。」

 人間社会何度も言われたからだろうか、テラーは顔色一つ変えず、ただ肩をすくめてそう言った。

「マジかよ。」

 不公平すぎるんだろう、人間と拮抗できるように創造主によって作られたらしいから何らかの特殊能力はあるんだろうけど、さすがにこれはチートすぎて理不尽ささえ感じるわ。

 そういえば知り合いの中にそんな感じの人いたような...まさかね。

 創造主グランに対する文句を心の中で垂らしてわたしとあることを思い出した。

「待って、もしそうだとしたら、この間の取引、君にその履行能力があるかどうか疑ってしまうんだけど。」

 そう言って、わたしは手を止め、テラーを見つめた。

「なんじゃ、わ、妾は別に噓などついておらんぞ、魔術理論とかそういうちまちましたことがわからないのは確かじゃが、ほら、結論とか、感覚とかいろいろ教えられるじゃろぉぅ。」

 わたしの注視でどんどん声が小さくなっていくテラーを見て、わたしは思った、いまならいいチャンスじゃねぇっと。

「は?それじゃ自分で研究するのと大して変わらないじゃないか?そんなのじゃ条件が釣り合わない、そうだ、一緒に冒険する以上、君にもなにかを提供してもらわないといけないからその結論やら感覚やらを教えてくれ、それならいいだろう。」

「それは違うじゃろ、妾がついていくことでお前たちの安全は守られたのじゃ、そっ...」

「そっちがついていきたいって言っているんだ、わたしたちが死んだら君は誰についていくんだ?だからわたしたちの安全を守るのは君自身のためであって、わたしたちのためではない。」

 反論するテラーの言葉に被せるようにわたしは畳み掛けた。

「うっ、とにかくダメじゃ、そうじゃ、ここは妾がおったから入れたんじゃぞ、それでいいじゃろ。」

「ふーん、交渉決裂だな、帰るぞ、ミューゼ。」

「え?あっ、はい!」

 そのままものを片付け始めるわたしたちを見てテラーは焦り始めた。

「待て!もうわかった、わかったのじゃ、教えるのじゃ、それでよいじゃろ。」

 案外ちょろいな、こいつ。

 行かないでと言わんばかりの表情であっさりと折れてくれるテラーを見てわたしは思わずそう思った。

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