表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
110/152

第 108 話 

「こちらの部屋です。」

 女将に連れられて三階まで上がり、恐らくこの宿屋で一番いい部屋を案内された。

「こんないい部屋大丈夫のか?」

 どうせテラーが貸し切ったし、遠慮する必要はないだろうけど、一応聞いてみた。

「はい、もちろんです、領主さまの大事なお客様ですので。」

 うーん、なんか引っかかる言い方だな、あいつまさか金払ってないで貸し切ったとか?

「あいっ、テラーはいつからいたの?」

「昨日いらっしゃったんです。」

 今朝とかならわかるが、なんで昨日?自分今日ここに来るなんて誰にも言ってないはずだが?

 さすがにたまたまだよね、ハハ。

「そ、そうなんだ、じゃしばらく休憩するので、食事ができたら部屋まで頼むね。」

「はい。」

「あっ、待って。」

 礼をして踵を返そうとする女将を呼び止めた。

「はい、なんでしょうか?」

「食事は簡素なものでいいよ、本当に。」

 テラーがなんか豪勢なやつ振る舞えとか言いだしかねないのであらかじめくぎを刺すとく。

「はい、かしこまりました。」

「はあ。」

 女将を見送り、わたしはため息を吐きつつ部屋の中に入った。

 部屋は深愛には遠く及ばないが、ちゃんと部屋が分けられていて、設備も充実している。

 ソファーに座り、早速結界を張り始める。

「どう思う?ミューゼ。」

「ええと、テラーさまのことでしょうか?テラーさまが同行してくださったら戦力的に心強いし、お嬢さまが良ければ、わたくしは異論ありません。」

 うん?テラーさま?前はあんなに敵視してたのに?

「それ本心で言ってる?」

「それは...はい。」

 いや、これはさすが無理があるだろうよ、ミューゼちゃん。

「ミューゼ、噓をつくなとは言わない、そりゃだれでも知られたくないことの一つや二つはあるからな。」

 わたしだって今朝噓ついたばかりだしな。

「でもこれはわたしたちの今後に関わる大事な話だから、本当の気持ちを言ってほしい。」

「ほ、本当はいやです、噓ついて申し訳ございません。」

 観念したのか、ミューゼは項垂れながら口を開いた。

「なんでそんな噓を?」

「テラーの要求は断れないですし、わたくしがここでいやと駄々こねて困るのはお嬢さまですから、その、つい。」

 あ、もう可愛いなこいつ、いじめたくなってしまうじゃねぇか。

 緊張と不安で指を絡ませたり、服の裾を弄りたりしてるミューゼを見てわたしの内なる何かが目覚めそうだった。

「大丈夫、大丈夫、責めてるわけじゃないから。」

 内なる邪な衝動を抑え、わたしは立ち上がって彼女をやさしく胸に抱きしめた。

「うーん。」

 ミューゼも流れるのままわたしの胸に頭を寄せてきた。

 彼女の頭を撫で、その体から伝わる体温で心がじんわりと温まっていき、ちょっとテラーに感謝の気持ちが湧いてきたその時。

「エレスさま、最近ミューゼのこと甘やかしすぎるんじゃないですか?」

 胸の中の彼女の口から突然発した言葉で温まった心も体もまるで氷水に投げ込まれたように一気に冷え込んだ。

「え、ユ、ユナ?」

「そうですよ、ユナですけど?」

 なにこの浮気現場が彼女におさえられたみたいなシチュエーション。

「別に甘やかしたつもりは...」

「ふーん、主さまに噓をついたにもかかわらず、罰を与えないところか、慰めたり、挙句の果ては抱きしめて頭を撫でるのが甘やかしではないとおっしゃるんですか?」

 これが修羅場ってやつか、まさか自分にこんな経験ができる日が来るなんて思わんかったわ。

 ってか、怒るならちゃんと離れてから怒ってよ、なんでさらにガッツリ抱きしめてるんだよ、しかも頭めっちゃ押しつけてるから声なんかこもるし。

 そう思うと、なんだか怖さが消えてむしろおかしくさえ感じた。

「ふっ。」

「今笑いました?なぜ笑うのですか?ちゃんと反省してますか?」

「反省してる、反省してるよ。」

 できるだけ声を低くして返事したが、口角は上がったままだった。

「本当ですか?もう甘やかさないのですね?」

「いや、それはちょっと...」

 わたしの言葉でユナははじめて頭をわたしの体から離れた。

 手をわたしの腰に回したまま至近距離で見上げてくる彼女、普通ならここでいいムードになってそのまま互いの唇を貪り初めてもおかしくはない状況だが、彼女はかなりお怒りの様子でとてもそんなことできそうにない。

「反省してないじゃないですか!もう!」

 片手だけ腰から離し、前に持ってわたしに猫パンチしようとするその時、わたしはパンチされる前に彼女を思い切り抱きしめた。

「してるぞ、今後はミューゼだけじゃなく、ユナもたっぷり甘やかすって反省しているから。」

「なんですか?それは...ずるいですよ。」

 そう言いつつもユナは特に抵抗したりすることもなく、むしろ逆に抱き返してくれた。

 こうしてこの小さな修羅場は幕を閉じた、わたしはユナと互いの体温を感じ合い、幸せな一時を過ごした、めでたしめでたし、と言いたいところだが、わたしは今すごく熱い。

 見えてはいないが、たぶん激辛料理を食べた後よりも顔や耳を真っ赤にしていると思う。

 なぜなら恥ずかしすぎるからだ、さっきはとっさに言ってしまったが、どう考えてもさっき言葉はやばい。

 気障すぎる、キモすぎる、変なゲームやりすぎて頭おかしくなっちゃったのかって自分にツッコミをいれたい、なにその堂々の二股宣言、きしょい、しねって自分をひっぱたきたい。

 ああああああああああああ、時間魔術とかないかな~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ