第 10 話
曲がりなりにもかつて大陸を統一を遂げたラフィラス聖王国の後継者であるラスタリア王国の王家宝物庫は一般の小国の宝物庫とはレベルが違った。聖王国が世界中からかき集めた宝物の大半は聖王国の崩壊とともに失ったが、その一部を受け継いだだけでもこの小国の宝物庫を大国規模にするのに十分な量だっだ。
まるで国家図書館のように棚は数えられないほど並べられ、棚の上には大きさの異なる箱が詰まっていた。
「これどうやって探すの?管理人、わたしの昔の装備どこにあるのか知ってる?」
「聖女さま関係のものはたぶん一番上の階にあると思います。ドアの横に検索用の魔導器がありますので、もしよろしければお使いください。」
まだ上の階あるのかよ。
宝物庫の大きさに驚きつつも教えた通りにドアの横の机の上にある魔導器を手に取った。
「これか?」
「はい、ここにあるものをすべてリストアップされています、位置は各々の詳細情報のどころに三つの番号が振られていて、順番に何階、どの棚、棚のどの位置を示しています、これと棚や箱に貼られている番号札と対応していますので、どうぞご利用ください。」
おう、まんま図書館みたいな仕組みだな。
「どれどれ、時代で絞り込んで、うーん。」
うわっ、ご丁寧に聖女の使用されたものとかも書いてある、服、椅子、コップ、何でもありかよ。
骨董品って大抵こういうものだと頭でわかっていても、なんかJ◯の使用済み下着みたいな感じでめっちゃ鳥肌が立つ。
その上に、この体の持ち主がめっちゃ美人だったということも考えたら、うぅ、これ以上はやめよう。
それ系のものから目を逸らし、目当てのものを探すと数ページめくった先で見つかった。
聖女が使用された指輪、用途不明、3-13-5。
三階か、この宝物庫三階まであるのかよ。
しっかし、用途不明ってことはかつての聖女はここの王室にも教えていないのか、まあ、それもそうか、教えたら聖王国多分崩壊してないし、この体が復活されることもないわ。
三階に直行し、目当ての棚の付近まで到着したとき、ふっとあることに気づく。
このまま目当てのものに直行しちゃったらまずいんじゃ?
用途不明なものを直行して取るのはさすがにバレバレすぎる、一応聖女の所持品はここら辺の棚集中してるし、全部取るか。体の元の持ち主の話とはいえ、このまま使用済み品をここ置くのは精神衛生的によくないし、ついでにカモフラージュにもなるし、一石二鳥だ。
「ねえ、管理人、ここは魔法使って大丈夫?」
「え、魔法ですか?少々お待ちください。」
数分後。
「本来ならルール上ダメですが、聖女さまのご命令ということで、一旦メインの防衛術式を止めました。下級ぐらいの術式なら使用しても大丈夫です。」
さっきのは上に確認しにいったのかな。
「ああ、それでいい、大した魔法は使わない、箱を運ぶだけだ。」
ふーん、どれどれ、聖女関係のものはこことここの二つの棚で、百件ぐらいあるな、よし。
「ふう」
息を吐き出すと同時に、精神力で魔力を導き、一瞬で術式が描きだされ、魔力光に伴い、聖女関係のものが入っていた箱が一斉に棚から飛び出し、わたしの周りの空中にとどまった。
想定通りに魔法が作用して、心の中でほっとする。正直転生してはじめて人前で魔法を使ったからめっちゃくっちゃ緊張した。
このまま魔法を維持してもいいが、途中でしくじりたくないので、とりあえず出した箱たちを一階まで運ぶ。
一階についてゆっくりと箱を降ろし、箱たちの中身を物色し始める、正直聖女のどんなものが後世に残されたのかが気になるし、もしかしたら使えそうなものがあったりするかもしれない。
服、服、靴、ペン、おいおいおい、肌着まであるんかよ。
聖女の肌着を見つかってちょっと引いたが、よくよく考えたらこれこの体の元の持ち主が着てたものであって、わたしが着てたわけではない。
そう、別のめっちゃ美人のお姉さんが...なんかいい匂いしてきたかも。
は、わたしは何を、今はわたしの体だぞ、しかも千年も前のなんて、我ながら変態が過ぎる。
脳内の雑念を駆除し、箱の山の中身を一件ずつ取り出して分類する作業に取り掛かる。
30分後、宝物庫にある聖女関係のものをすべて分類し終わった。
服や生活用品、祭具など純粋な文物以外に、役立ちそう装備品がいくつかあった。杖、フード付きのマント、お面、ネックレスと長靴だ。全部高級な魔道具であり、千年経って少々古びているが、まだ使えそうだ。
ちなみに魔道具とは今の時代の魔導器とは違う。今の魔導器は原素石や魔導石を使った魔法の発動を補助する道具ですが、魔道具は魔獣素材や魔法植物、魔鉱などを加工して作った道具だ。
魔道具は魔法の刻印こそしていないし、魔法の発動の補助もできないが、素材そのものが特別な能力を持っているので、普段魔法では難しいことを魔道具を使えば簡単にできるようになったりする。例えば、ファンタジー作品でよくある異空間にものを収納するという便利能力、本来なら上級魔法である次元倉庫を使わないとできない芸当だが、次元蛙の胃袋を使った魔道具があれば下級魔術師でも同じことができる。
この五つの魔道具も同様、聖女の使ったものなので、最高級の素材で作られていて、それぞれ特別の能力がある。
そのうち杖、ネックレスと靴は主に戦闘で役立つ能力で、杖は魔力の蓄え、ネックレスは危険察知、靴は浮遊だ。
どれもいい品だけど、この三つより、他の二つのほうが今の自分には重要なアイテムである。フードのほうは影魔の皮で作られていて、被ると気配と魔力が遮断され、姿もまるで薄い霧のように見えにくくなる効果があり、もう一つのお面は千面葛という魔法植物の果実で作られ、顔だけではありますが、奇跡級の変身魔法の効果を再現できる。
聖女カルシアはこの魔道具たちでお忍びでもやっていただろうが、今のわたしにとっては戦争から逃げるための最高のアイテムだ。
目的は果たしたが、せっかくなので、ふたたび魔導器から検索し、宝物庫からまたいくつか、使い捨てアイテムや装備を選び、先ほどの魔道具と一緒に箱に詰め込んで、さらにその他「使用済み品」と一緒に魔法で運び、宝物庫を出た。
閉じられた巨大扉を背に、わたしは「使用済み品」たちをすべて地面に放り投げた
「火」
指先から火の玉が出現し、ゆらりとその使用済み品たちに落ち、瞬く間に燃え広がった。
「え、せ、聖女さま?何をなさるんですか?」
「?もしかしてもう魔法使えなくなったのか?そうだっだらごめんね。」
慌てる管理人の声にわたしはあえてボケてみた。
「そうではなくて、なぜ火を放たれたですか?」
ま、そうなるよね。
「わたしは今ここにいるし、千年前のわたしのものを大事に保管している意味がないと思うけど。」
「いや、それはそうかもしれませんが...」
「それに言ってたよね、宝物庫のものは好きに持って行って構わないと、ならわたしのものをどうするかは君に関係のない話だと思うけど。」
言葉に詰まらせたのか、管理人は数秒沈黙した。
「わかりました、出過ぎたことを言って申し訳ございません。」
「よろしい、持ち出したもののリストをわたしの使った魔導器に残したので、参考にするといいよ。」
そう言い残して、わたしエレベーターに乗り込んだ。
宝物庫 監視部屋
部屋の中には男一人が座っていた。
「帰った?」
部屋のドアが外から開けられ、その隙間から一人の女の子が現れた。
「ああ、帰ったぜ。」
男は背中を背もたれにあずけ、手すりを指先で無意識に叩きながら、さっきまで管理人と名乗った声と同じ声で返事した。
「どうだっだ?」
「どうだっだかな、正直あの死に損ないじじいがあそこまで重要視する理由も、お前らの先祖がそこまで夢中になる理由もなに一つ見当が付かねえ。」
「そう?でもすっごい美人でしょ?」
手すりと指先がぶつかる音が消え、部屋は数秒の静寂が訪れた。
「ああ、美人だよ。」
「へえ、うふふ、うはははははH..」
「てめえ、なにわらってんだ!」
「いや、だってリーくんが、うはは、なんかおもしろくて、うふ。」
「...そんなことより、あのじじいは本気だ、おめえらのご主人さまになにしでかすかわからねえ、接触するなら早めにしたほうがいいぜ。」
「はー、わかってる、上に報告するよ」
真面目な話題に変えられて、女性も笑いを収めた。
「ああ、そうしてくれ、じゃな。」