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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 107 話 

「なんで?」

 予想外人物が突然出てきて、しかも明らか待ち構えられていることに驚いて、わたしは思わずそう呟いた。

「なんでとはなんじゃ、妾が教えた場所じゃから妾がくるのも当然じゃろ?」

 当たり前のように足を組みながら部屋のド真ん中の椅子に座っているテラーがそう言いだした。

 ちなみに今いるこの部屋、見た目から食事処として経営されていたはずだが、今はわたしたちとテラーの三人しかいない、まあ、目の前の人の身分を考えれば当然っちゃ当然だけど。

「いや、そうだが...一応ここの領主なんだから、こんなところにいて大丈夫なのか?」

「よいのじゃ、よいのじゃ、どうせ妾はもう領主ごっごなんてとっくに飽きておったし、ちょうどよい。」

 いや、飽きたって、無責任すぎるだろうこいつ、うん?待って。

「飽きたってまさか領主やめて、わたしたちについていくとか考えてないよね?」

「え?うそ...」

 わたしの読みに後ろのミューゼも驚きを隠せなかった。

「おう、よくわかったなぁ、その通りじゃよ、せっかくじゃし、妾もお前らと青春してみたかったんじゃ。」

「青春って、そんな歳でもないだろう。」

 聖女と同じ時代だから、もう片足ところか体半分棺桶に入ってるようなもんだろう。

「なにを言っておるのじゃ、妾がお前らのような歳のごろはただの一角兎じゃぞ、青春しようにもできなかったのじゃ、悲しかったのじゃぞ。」

 そうなこと言われても、わたしにどうしろと?

 ってかこいつ本体一角兎なのかよ、どうりであんな政策を出したわけだ。

「まさかあの反乱軍たちを見逃した原因もこれか?」

「ええ、もう妾とは関係ないことじゃしな、これでこの地も人間たちの手に戻ったし、文句はなかろう?」

 いや、文句はいっぱいあるよ、領主辞めるのは勝手だが、ついてくるのは文句しかないよ。

「そもそも領主なんて始めたのも騙されたからじゃ、命神教の人について行けば聖女さまと会えると思ってついて行ったら、妾が人間社会のこと知らないことをいいことに、聖女さまがすでに亡くなったことも知らせずに、あれよこれよとまるめ込め、いつの間にか村の長にさせられ、ダラダラと続けさせられたのじゃ、あの命神教の人全員噓つきじゃ、えい、今思い出したら腹が立ってきたわい。」

 たしかにそれはかわいそうだが、千年も騙され続けられる君もどうかと思うがね。

「あのう、騙されたってわかったのもずいぶん昔のことだろう?その後もなんだかんだで領主続けてたし、なんて今さら?」

「仕方がないのじゃ。」

 さっきまで怒りマックスでダラダラと文句垂らしたテラーが急に声が小さくなった。

「え?」

「じゃから仕方がないのじゃ、妾がなんでこんな人間社会に出たと思うのじゃ?聖女さまに会うためじゃよ、そのために弱い種族なのに頑張って頑張って強くなって、森の長の誘いも断って、すべて投げ捨て出てきたというのに、聖女さまがもうとっくにいなくなったって言われたのじゃぞ?そんなの納得できるわけがなかろう?森に帰れるわけがなかろう?」

 それはたしかに、一角兎と言ったら最弱とまでは行かなくとも、繫殖力だけが取り柄と言われるぐらい弱い種族だ。

 生まれた種族によって上限が決まると言われている魔獣の中でそんな弱い種族に生まれたにもかかわらずのし上がって神獣レベルまで到達するのは極めて困難なことだろう、その結果をつくるには涙ぐましい努力、並々ならぬ根性、そして奇跡とも呼べるほどの運、どれも必要不可欠だろう。

 そこまでして達成した目標が目の前に消えて、永遠に達成できないと言われて、そんな連徹してやっと作り上げた資料を提出しようとした時に上司にそれもういらないからと言われるより何千倍のショックを受けるのか想像もつかない、到底納得できるはずがないだろう。

「でもそれほどの実力があれば、森に帰らなくても、別のところで生きることはできるはずだが...」

「妾はあの時まだ四級魔獣じゃ、今ほどの実力はない、そして命神教のやつらにこう脅されたんじゃ、人間社会では奇跡魔術師がそこらじゅうにいて、妾みたいな魔獣が見付かったら即殺されるだろうと。」

 足を組み替え、長い左足の足指で脱げかかった靴をふらふらと揺らしながら、テラーはそう言った。

「いや、そんなバカな話誰が信じるんだよ、奇跡級がそこら中にいるなんて..うん?まさか、信じた?」

 あんまりにも無理のある脅しでツッコミをいれたところ、テラーがまるで時間止まったみたいに固まったから、恐る恐る聞いてみることにした。

「仕方がないのじゃ、小っちゃいごろから人間怖い怖いって聞かせられてたんじゃ、実際人間は強かった、魔獣は自分の縄張りを守ることしかできないぐらいじゃ、正直人間同士の争いがなかったら、魔獣は絶滅してもおかしくなかったのじゃ。」

「いや、さすがに嘘だよね...」

 カルシアの記憶では魔獣災害とか普通に起きていたし、実際たくさんの人間が魔獣に殺されたところ見てきた。

 大陸統一戦争が起こった後の話はわからないが、そこまでの変化が起きるとは思えない。

「噓をついて妾に何の得があるのじゃ?今の時代を生きるお前らからしたら信じられない話かもしれんじゃが、あの時人間は本当強かった、大崩壊後の暗黒時代を生き抜いた強者たちがまだ存命で、そこらじゅうにとまでは言わなくとも奇跡級の数は今よりずっと多かったのじゃよ、聖女さまが現れる前までは、じゃが。」

「じゃ、その話はちょっと大袈裟だけど、あらがち噓じゃないってこと?」

「違う!聖女さまが現れるまでと言ったんじゃろ、大陸統一戦争で百を超えた奇跡魔術師の数は二桁を切ったのじゃ、そのほとんどが聖女さまが手を下したじゃから、あいつらが知らないはずがないんじゃ。」

 たしかにそれは騙しにきている、フォローのしようもないわ、ってかカルシアヤバすぎじゃない?

「そ、そうなんだ。」

「ええ、そうやって引き止められ続けて、いつの間にかデカい町がたてて、妾もすっかりこの生活に慣れてしまった、ぬるま湯じゃよぬるま湯、この恐ろしいぬるま湯に浸かって妾もぬけるタイミングをすっかりなくしてしまったんじゃ。」

「そ、そうか。」

 いや、なんかいろいろ言い訳してるけど、結局お前自身の意志が弱かっただけじゃん。

「じゃからお前らが来ていいきっかけになったのじゃ、妾もこれでこのぬるま湯とおさらばじゃよ。」

 正直こいつがいるのは心強いが、それ以上に怖い。

 自分から面倒事に首を突っ込まなければ今でも戦力は十分だし、わざわざいつどこで爆発するかわからない爆弾を抱える必要はないが、わたしに拒否権はあるのか?

 いや、ないだろう。

 ドヤ顔でついてくる気満々のテラーを見てわたしはそう判断した。

「はあ、わかったから、その話は一旦置いといて、まずは食事をもらいたいけど。」

「そうじゃな、用意させるから待っておれ。」

「その前にすこし部屋で休みたいから、食事は部屋まで持っててほしい。」

「おう。」

 そう言ってテラーが手をたたくと裏からおおよそ三十代の女性があらわれた。

 女性はテラーと違って肌の露出はほとんどない深い緑色の服を着ていてこっちと目が合った途端頭を下げて礼をした。

 この宿屋の女将とかかな。

 そう思って近づいたら、彼女は二階への階段のほうに手を伸ばし、口を開いた。

「お客さま、こちらへどうぞ。」

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