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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 106 話 

 旅館から魔導列車でテラー城の外壁までたどり着き、わたしたちはいま関所で通関を待っている。

「お嬢さま、直接魔導列車でいかないのですか?結構遠いと聞きますが。」

 あっ、そういえばそれがあった、使ったことないから完全にその存在を忘れてしまったわ。

 でももうきてしまった以上、引き返すのもかっこ悪いし、どうしよう。

「あっ、ああ、それは、ええと、次の列車までかなりの時間あるから、直接行ったほうがはやいんだ。」

 慌てて適当な理由をつけて誤魔化したが、正直調べればすぐバレるような噓だ。

 しかし、もう口にしたことは取り消せない、ミューゼがわたしを信じて調べないことを祈るしかない。

「そういうことですか。」

 幸いミューゼは特に疑うこともなく、素直に受け入れたが、逆にわたしがそんなわたしに全面的に信頼を置いた彼女をだましたことにすこし罪悪感を覚えてしまう。

「コホン、そろそろだな、いこう。」

 自分の気持ちによる気まずさから逃げるため話題を探そうとしたところ、ちょうど順番が近くなってることに気づき、わたしはミューゼの手を引いて、通関手続きの窓口へと向かった。

 無事に通関手続きを終え、わたしたちは十日ぶりに荒野の空気を吸った。

「なんか街の中よりこっちのほうが好きだわ~」

 テラー周辺の「荒野」はカルサル周辺の草木が繫茂している「荒野」と違ってかなり荒野という名に相応しい土層が薄く、岩山が乱立している土地であるが、それでも心なしか空気うまいように感じた。

「そうなんですか?」

「ええ、そうよ。」

 たしかに町はいろんな新しい文化や面白いものがあって興味深いではあるが、自分はそんなことより魔術の研究をやってたほうが楽しさを感じる、そしてなにより、町の中で住んでいると昔地球で引きこもっていた時の生活を思い出してしまい、そこからいろいろどうしようもないことを考えてしまう。

 それがホームシックと呼べばものなのか、それともただの中二病発作で、悲しみにくれている自分に酔っているだけなのか、どっちかはわからないが、そんな気持ちになること自体はよくないことだと理解はしている。

「もともとわたしはあんまり人付き合いとか好きなほうではないんで、荒野のほうがストレスフリーで好きだよ、さて、行くか。」

 あんまりこういうことを語ってもしょうがないので、わたしはいきなりしゃがみ、ミューゼの足をすくって、彼女をそのままお姫様抱っこした。

「お、お嬢さま?!い、いきなりなにを?!」

「もうこそこそする必要もなくなったし、このまま目的地まで飛んだほうがはやいから。」

 地下列車のことを忘れたことを失敗したと思ってたが、逆にミューゼとスキンシップできるチャンスを作って良かったかもしれん。

「じ、自分で飛べます!」

「わたしが抱っこしてたほうがはやいだろう、ごちゃごちゃ言わずにしっかりつかまりな。」

 ミューゼの異議を封じて、わたしは有無を言わさずに飛行魔術を発動した。

「え?!待って、お嬢さっ!」

 一時間後。

 テラー南西方面のコルカー村外

 小一時間の飛行を経て、わたしたち目的地の村に到着した。

「お嬢さま。」

 着地して降ろされて早々、ミューゼはわたしに声かけた。

「な、なに?」

「わざとスピード落としてませんか?」

 やばっ、バレっちゃったわ。

 いや、だってミューゼ反応可愛すぎるだもん、仕方がないじゃん。

 最初首に回してつかまってきてたから、ガチ恋距離で照れててそっぽ向くのも可愛いし、お姫様抱っこでわたしとミューゼの胸が当たっててというか、押し合っていたのでわざと揺らしてちょっとこすり合わせたら赤くなってわたしの胸に触れないように人差し指ですこしずつ自分の胸にをずらしたり、押し込んだりしてるところをわたしの胸で押し当ててその指を挟んでやったらまるで感電したようにスッと指を引いて、耳を真っ赤にしてるのがもう、可愛すぎて死んでまう。

「ほえ、なんのことかな、あっ、景色が良すぎて見惚れちゃって遅くなっちゃったかも。」

 まあ、噓は言ってない、何の景色とは言わないけど。

「本当ですか?」

「ええ、本当、本当。」

 必死に頷くわたし。

「わかりました、そういうことにしておきます。」

「うん、うん?」

 あれ?そういうことにしておきます?なんか信頼度落ちてません?

「まあ、それは置いといて、いい時間だし、はやく入ろう。」

 このままこの話をしてたら信頼度がガンガン落ちる気がしたので、ミューゼの両肩に手を置いて彼女を押しながら村の入り口へと進む。

 当たり前かもしれないが、コルカー村の入り口はテラーみたいにちゃんとした検問施設はなく、数人のやる気のなさそうな衛兵が立っていただけだ。

 出入が全くなくて暇だっだからか、わたしたちが近づいてくるのを気づいた途端、衛兵たちが一斉にこっちに向いた。

 一応幻覚魔術はちゃんと機能しているので見られたところで何もないが、一瞬で集まってくる視線にミューゼはすこし足がすくんだ。

 それに気づいたわたしは当然彼女の後ろ出て、衛兵たちの視線を遮るように彼女の前に立った。

「何を見ている?」

 怒りでわずか精神力が漏れたのか、衛兵たちはすぐ視線をはずした。

「あのう、すみません、手続きならこちらへどうぞ。」

 他の衛兵がすべて知らない顔して忙しいふりをするのを見て、わたしたちから一番近い衛兵が恐る恐る口を開いた。

「うん。」

 淡々と手続きを済まし、担当の衛兵がやっと終わったって感じで気を緩めた時、わたしは口を開いた。

「おい、この場所わかるか?」

 わたしがそう言って机を指で叩くと文字が一つ一つ浮かび上がり、ある場所の位置を示した。

「あっ、ええと...」

 知らなかったのか、緊張して何も言えなかったのかわからないが、わたしは無視して続けた。

「この付近で宿屋はあるか?」

「ええと...あっ、ここにパンフレットがあります!」

 まるでナイフに突き付けられているかのように衛兵は慌てて引き出しから一冊のパンフレットを取り出し、両手で渡してきた。

「うん、いこう。」

 衛兵からそのパンフレットを受け取り、わたしはミューゼの手を引いて村の中へと入った。

 そして、パンフレットを頼りに例の場所の近くの飯屋も兼業している宿屋に到着し、入ってみるとそこには予想外の人が座っていた。

「遅いのじゃ、待ちくたびれたぞ。」

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