第 105 話
テラー
旅館深愛付近のとある部屋。
「はあ、ここはあんたの研究室じゃないんだから、そんなもんを散らかすなよ。」
見張りの交代をしに来たヴァーレンは部屋に入った途端文句を垂らした。
実際二十平米ぐらいの部屋になにかの生物のパーツやら薬品やらがあっちこっちで散らかっていて、もはやなにかの邪教の儀式場にしか見えないから、仕方がない。
「そんなもんとはなんだ、美しいもの見せてくれてありがとうだろうが、というか触るなよ。」
「触らねえよ、こんなもの美しいっていうのはお前だけだぞ、近所とかに見られたらどうすんだよ、面倒事増やさないでくれ。」
散らかっているブツを避けながら、ヴァーレンは部屋の隅の椅子に座った。
「ちゃんと結界は張ってあるからばれたりはしないよ。」
「はあ、組んでる人みんな変人ばっかで俺も苦労人だぜぇ、ってか研究ばっかりして見張りは大丈夫だろうな。」
「ふん、俺を何だと思っている、見張りならベントちゃんに頼んである。」
「ベントちゃんって...」
誰だよって聞こうとしたヴァーレンだが、ふっと窓のほうを見ると窓横の壁によくわからない変な生き物が張り付いていた。
「お前、本当便利やな、もう見張りとか面倒な作業全部お前に任せればよくない?」
「押し付けようとするな。」
わき目もせずにハーヴィーはコレクションのメンテナンスをしながら断った。
「本当ケチやな、まあ見張りはもういいみたいだからいいけど。」
「どういうことだ?」
「はあ、怪力やろうが死んで、かなり騒ぎになってさ、安全を期して、うちらも聖女の周りから引き上げることになった。」
「怪力やろう?ブルーノか?あいつ死んだぐらいで?」
なにも知らない反応をするハーヴィーにヴァーレンは呆れた顔をした。
「お前マジかよ、かなり騒ぎになってたぞ、一級調査員、しかも一級の中でもかなりの実力者が死なせるのはなにごとだってカロスのじじい青筋ぴっきぴき立てて怒ってたらしいぞ。」
「ふん、あいつ実力は一級だが、知力レベルは子供レベルだから下手を打つのは時間の問題だろう、いや、食うことと殴ることしか考えてないから普通の子供よりたちが悪いか。」
「いや、お前だって死体のことしか考えてないだろう。」
ブルーノのことをバカにするハーヴィーをヴァーレンは小声でツッコミをいれた。
「今なんて?」
「なんでもないよ、まあ、それだけが理由ってわけじゃない、言われたわけじゃないが、今俺たちがつけているこの聖女さま、本物じゃないらしい。」
そう言ってヴァーレンは椅子から立ち上がった。
「はあ?いや、それは...」
ハーヴィーが今までエレスと接触したときのことを思い出し、確かに疑問にを思う点はあった。
「あくまでも噂だ、どっちにしろもう俺らには関係ない、次の任務は精霊王国だから、早めに出発しないといけない、南のセーフハウスで待ってるからさっさと片付けてきてくれ。」
そう言ってヴァーレンはそのまま部屋を出た。
「はあ、しょうがねぇ、だってよみんな。」
ハーヴィーの言葉で部屋で寝転がっている死体たち一斉に立ち上がり、片付けを始め、瞬く間に散らかった部屋はきれいに片付けられた。
そしてハーヴィーがその子たちと部屋を出てしばらくしたあと、部屋の窓から千メートル以上離れた旅館の玄関でエレスとミューゼが現れた。
「お嬢さま、今日はどちらに?」
「うん?そういえば言ってなかったね、大聖堂地下でテラーから聞いた話覚えてる?」
「ええと、どの話ですか?」
まあ、たしかに大聖堂地下でテラーといろいろ話した、反乱軍の話しとか、カルシアの昔の功績とか、正直ほとんどは自分が興味のない話ですでに記憶から消えかかっているが、一つだけおいしい話があった。
「遺跡の話だよ。」
大聖堂地下でテラーと話した時、さすが所有者のまえではまずいとは思ったが、ダメもとで遺跡の話をやんわり聞いた。
正直いい返事は期待してなかったが、テラーは意外といろいろ教えてくれた。
まずは大聖堂地下の遺跡についてだが、あそこ実は付属遺跡で、メインの遺跡ではない、当時の命神教の生き残りは大まかな遺跡の位置を把握しているものの、遺跡の具体的規模や種類などは把握してなかった。
加えて追手から逃げてきた焦りもあり、具体的調べたりせずに最初に発見した遺跡の付近で村を先に建ててしまった。
あとで遺跡の規模が小さすぎるとわかった時はもう時すでに遅し、町を遷移することもうは出来なかった。
「本当の遺跡の話ですか?」
「本当じゃなくて、主要の遺跡ね。」
大聖堂地下の遺跡は何もなかったが、聖女が口にした遺跡は当然存在していて、それがこの町から離れているとこで発見された。
テラーが発展されて、余力ができたら当然そっちも発掘を進めていて、ほとんどのものが取り出されたが、まだ一番重要なものが残されていて、厳重に保管されている。
「神拓界、でしたっけ?どんなものでしょうか?」
「今の時代ではもうなかなか見ないからね、うーん、簡単に言えば神が信者たちを集中させるために作った空間だね。」
「集中、ですか?」
「ええ、最初は主に祭事とか参拝とか、言わば神の威光を示すための場所なんだけど、大崩壊前のごろは信者たちを崩壊から守ることに使われているらしい。」
正直かなり昔の話で自分が言ってることも全部正しいとは限らない、ただカルシアが昔調べた限りではそうだったらしいので、少なくとも今の時代の研究よりは信憑性はあるだろう。
「神の威光を示すのになぜその空間を作らないといけないのですか?」
「この世界、グラントゥギアはあくまでも創造主が作ったもの、神々はあくまでもその創造主から役割を与えられたものたちに過ぎないので、この世界で与えられた権限以外の法則捻じ曲げることはできない、だから自分たちの空間を作って、その中で好きなように暴れるってわけだ。」
「そうですか、なんかすこし楽しみです。」
「ふ、そんなにいいところでもないけどね。」