第 104 話
「どうしよう、今度こそ死んじゃうよ、リリ姉。」
双蓮宮の寝室内で、ナディアーナはまるで倒れるようにリリアの胸に泣きついた、まるで子供のように抱きついてくるナディだが、リリアより身長高いせいで、絵面的なんとも言えない違和感を感じてしまう。
「ちょっと離しなさい、ここに残った時点で覚悟はできていたんじゃないですか?」
抱きついてくるナディをリリアは彼女の手をはがそうとしたが、当然ナディはそう簡単に離したりしない。
「できています、できてはいますよぅ、でもやっぱりあんな化け物と戦うの怖いじゃないかぁ、リリ姉も見たんでしょう。」
「ええ、たしかに理解出来なくはないんですが...」
正直リリアもあんなまるで揉みくちゃったティッシュみたいにねじられた魔導装甲なんて見たことがないし、自分があんな風に潰されるのを想像してみたら寒気がする。
「でしょう~怖いよ~」
そう言ってナディはリリアの胸に自分の顔を埋め、ぐりぐりし始めた。
「ちょ、なにを?!」
力ずくでナディアーナを引っぺがそうとするも彼女の馬鹿力でかなわず、仕方がないとリリアはナディアーナの頭を固定するために抱きしめた。
「はあ、ほんと馬鹿な子ですね。」
「馬鹿じゃないもん。」
「ふっ、はいはい。まだ陛下の意図は掴めてませんし、怯えるにはまだはやいじゃありません?」
国王から聖女さまに共有するようにと言われ、グレンから例の映像と議事録が送られたが、それ以上なにか指示があるわけでもなければ、いつこれについて討論するとかも言われていない。
「でも...」
「あっ、聖女さまに聞いてみてはどうですか、前々からあの異世界人のことに興味をお持ちだったようですし、もしかしたらなにか方法があるかもしれませんよ。」
「師匠に...」
さすがの師匠大好きナディアーナ、師匠の話となるとすぐに反応した。
「ええ、もしかしたらなにかいい方法があるかもしれませんよ。」
「わかった。」
次の瞬間、さっきまでリリアにくっついてたナディアーナぽっとリリアから離れた、しかもそれだけでなく、リリアの体を180度回転させ、寝室の外に押し出そうとした。
「ちょっと、いきなりなんですか?」
「師匠に聞いてみるから、リリ姉は外で待ってて。」
「え~、さすがにそれは...」
パン!
「ちょっ!」
力ずくで追い出され、目の前でドア閉じられ、さすがのリリアも思わず地団駄を踏んだ。
「師匠、師匠、師匠ばっかり、バカ、ふん。」
そう言い残し、リリアはそのままメイド待機室を出た。
二十分後。
「リリ姉!」
少し前までの落ち込みが噓みたいにナディアーナが元気な声を上げながら寝室のドアを開けた。
「あれ?リリ姉?」
空っぽの待機室を見回してナディアーナはすこし戸惑ったが、すぐ魔導器を取り出してリリアに通信をかけた。
「リリ姉、もうどこに行ったの?待っててって言ったのに~」
通信が繋がった途端文句をたらすナディアーナ。
「どこもなにも、ここですよ。」
「ここってどっ。」
なんだか後ろから聞こえてくるリリアの返事に反応してナディアーナが振り返ってみると、彼女がいつの間にかそこで入り口のどころで立っていた。
「そこで待ち伏せでもしてたん?意地悪っす。」
「誰が待ち伏せなんかするんですか、そろそろ終わるごろと思って戻ってきただけです。」
そう言って、リリアはナディアーナへと近づき、魔導通信を切った。
「で?聖女さまからは方法教授されました?」
「それはもうバッチリよ、さすが師匠。」
「本当ですか、それは良かったですね。」
口ではそういうリリアだが、内心はかなり驚いている。
自分から聖女さまに助けを求めると言ったものの、正直なにか対策を提示されることは期待してなかったからだ。
「ちなみにどんな方法をおっしゃったんですか?」
「うーん、なんかね、ちょっと変わった記号をくれて、で、もしあの化け物にあったらその記号を見せるように言われた。」
「記号、ですか?」
ナディアーナは聖女さまに絶対的な信頼があるからよく分からなくてもバッチリとか言えるが、リリアはそう簡単には納得しなかった。
「うん、これ、なにかの言葉だと思うけど。」
ナディ自身もなんの記号か知りたかったのか、いつもの秘密主義を変えて、一枚の紙を取り出してリリアに見せた。
「これは...」
紙にはいくつかの記号が並べられていて、その記号はどれも見慣れないものであるが、リリアはなんとなくどこかで見たことあるような気がした。
「どこかで見たことあるような...どこでしたっけ?」
「え?本当?どんな意味なの?」
「いや、意味までは...、あっ、思い出しました。」
ナディアーナのしつこい質問に無意識に返事してたら、リリアはふっと思い出した。
「え、本当?はやく教えて。」
そしてナディは早速食いついてリリアの手を掴んだ。
「ノラン教国の宗教儀式で似たような文字使われているのを思い出しただけです、たしか神の文字だとか言われているはず、どんな意味かはわかりませんが。」
「え~、そんな。」
「知りたいのなら、直接聖女さまに聞けばいいのでは?」
リリアの言葉を聞いてナディはムッと唇を尖らせた。
「聞いたよ、でも教えてくれないんだもん、とにかく見せなさい、向こうが聞いてきたら、わたしに連絡するように言えばいいからって、なによ、教えてくれたっていいじゃんか。」
「ふっ、聖女さまには聖女さまの考えがあるのでしょう。」
むっとなっているナディの頭を撫でながら、リリアは笑顔で慰めた。




