第 103 話
ラスタリア王国 王都カルサル
とある会議室の中に王国の重鎮たちが重い表情で座っている。
「では始めましょうか、グレン。」
上座で座っている国王マルセルが会議開始の合図を出した。
「はい、ええと、この度みんなさんをお招きしたのはほかでもなく、タスカトラの砦の戦いのことであります、では、まず、こちらの映像をご覧ください。」
グレンの言葉と共に、会議室にある数個のモニターから同時に映像が流れ出した。
映像の画角からして誰か胸あたりに装備されているカメラから撮ったもので、周りの景色からしてとある兵士が軍営で撮影したのだろう。
映像の開始十数秒は空を掠める魔導砲の発射のよる魔力光以外は特に変わった様子はなかったが、突然軍営の中で物凄い轟音が響いた。
そこからはまさにカオスだった、轟音、悲鳴、銃声、全ての音が交互に響き、撮影者もなにが起こっているか分からず、ただぼうっと立っていて周りの兵士になにが起こっているかと聞き続けていただけだった。
そしてついに、彼のところに事件の発生地から逃げてきた兵士が訪れた。
「化け物だ、逃げろ!」
撮影者から尋ねられた時兵士はその言葉だけを残し、撮影者の制止を振り切って逃げた。
そして撮影者は好奇心に駆られたのか、それともただ度胸がありすぎたのか、兵士の忠告も聞かずに、逃げてきた兵士たちと逆走して、轟音の源へと進んだ。
そして彼が見たのはまさに地獄の光景だった。
軍営を守る結界の中核の付近で数え切れないほどの魔導装甲と魔導機械の残骸が転がっていた、どの残骸も酷く損傷され、その捻じ曲げ具合とその隙間からブクブクと滲み出る血から何にいる兵士はどんな状態か簡単に想像できてしまう。
撮影者がこの地獄絵図を見て、ぼうっとしている時軍営の上を覆っていた結界がポツンと消えた、そして彼がそのことで驚いた時、結界の中核のある部屋から一人の男が現れ、次の瞬間映像が途切れた。
「この後の映像は軍のコアにはあげられていないため、たぶん撮影してる魔導装甲が破壊されたのでしょう。」
軍用の魔導装甲には迅速に前線の状況を知るため、映像の自動録画、アップロードの機能が存在する、この機能は魔導装甲のコア術式に組み込まれているので、映像が途絶えたことは魔導装甲のコアの破損を意味する。
「映像の最後に現れた人は?」
参会した重鎮の一人が素朴な疑問を口にした。
「まだ確定できていませんが、数か月前に噂された勇者と言われる異世界人のことだと思われます。そのものが何らかの方法で軍の結界を通り抜け、中から結界の中核を襲撃し、結界を破壊しました。」
「何らかの方法ってつまりその手口はまだ掴めていないということだな。」
「はい、残念ながら、それにたとえ掴めたとしても短時間で対策することは困難でしょう。」
グレンの言葉に参会者全員がまるでお通夜みたいな表情で沈黙した。
それだけこの世界の戦争に置いて大型軍用結界が大事ってことだ、敵の魔導砲などの遠距離攻撃から探査魔術などの情報収集手段や敵の高レベル魔術師の不意打ちまであらゆる敵対行為から守ってくれる優れもの。
それがあるかないかで戦争の形態自体が大幅変わってしまう、その大事な結界が今簡単にすり抜かれたってなると、もはやこの戦争を続ける意味があるのかと考えてしまう。
「そうなったらもはや勝ち目などの話ではない、一か月持ちこたえることすら難しいでしょう、無駄なっ。」
「これしきのことで心折れるのか!恥を知れ!ウスマン!」
隙あらば投降を勧めるウスマンをいつものごとくクリロフが怒鳴った。
「は?これしき?お前常識ないのか?ああ?!バカだとは思ったが、ここまでとは思わんかったわ。」
「なんだと?このたまっ!」
「これぐらいにしろ!」
またもやいつもの喧嘩が勃発するところ、国王が二人を一喝した。
「はあ、軍の意見を聞きたい。」
二人が黙り込んだのを見て、マルセルがため息をついたあと、参会している軍の関係者に意見を求めた。
「もし連邦が我々の結界を簡単に破壊できる手段を持っているのであれば、恐縮ですが、降参したほうが損害が少ないと思います。」
「ほら!聞いたか、野蛮人が。」
「黙ってろ、ウスマン。」
いきるウスマンをマルセルは再び黙らせた。
「コホン、しかし、例の異世界人直接結界の外部からではなく、結界の内部に入り込み、結界のコアを破壊したという点から見て、連邦は少人数の部隊を結界内部に送り込ませることができたが、直接外部から結界を破壊することまではできていないようです、つまり、もし内部に侵入する敵を排除でき、結界のコアさえ守ることができれば、まだ勝算はゼロではないかと。」
「たしかにその通りかもしれんが、この映像を見る限りそれも難しいんじゃ?」
「はい、なので僭越ながら聖女さまの出陣を提案します!」
「聖女さま?!」
大胆な提案に参会者みんなが驚いた。
「はい、全国各地の要害の地に超遠距離転移の術式仕込み、結界が侵入されたら起動させ、聖女さまを向かわせたら、結界を守ることができるのではないかと愚考いたします。」
「それは...」
ほかの参会者がその方法を聞いてなるほどと笑顔が戻ったところ、なぜか国王自身が眉を顰めた。
「この件については聖女さまとの協議が必要なので、一旦置いておく、他に方法がある引き続き調査と研究を。」
参会者の疑問を放置したまま、話は無理矢理進められた。