第 100 話
ラスタリア王国 双蓮宮 廊下
「実はうちの父も...ようと考えているんですよ、本当どうなるんでしょうね。」
「えー、うそ、じゃあなたはどうするんですか?辞めるなんてはできないでしょう?」
廊下の窓ので二人のメイドがヒソヒソと話をしている。
「わかりませんわ、でもここなら案外安全かもしれなくてよ?ほら、あっ、聖女さま!ごきげんよう!」
「ごきげんよう、聖女さま!」
メイドの一人が話してる途中でたまたま頭を上げたら、横に聖女さまが立っていたことに気づき、慌てて挨拶をした、それに気付かされもう一人のメイドも同様に挨拶をした。
「内緒話は人のいないところでするように、ね。」
「「も、申し訳ございません!」」
まるで石化したように体をこわばった二人を見て、ナディはなぜかおかしく感じた。
「ふ、もう行っていいよ。」
「はい!失礼いたします!」
「ついにここのメイドたちまでか。」
早くこの場を離れたくても走るわけには行かず、できるだけ足早に遠ざかっていくメイドたちを見送り、ナディアーナのとなりに立っているリリアが呟いた。
「仕方ないよ、次の瞬間で戦争が始まってもおかしくないような状況だからさ。」
「それもそうですね。」
ここ最近、ナディアーナは双蓮宮内でかなり平和な時間を過ごせたが、その裏には戦争の準備に忙殺されている王国官僚たちがいる、その官僚たちの娘や親せきが王宮に勤めるケースが少なくないので、徐々にその緊張感が王宮内にも広がりつつある。
「戦争か、昔は想像もしてなかったな。」
たとえ双蓮宮の中に閉じ込められているたとしても、ニュースやたまにくるグレンの報告から見て戦争が目の前に迫っていることはわかる、そして自分はまさにその渦中にいるという、聖女に出会う前のナディアーナなら想像もできないでしょう。
「な、聖女さまはどうするおつもりですか?」
「どうするもなにも、わたしに選択肢なんてある?は、ここに残ることを選んだ以上、簡単に引くつもりはないよ、師匠とも約束したしな。」
「そうですか...その師匠は今どこにいるのでしょうか...」
リリアのつぶやきを聞いて、ナディアーナはふっと足を止めて振り返った。
そしてまるで幽霊でも見たような顔でリリアを見た。
「ど、どうしたんですか?」
「リリ姉が師匠の悪口を言うなんて始めてだから。」
「わ、悪口なんてい、言ってません!」
リリアは慌ててナディの言葉を否定した。
「まあ、たしかに悪口ってほとではなかったけど、師匠のこと疑っているのは間違いないよね。」
「そ、それは...」
リリアはなにも言い返せなかった、実際戦争の足音がそこまできているというのに聖女は戻ってこないし、何の音沙汰もない、心の中に何の疑問も持っていないと言ったら噓である。
「あーあ、師匠にチクっちゃうかな~」
「え?ちょっと、やめっ。」
リリアが背伸びしながらふたたび前に進み始めるナディを追いかけると、横のドアが開き、ラフィニアが重い面持ちでまっすぐに彼女たちのところに向かってきた。
「どうしたんですか?」
ラフィニアの表情からなにかよくないものを読み取ったのか、リリアもナディアーナもすっと表情を変えた。
そんな二人の前にラフィニアは立ち止まり、二人の顔を交互に見たあと、ゆっくりと口を開いた。
「連邦軍が、国境を越えた。」
一時間前
占領されたオークア王国とラスタリア王国国境線付近
第○○一特別兵団の会議室内、田中、ユニーとゼインの三人が座っている。
三人のうち、田中はいつも通りまるでこの世ではない別次元を見つめているようにぼうっとしていて、彼と対照にほかの二人はかなり神妙な面持ちである。
「ゼイン副団長、これからくだされる命令とやらについて何か予想がありますか?」
「命令?ラスタリア進軍以外ないと思うんだが...」
「それはわかりますが、具体的には?」
ユニーの質問を聞いて、ゼインは椅子の背もたれに寄りかかってしばらく考え込んだ。
「わからないが、上層部がどんな形でこの戦争を終わらそうとしているかによるかと。」
「戦争の終わり?それを考えるのはまだ早いのでは?」
「はやいことはない、戦争とは政治の一部、始まる前にその終わりを考えなければいけない。」
「なるほど、じゃ副団長はこの戦争がどんな形で終わると思います?」
「俺を買いかぶりすぎだ、そんなたいそれたこと、俺には荷が重すぎる、が...」
「が?」
ゼイン自身が語りだすのを待たずに、ユニーは聞いた。
それも無理もない、田中のお世話係として秘書官についたものの、軍事についてはからっきしなので、田中の状態がここまで悪化した今、頼れるのはゼインしかいない。
「戦場全体ひいて国家レベルの話を予測するのは無理だが、我が団に与える命令についてならある程度予想できなくはない、まずはもし連邦の落とし所が今占領した小国二つひいてはそれ以下の場合、我々に下される命令は電撃戦かと。」
「え?土地要らないのにですか?」
ユニーは自分の耳を疑った、それ以上の土地が要らないなら防御固めればいいのでは?
「ええ、最終的にはいらないんだが、放棄するためにできるだけ多くの土地が必要なので。」
「放棄するため?それって...」
なにか思いついたように口ぶりのユニーだが、ゼインは気にせず続けた。
「はい、逆に考えてください、もし我々今戦果に満足して、停戦を選択した場合、連邦はたしかにそれ以上の消耗を減らせて万々歳だが、共和国側は応じるのか?共和国自身だけならそれでもいいかもしれんが、その同盟国はそうはいかない、東大陸同盟を維持するためにも共和国は出兵し戦果を上げなければいけない。」
「だから今の占領地を守るためにはもっと領土を広げなければならない...」
「そう通り、その場合、我々がこれから流す血は共和国の戦果を作るために流しているっということなるだろう。」
「東大陸同盟の体裁を保つためだけに...」
「ええ、残念ながら、で、もう一つの可能性、正直ないと思うんだが、今回の戦争の動機が謎すぎたので排除はできっ」
「待って。」
ゼインが話を続けようとしたとき、ユニーは魔導器を取り出し、片手をあげてゼインの話を止めた。
しばらく魔導器をいじったあと、ユニーが口を開いた。
「はあ、我々、連邦直属第○○一特別兵団を主力として、第一三六航空団、第〇六四砲兵団、第〇三六工兵隊を率いて、ヤストイ川を渡り、三日以内でタスカトラの砦を落とせだそうだ。」
「まじか、三日...」
無茶な軍令を見て頭抱えるせいで、軍令を聞いて田中が目を光らせていることを誰も気付かなかった。
また上げるのを忘れてしまいました、最近忙しいすぎて頭が働かないんですわ。