第 99 話
「ほう、よく言うじゃのう、そうじゃな、妾は魔獣、それは事実じゃ、だからなんじゃ?」
「ふん、そんな態度ができるのも今だけだ、みんな、やれ!」
声の命令と同時に、わたしも警戒したが、特になにが起こってないように見えた。
しかし、テラーからはそうは見えなかったようで、周りを観察しながらも警戒の色を薄めなかった。
「ふはははあ、貴様の悪行も今日でおしまいだ。」
「悪行?そんな事した覚えはないが。」
「はあ?我々は貴様の欲望でどれだけ苦しんでいると思っている!あああ、もういい、ここ貴様の悪行を説いたところで意味がない、我々はもう解放されるんだ...」
本当に抑圧されてきたのか、男がいろいろとベラベラ今まで苦労やらなんやらを語り始めた。
そんな男の言葉にテラーは真面目に聞くつもりはないらしく、手を伸ばして何かに触れようとした。
彼女?が手を伸ばしたところ、突然元々何もないはずの彼女の指先から白い結界のようものが現れた。
「こんなものに妾が囚われるとでも?」
「ふん、なら脱出してみるといい。」
言われるまでもないと言わんばかりに、テラーはすぐに手を出した、魔獣という属性をフルに活用した単純な肉体パワーで繰り出した重い一撃が結界に炸裂した。
が、まるでなにもなかったかのように結界はビックともしなかった。
「魔力が吸われた?」
頑丈なだけではなく、他の機能も備わっているみたいだ。
「ははは、やっぱり、奇跡級の魔獣だろうと伝説の聖女にかなうはずあるまい!」
「伝説の聖女?」
わたしのほうをちらっと見て、テラーは聞いた。
「ふん、教えてやろう、これは聖女カルシアが残した対魔獣封印結界だ、魔獣の捕獲と弱体化に特化している、魔獣である貴様が脱出できるはずあるまい。」
「対魔獣...そんなのあったっけ?」
男の言葉を聞いて、わたしは聖女の話を聞いて出てきたユナにたずねた。
「うーん、戦争の後、聖女さまが魔獣災害に対応するため作ってましたが、まだ完成してなかったはずでは?」
ユナでも疑問に思っている時、勝ちを確信していたのか、男が勝手に解説し始めた。
「ふふん、テラー、お前は知らなかったかもしれんが、命神教の人はずっとあんたことを警戒していた、だから聖女が残した手記をもとに研究し、この地下でこの結界を作った、しかもあんた用に改良を重ねていてな。」
「そういうことですか、しかし、それだけではテラーを捉えるのは難しいと思います。」
男の言葉を聞いて、ユナはことを理解したが、男は企みは失敗に終わると判断した。
「ほう、それはどういう?」
「見てみれば分かりますよ。」
ユナの言う通りにテラーのほうを見るとテラーも対処方法分かったのか、特に焦る様子一切なかった。
「さすが聖女さま、じゃが、使ってる人が愚かすぎるのじゃ。」
そう言って、先まで結界に阻まれたテラーの手がまるでそこになにもなかったかのように結界をすり抜けた。
そして、腕、肩、頭とご自然にテラーは完全に結界から出た。
「うっそ、な、なななんでだぁ。」
自分の目にしたことが信じられないようで、男の声は驚きを隠せなかった。
「そんな驚くことかのう、公表こそしてこなかったじゃが、妾の奇跡魔術が変身魔術であるという推測はとっくに出ておるじゃろ?」
「だからなんだ!どうでもいいだろうが!」
「愚かじゃのう、奇跡魔術とはなんじゃ?法則を、世界の根底を捻じ曲げる術じゃ、つまり変身魔術を統べる妾は魔獣じゃが、魔獣だけではない、人間であり、動物であり、植物でもあるのじゃよ。」
乱暴な言葉を吐き続ける男に対し、テラーは特に煽ることもなく、逆に丁寧に説明した。
「そんな...そんなバカなことあってたまるか...」
「ふ、考えてみぃ、お前の言う通り、命神教の人は妾を警戒していたかもしれん、じゃが、そんな彼らはなぜこの場所をこのような廃墟になるまで放置し続けたのじゃ?この結界で妾を制限することはもうかなうことがないと悟ったのではないじゃろか?」
「クソ!」
男がその言葉を投げ捨てた次の瞬間、地下、この部屋のさらに下から強い魔力の反応を感じた。
「遠距離転移魔術!止めなくていいのか。」
どうやらなにか特殊な方法で下に隠れているようだが、遠距離転移魔術の強烈な魔力反応で居場所がばれた。
テラーもきっと同じように分かったはずだが、特に動く様子はなかった。
「構わん、もうどうでもいいことじゃ、そんなことより、本当に聖女さまなのじゃな。」
「ええと、それは...」
王宮にいた時、たしかリリアがテラーは千年を生きていたとか言ってたよな、今見た感じ相手はどう見ても本来の聖女カルシアを知っている、ここの答えで生死が分かれるかもしれない。
「聖女さまは聖女さまです、あなたこそ誰ですか?聖女さまを知っているんですか?」
わたしが迷っているうちに、なぜかユナが勝手に前に出た。
「あの時代を生きていたものに聖女カルシアの名を知らないやつはおらんじゃろ。」
「つまり一方的聖女さまを知っただけですね。」
「そうじゃな。」
おう、ナイス、ユナ。
一方的に知っていただけなら、特に思い入れはないってこと、それならボロの出にくいほうを選ぶべきだろう。
「残念ながらわたしは聖女ではないっ。」
「本当かい?顔そっくりじゃぞ、変身魔術でもなかろう。」
一瞬で距離を縮められ、テラーはわたしの顔をガン見しながら聞いた。
一応幻覚魔術はかけているんだが、テラーの前ではなんの意味もなさらないだろう。
「似ているだけです、この間ラスタリア王国での聖女の復活の話、ご存知でしょうか?」
「当然知っておるのじゃ、あの時すぐに飛んでいこうと思っとったんわい。」
マジか、思いとどまってくれてありがたいわ。
「あれは噓なんです、本当は聖女を復活させたわけではなく、ただ聖女さまとそっくりの人造人間ができただけです。」
「それがお主じゃと?」
「はい。」
「なるほど、お主見たところ上級魔術師じゃが、このレベルの魔術師をラスタリアは量産できると?」
さすがでたらめすぎて疑われるが、それについても考えてある。
「いいえ、成功率はかなり低いみたいで、子供のごろから二十数年あの研究施設にいましたが、成功したのはわたし一人しか。」
「ふーん、そういうことじゃったか。」
なんとか納得させたところ、このような絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
「あのう、テラーさん、まずその顔変えてくれませんか?」
「おう、もちろんじゃ。」
そう言って彼女は一変して銀髪で可愛い系のロリッことなった。
「これよいかのう?」
「はい、ありがとうございます、それともう一つお願いがありますが...」
「なんじゃ?」
「変身魔術についていろいろご教授願いたいです。」
「妾の奇跡魔術がほしいと?」
「いえ、いえ、そんな滅相もないです、ただ変身魔術のいろはをと。」
そんなの教えてくる魔術師いないし、そもそも奇跡魔術は教えられて会得できるようなものではない。
「ふーん、良かろう、じゃが一つ条件がある。」
「ええと、それは?」
「簡単さね、お主生娘じゃろ、なら妾と交尾するんじゃ。」