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迷宮都市の葬儀人  作者: 瘴気領域@漫画化してます
第六章 エンバー討伐

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第41話 探索

「おやまあ、道に迷いなされたか。村まで戻れて何よりでしたのう」


 困惑する二人に、老人は相好を崩してにこにこと笑っている。細まった目にまぶたが垂れ、ほとんど黒目しか見えない。どこか作り物めいた雰囲気を感じる笑顔だった。


「このあたりの道は人が歩いたもんと、獣が歩いたもんで入り組んでおりますからのう。霧の中を歩くのは村のもんでも難儀でしてな。無理はなさらず、霧が収まるまで待った方がよいですのう。さ、小屋まで案内しますじゃ」


 老人は返事も聞かずに歩き始める。仕方がないので二人もそれに従い、昨晩泊まった小屋へと一旦戻った。


「ご老人、霧はいつもどれくらいで収まるんだ?」

「1日のこともあれば、10日も続くこともございますなあ。山の天気は読みにくいもんで。ああ、晩の食事も用意しますで、ゆっくりなさってくだせえ」


 老人はそう言い残してそう言い残して去っていった。


「最大10日か……。そんなのんびりしている暇はないぞ」


 サイラスが渋い顔でぼやく。この村で足止めされている間にエンバーとすれ違ってしまったら打つ手がなくなってしまう。


「サイラスさん、この霧ってなんかおかしくないですか? 屍喰い蝶はまっすぐ飛んでたはずなのに」


 濡れた身体を拭きながら、アイラは素朴な疑問を口にする。


「ああ、普通じゃないな。方向感覚が狂わされているのか、あるいは転移でもされているのか……」

「魔術的な罠が仕掛けられているってことですか?」

「断定はできんがな」


 サイラスにせよアイラにせよ魔術の心得はない。聖職者が起こす奇跡と魔術士が扱う魔術は混同されがちだが、実際にはまったく原理を異にするものだ。魔術について表面的には知ってはいるが、魔素を読み取って術式を解明するなどは専門外なのだ。


「とはいえ、霧が収まるまでじっと待つって選択肢はないな。これが魔術的なものなら、ずっと晴れない可能性だってある」

黒幕(・・)の仕掛けなんでしょうか……」

「そうかもしれんし、違うかもしれん」

「でも、この辺りには昔から霧が出るんですよね。だとすると村の人たちも巻き込んでしまったことになります」

「村人がグルの可能性だってある。何にせよ、推理するには情報が少なすぎる」


 サイラスはパイプを咥え、ため息と一緒に紫煙を吐いた。オドゥオールがいればすぐに解決できたかもしれない。アイラと二人だけの追跡は無謀だったのだろうか。


 しかし、頭を振ってその考えを追い払う。そんなことを考えても始まらない。エンバーの正体を知ったことが露見すれば、教会から追われる身になってしまう。エッセレシアどころか大陸にはいられなくなるだろう。そんなものに巻き込むわけにはいかない。


「そういえば、あの石像って何だったんですかね?」


 部屋の隅でマントを干していたアイラが、小屋に設えられた祭壇を見ながら言った。


「ほら、あのザリガニみたいなの、やっぱりこれに似てませんか」

「こら、不用意に触るな」


 木像をつまみ上げるアイラをサイラスがたしなめる。だが、言われてみれば確かにそれは林道で見つけた石像に似ていた。


「この祭壇、何を表しているんですかね。中央の箱は何なんでしょう? 棺桶みたいに見えますが……」

「棺桶だとすると、周りの像は葬式の参列者か?」

「もしくは箱の中に何かを閉じ込めているとか? いま私たちが霧に閉じ込められてるみたいに」

「復活を願っているって解釈もできる。これも何でもありだな」


 仮説ならばいくらでも出せるが、いずれにしても確証がない。


「だが、じっとしてても仕方がない。まずは村の周辺を探るか」

「はい!」


 二人は服も乾かぬまま、再び小屋を出る。

 最初は同じ道を辿り、また村の正面に出てきた。次は屍喰い蝶を無視し、別の方角に向かう。また村の正面に出る。別の方角から、また村の正面。これを何度も繰り返すうちに、とうとう日が暮れてしまった。


 濃霧の暗闇を進むのはさすがに無謀なため、探索を中断して小屋に戻った。ストーブの前に並んで座り、濡れた身体を暖める。


「どこに向かっても戻ってきちゃいますね……」

「何らかの術にかけられているのは間違いないな。しかもあの石像も四方八方にあったな」


 探索中、他の石像をいくつも見つけた。

 石像の中には二股に割れた道化の帽子を被ったものや戦車を象ったものがあり、否が応でも嫌な予感が膨らむ。


「この村が黒幕と無関係ってことはなさそうですね」

「先走るなよ。村人も一味なのか、あるいは巻き込まれているだけなのかはまだ判断がつかん」

「一味だったらどうするんですか?」

「その場合は――」


 サイラスが言いかけたとき、コツコツと戸を叩く音がした。二人は慌てて口をつぐんだ。どうやら老人が夕食を持ってきたらしい。

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