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迷宮都市の葬儀人  作者: 瘴気領域@漫画化してます
第五章 平穏と戦争

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第27話 大群

更新お待たせして申し訳ありませんでした。前話のラストに少し書き足しをしているので、そちらから確認頂けると幸いです。

 陽の差さぬ部屋。禍々しい彫刻に彩られた玉座に腰掛けた老人がいた。眼球はなく、眼窩には青白い光が揺らめいている。がさがさと乾ききった肌は朽木の樹皮のようで、唇は痩せて歯茎が剥き出しになり、しかし口腔に除く舌だけはぬらりと湿り気を帯びていた。


 分体が喪失した。

 自我を分割して十三に切り分け、世界中に分散したがそのうちの愚者(・・)が滅せられたのだ。長い年月により魂魄の渡りはだいぶ弱くなったが、喪失したことだけは魔術を行使しなくとも感覚でわかる。


 骨と皮だけの指でその手に抱えた魔導書をなぞる。人革張りの魔導書には古代語で『骸の書』が捺されていた。


 魔導書を捲りながら、老人はページをたぐる。愚者(・・)の近くにいるのは戦車(・・)()だったか。魔導書がぼんやりを青白い光を放った。魂を接続し、骸の王の遺産を回収するよう命じたのだ。


 魔導書を閉じると、老人はひどく咳き込んだ。たったこれだけの魔術行使でこの有様だ。もう時間がない。老人は別の本を手にする。それには『王の再臨』と古代語で記されている。


「おお、骸の王よ。陽神(ソリス)を恐れず、陰神(ノクス)の軛から解き放たれし偉大なる御身よ。我に救いを、真なる永遠を与えたもう……」


 しわがれた囁きが暗い部屋に響いた。


 * * *


 メイズに押し寄せるのは白骨の群れだった。

 千を数えるスケルトンの大群がもうもうと土煙を上げながら迫っていたのだ。


「こりゃ普通のスケルトンじゃねえな」


 城壁の物見から様子を探るサイラスの瞳には、白骨の馬にまたがるスケルトンの群れが映っていた。右手に馬上槍、左手に円盾と、オープンヘルムの兜に鎖帷子と共通の装備が整えられている。


「こんな数のスケルトン、一体どこから……」


 隣ではアイラが呆然としていた。

 こんな規模のスケルトンの群れなど聞いたことがない。


「メイズの近くにゃ古戦場が無数にある。素材はそこから調達したんだろう」

「そんな! ずっと昔に亡くなった方を使うなんて!」

「死霊術師に神の正義を説いたところで無駄だ。スケルトンに感染性はない。それだけはマシだったな」


 アイラの怒りに、サイラスは淡々と応じる。何年も眠りにつき、白骨化した死体が自然にスケルトン化するケースは非常に稀だ。ましてやこの数の装備が揃ったスケルトン。死霊術師の関与を疑わない理由はなかった。


 眼下では教会の戦士団を中央に、右翼には領兵、左翼には臨時雇いの冒険者たちが布陣している。数はそれぞれおよそ100、100、50といったところか。スラム街は破壊され、それを材料に馬防柵が作られている。


「教会もずいぶん頑張ったな。半分は内勤じゃねえか。ま、こういうときに踏ん張らなきゃメンツが立たないか」


 この街の教会に所属する専門の神官戦士は50名ほどだ。とは言っても戦いの訓練をまったく受けたことがない者はほとんどいない。おそらく、若く身体が動く者は片っ端から動員したのだろう。


「冒険者さんたちが思いのほか少ないんですね……」

「命あっての物種だからな。こんな動員に応じるやつは中心街の中に住まいや家族がいる者くらいだろ。いまごろ反対の門から逃げ出してるんじゃないか?」


 数は明白に劣勢。

 普通のスケルトンであればこれでも十分に戦いになるだろうが、今回は明らかに違う。戦列を組み統制が取れた軍として動いている。ただただ闇雲に生者を襲うスケルトンとは比べ物にならないだろう。


「私たちはこんなところで眺めてていいんですか? すぐに加勢に加わるべきじゃ……」

「説明しただろ。俺たちは遊撃隊だ。これだけの大群を遠くから操ることなんてそれこそ骸の王でもなけりゃ出来ん。見極めて、大将の首を取るのが俺たちの仕事だ」


 あのまま事務所に留まっていれば教会から参陣の要請もあったろうが、サイラスはそれが知らせが来る前にアイラを連れ出し、城壁に入ったのだ。真正面から正直にぶつかり合ってなんとかなる規模ではない。


「それにエンバーさんも別行動で本当によかったんでしょうか?」

「このタイミングで不死者の大群だ。本当の狙いはあっちだろう。無視するわけにゃいかん。それに俺たちにゃ心強い味方がいるだろ」


 ぷかりとパイプを吹かしたサイラスの視線の先には、ゴゴロガ、ツバキ、オドゥオールの2人がいた。冒険者の陣に加わろうとしていたのを引き止め、助勢を頼んだのだ。


 それからサイラスは不安げなアイラの頭にぽんと手を置いた。


「それに、俺の読みじゃこの策はアイラ、お前が要になる。頼りにしてるからな」

「はっ、はい!」


 若干声を震わせつつも、アイラははっきりと返事をした。

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