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迷宮都市の葬儀人  作者: 瘴気領域@漫画化してます
第三章 分局長サイラス・ホワイト

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第17話 岩をも断ち切るゴゴロガ

 迷宮への探索が開始された。

 迷宮への入り口は複数存在し、領主府が管理して出入りする冒険者から税を取ったり、封鎖したりしている。廃屋の地下のものは未発見だったため、まだ何の管理もされていない。地図もなければどんな魔物や罠が存在しているかもわからない。当然、斥候役であるツバキが先行して警戒に当たることとなる。


「ってもねえ……。これ、斥候(あたし)のいる意味ある?」


 ツバキのランタンに照らし出されたのは夥しい破壊痕だった。床も天井も壁もあちこちが砕けてひび割れ、瓦礫が点在している。罠も無数にあったのだろう。曲がった鉄槍や引きちぎられた網、へし折られた矢などが転がっている。


「これ、あのエンバーってのが強行したってことだよね。どんな怪力してるのよ。こんな暴れられたんじゃ罠を仕掛けた方も浮かばれないだろうな」


 身長の倍ほどの長い棒で瓦礫をつつきながらぼやく。この棒は迷宮探索の基本装備のひとつだ。距離を取って安全に罠を探れる上に、いざとなれば武器にもなる。つついた瓦礫がこぼれ、がらりと音を立てる。


 そして瓦礫が巨大な人型となって立ち上がった。


「やばっ!? ストーンゴーレム!?」


 石の巨人は全身がひび割れだらけで左腕は肩から失われている。魔法生物であるストーンゴーレムは核が破壊されない限り自己修復する。エンバーに行動不能にまで破壊されてから時間をかけて再生したのだろう。


「っぶな!?」


 巨岩の拳が何度も振り下ろされる。ツバキは前に後ろに転がりながらその攻撃を躱す。猛攻の間隙を突いて棒手裏剣を投げるがあっさりと弾き返される。石の塊であるストーンゴーレムに対し、軽量の投擲武器はあまりにも相性が悪かった。


 攻撃が通じないことを悟ると今度は防御に徹する。最初こそ不意を突かれて動揺したが、一旦落ち着いてしまえば十分に対応できる。ツバキの素早さはストーンゴーレムの鈍重な動きに捉えられるものではない。


 ――何も事故がなければ、だが。


「痛っ!?」


 ツバキが悲鳴を上げ、床に転がる。外套の裾が折り曲げられた鉄槍に引っかかっていた。普通、迷宮の罠がこのように破壊されることなどはない。経験則とはあまりにも異なる状況のせいでツバキの勘が鈍っていたのだ。


 巨拳が振り上げられる。ツバキは焦って外套を引っ張るが、厚い亜麻布で織られた生地は簡単には千切れない。ツバキの頭よりも大きい拳が振り下ろされる。


 ツバキが死を覚悟した、そのときだった。


「初っ端からこんなのが出るとはな。いきなり4層レベルじゃねえか」


 太い身体がツバキとストーンゴーレムの間に滑り込んでいた。総金属製の戦斧の柄で巨大な拳が受け止められていた。ゴゴロガが援護に入ったのだ。


魔素(マナ)よ、矢となりて我が敵を穿て!」


 白く輝く光の矢がストーンゴーレムの巨体に殺到する。無数の矢が突き刺さり、弾けてその表面に小さな凹みを残した。オドゥオールが魔術を放ったのだ。


「くっ、効きが悪い!」

「ああ、こういう手合いにゃ魔法は通りづらい。だから、こうする」


 ゴゴロガは全身を伸ばしてストーンゴーレムの拳を押し返す。人型の巨岩がたたらを踏んで後退する。


「くたばれっ!」


 振り下ろされた戦斧がストーンゴーレムの胸を断ち割った。袈裟懸けに両断されたゴーレムの肉体が石畳に落ちて地響きを立てる。


「ひゅー、<岩をも断ち切る>ゴゴロガの面目躍如だな」

「からかうな。だいぶ鈍ってる」


 パイプを咥えて手を叩くサイラスに、ゴゴロガは苦笑いをする。続けてアイラがツバキに駆け寄り、鉄槍に引っかかっていた外套を外した。


「すみません、判断が遅れました。騒ぎが聞こえたときにすぐに出ていれば……」


 戦闘音は本隊にまで届いていたのだ。だが、最も早く駆け出したのはゴゴロガで、次がオドゥオールだった。斥候は先行して危険を察知する役割だが、その斥候に危険が及んだときには即座に救援するのが冒険者の鉄則だ。冒険者ではないアイラにはそれがわかっていなかった。


「いいっていいって。今のはあたしがしくじった。言い訳になるけど、普通魔物にとどめを刺さずに放置するなんてあり得ないからさ。次からはその辺も織り込むよ」


 アイラが差し出す手を断って、ツバキはひとりで立ち上がり身体についた埃を払い落とす。先程死にかけたというのに、その顔に恐怖の色は微塵も見られない。これが冒険者というものなのかとアイラは圧倒されていた。


「迷宮では冒険者の方が頼りになる。早速それがわかったな。下手に気負うなよ。俺たちが慌てて動くとかえって足を引っ張ることにもなりかねん」

「嬢ちゃんはそうだが、サイラス、お前にゃ少しは焦ってほしいがな」

「四十絡みのロートルに期待するなよ。ドワーフとは寿命が違うんだ」


 苦言を漏らすゴゴロガに、サイラスはどこ吹く風で紫煙をくゆらせる。


「倍の速さで生きてるくせに、お前は二十年前と変わらんな」

「いや、だいぶ変わったよ。白髪も増えたし筋肉痛が来るのが二日、三日後になった。無理はきかんから、老化の遅い若者にはせいぜい汗をかいてもらおう」

「馬鹿を言うな。ドワーフでも六十は若くない」

「人間なら六十はもう隠居してるんだよなあ」


 軽口を交わしながら、一団は迷宮の奥へと進む。エンバーの残した派手な破壊の痕跡を追いかけて。

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