閑話 太郎視点2
「あの、山田さんに何かあったのですか?」
「あなたは?」
「私は松本涼子といいます。山田史郎さんの会社の同僚です。」
「そうですか。私は山田史郎の弟の山田太郎といいます。兄は亡くなりました。」
「え、なんでですか?一昨日はあんなに元気だったのに。とても嬉しそうに課長の席にふざけて座っていた社長に「明日、引っ越しをするので会社を休みます。」と伝えていたのに。なんで、なんで死んでしまったのですか?私は、あの人のことが…。」
一瞬驚いた表情をしたが僕の顔を見て無理やり納得したような顔に変わった。なんとなくこのままほっておいたら潰れるような気がしたので
「あの、今から兄の遺体がある実家に行くのですが一緒に来ますか?移動中は兄について話しましょう。私も職場での兄を知りたいので。」
と声をかけてみた。
「はい。お願いします。」
こんな提案をしてもおそらく受け入れられないだろうと思っていたのに即答した。これにはさすがの僕も驚いた。
松本さんを助手席に乗せて兄ちゃんの遺体がある実家に向けて出発した。実家に着くまでの車の中で話してみると、どうやら松本涼子さんは兄に好意を寄せていたらしい。しかし、兄に気が付いてもらうことはできなかったようだ。うん、なんとなく分かる気がする。だって兄ちゃんだもん。
しばらく兄ちゃんのどこが良かったとか言う話をしていたが、松本さんは少し言いずらそうにしながら
「あの、それでなぜあの人は亡くなったのですか?」
と聞いてきた。
「ああ、正直なところを言うとよく分からないんです。正確に言うならば原因と思われるものが複数あって特定できないんですよ。兄は何でも小さい頃に大病を患っていたそうなんです。そして、それは完全に完治することはないそうです。でも、小さい頃は兄は何か薬を服用していたのですが、小学校高学年になる頃には薬を服用する必要はなくなったみたいです。今回はその病気が悪化したのか、それとも中学生ぐらいの時に交通事故で頭を強く打って入院していたこともあって、後遺症として身体が動かなくなる時があることが確認されていたのですが、その時にお医者さんに原因がわからないと言われていたのでその原因とされている何かかも知れませんし、兄ちゃんは時々何かに夢中になるとご飯も寝ることも忘れてすることがあるので過労死の可能性もあるし、今日昼過ぎに兄を訪ねてきたときに家に居た不審者が原因かもしれませんから。今、その不審者は警察署にいます。」
「そうなのですか?その最後の話について詳しく教えてもらえませんか?今の話し方からしてあなたはその1番最後が原因だと思っているのですよね?」
「ええ、そうですね」
今日の出来事を再び話していると実家に到着した。
「ここです。母さん、今帰ったよ。」
「太郎にい、久しぶり、お帰り。」
「ユウ、久しぶり。お前、先月から海外出張で来月末まで帰ってこれなかったんじゃないか?」
ユウこと優花は僕と史郎兄ちゃんの妹で「この前も仕事が忙しすぎて実家に帰れない!」と1時間ほど電話で愚痴られた。「僕もだよ!」と言ってなだめるのはしんどかったなぁ。今回の海外出張の先も数ヵ国をまわらないといけないから大変だと言っていたから連絡が取れても兄ちゃんの葬儀が終わるまでに戻ってこれるか怪しいと思っていたのに、兄ちゃんが亡くなってから6時間少々しか経っていないのに実家に居るっておかしいな‥
「あ、もしかして私がここに居ることに疑問を持ってる?」
「うん。」
「それはね···」
優花と話していると奥から母親が出てきた。
「おかえりなさい。そちらの方は?」
母親は僕の横に立っている松本さんを見ながら聞いてきた。
「兄さんの会社の同僚の松本涼子さん。今日、兄ちゃんと約束をしていたらしくて警察署を出た後兄ちゃん家に寄ったら会ったから連れてきた。」
「これはこれは、遠いとこわざわざありがとうございます。史郎に会っていってあげて下さい。」
「はい、おじゃまします。」
30分後
「太郎、近くの駅まで涼子さんを送って行ってあげな。」
「ああ、分かったよ。松本さん行きましょうか。」
「ええ、お願いします。」
「母さん、ユウ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
「気をつけてね。」
車を走らせること15分、駅到着した。
「今日はありがとうございました。史郎さんのことを知れてとても嬉しかったです。」
「そうですか、それはよかったです。ではまた落ち着いたら連絡しますね。」
「ええ、お願いします。」
松本さんがドアを開け車を降りようとした時、駅の方から昼間警察に連れていかれたはずの老人が出てきた。
「松本さん待ってください。」
「どうかしましたか?」
「あの老人です。お兄ちゃんの家であった老人は。」
「え、でも今警察にいるのではなかったですか?」
「ええ、おい、お前どうしてここに居るんだ?」
僕は車を降りてそう老人に問いかけた。
「ワシじゃからだぞ。まあでも、お主に知恵比べで1度負けたのじゃおまけしてやろう。」
「はあ?何を言ってるんだ?」
「そこの、携帯は繋がらないようにしてあるから無駄じゃぞ。後、ワシの姿はカメラにも写らん。」
「太郎さん、その人カメラで撮れません。」
「はあ?お前何もんだ?」
「だからワシはワシじゃ。それ以上でも以下でもないぞ。お主らがワシの話を聞いて行動するなら史郎に会わせてやるぞ!」
「話を聞かず、行動しないと言えば?お主らは消えるだけじゃ。」
「わかった。話を聞こう。」
話を聞いてみるとどうやら兄ちゃんは違う世界で生きているらしい。そして、兄ちゃんに買い物予定だったものを全て買ってくることと家を向こうに持っていけるようにすること、ペットを連れて行くことを条件で契約したらしく、その契約に則り買い物に出ようとしたさいに僕に会ったらしい。そして、この人は人に見られてはいけない存在らしく、見たものは生きていた痕跡すらも消え失せるらしい。だが、僕が警察に通報し、捕まえたことが知恵比べで勝ったことになるらしく僕らは彼の話を聞いて行動すれば兄ちゃんの元に送ってくれるらしい。
「分かりました。私は従います。私は史郎さんに会えるのなら全てを投げ捨てでも会いたいので。」
「仕方がない。僕はあんたを信じたわけでは無いが兄ちゃんに会えるなら従おう。ただし、兄ちゃんが居る世界についての情報と僕の使っているすべての荷物と彼女の使っているすべての荷物も持っていけるようにしてくれ。後、僕が助手席が荷物があって座れないと言ったときにワシが片付けてやると言ってたよな。つまりあんたは何か収納する術を持ってるんだろ、それを僕のトラックに施せ。後、僕らも買いたいものがいくつかあるからそれらも買いに行かせろ。」
「良かろう。全てを叶えよう!」
翌日の早朝、僕と松本さんは兄の家の駐車場に停めた中型トラックのなかに居た。結局、実家を出てから1度も実家には戻っていないし、連絡もとれていない。きっと心配するだろうな。それでも僕は兄ちゃんのいる場所に行くことを選ぶよ。
「では行くぞ!ほれ!」
眩しくなって目を閉じ、再び目を開けると周囲は荒地であった。
トラックから降りると兄ちゃんが玄関から飛び出してきた。ああ、会えた。しかし、会って開口一言目が「太郎、久しぶり。1年間ぶりか?」は無いだろう。こんなに大変な思いをしてきたのに。松本さんと兄ちゃんが死んでから向こうであったことは絶対に兄ちゃんには話さないと約束をしてしまったので話せないのがなんとなく悔しいがまあよしとしよう。
「太郎!!ご飯できたよ!」
「わかった!今行くよ!」