3話目:とりあえず交渉することの大切さ
「来月から直契約にしてくれませんか」
エージェントと呼ばれる営業代行を飛ばして客先の営業に良平は連絡をとった。
一応フリーランスといえどスキル的に未熟な良平はエージェントを介さないと仕事がとれない。
彼らエージェントは良平の単価の10~20%を毎月手数料としていただいている。
営業のサブスクとしてはかなり高額だ。
これがSESという会社員の形式だとさらに闇が深い。
今では高還元8割!などを謡っている会社も出てきているが大体がエンジニアの還元は高くても6割。
さらに社会保険を入れて8割だったり、税抜き単価の8割(実質7割)だったりする。
残業代もボーナスから出すようにして実質は出ないところもある。
これらは面接時に説明はしない。聞かれたら答える。
そして大体のエンジニアは社会経験は浅くここまで質問してこない。ほぼ詐欺に近いようなことがまかり通ってる。
ひどいところだとエンジニアに伝える単価をごまかすところもあるくらいだ。
経歴詐称をする会社もいる。未経験のエンジニアは売れないから3年の経験があるとマージンを高くするのだ。文句言われても取引先が一社減るだけでそこまで害ではない。2次請け、3次請けなら直接はやり取りしてないからなおさらだ。
この構造はお金を払ってる客も損してるし、エンジニアも損している。
儲かっているのは仲介しているSES営業・エージェントだけだ。日本では今や星の数ほどSES会社があり、今もなお増え続けている。
なんでこういうことになってるかというと日本では厳しい解雇規制がある。
一度雇うと経営者は実質解雇できないし、給料も下げられない。
正社員で雇うのはリスクがでかい。だが人手は足りない。
そうなると準委任契約という形で短期間だけ派遣できてもらう形が流行るのだ。
これが2次請け、3次請けとなり発注元は100万払ってるのに、エンジニアには30万しか渡っていないということもざらにある。
そういう構造に嫌気がさし、フリーランスになった良平は仕事もできるようになったので、初日に交渉することにした。
ダメだったらやり直せばいい。
そうすると意外とあっさり受け入れられた。
「わかりました。では直契約にして単価を10万上げますね」
向こうも支払う額が少なくなるし、断る理由もないのだろう。
良平はとりあえず頼んでみることの大事さを痛感した。
今回の交渉だけで毎月10万円も給料が上がった。どうやら複数の営業が絡んでて毎月20万近く抜かれてたらしい。もっと早く交渉すればよかった。
今回使ったエージェントからは嫌われて探してくれない可能性はあるだろう。他にエージェントはいくらでもいるから大丈夫だろう。それでも1年は抜いていたから、彼らは仲介だけで200万近く入ったのだ。
今やSES営業は儲かる仕事で年収2000万もけっこういる。
改めてこの業界の不健全さを認識した。
これで良平の単価は60万になった。年収720万。法人化してもいいだろう。
ミニマム法人を作って、社会保険を自分の給料を通して調節できる。
さらに副業もして年収1000万のラインに到達できた。
土日は思い切りお金を使って遊ぶことにした。
パチンコは勝ってもお金が残らないので興味がなくなった。
風俗、キャバクラなどを初日で金を使う体験をした。半年くらいはそれで楽しかったが次第にあきてきた。
そもそもお金を使うことがなくなった。家賃も安いところで十分だし、お金を使う体験は初日で味わって引き戻せばいいし、それも十分楽しんで使うことはなくなった。技術で必要な本のお金も初日で買って、メモをして引き戻せばタダになった。
2年後良平はPMとして単価200万で仕事をしていた。メモで解像度を上げてから仕事に取り組んでいるので困ることは特になくなっていた。
石の力ももう半年は使っていない。
生活費以外はよさげな株に突っ込んでいたので資産も5000万ほどになった良平は自分のサービスを作ることにした。