2話目:石の能力=メモの能力
あれから一週間、この手の平にのる不思議な石の力を探ることにした。
この能力は1日限定で自分が石を触りながら引き戻しを願うと引き戻せるらしい。
日曜日に俺が打っていた113番台。夕方で見ると2000枚ほど出ていた。私が同じ日に同じ台で打ったら6万負けていたのに??
どうやら乱数調整の類は同じ日を繰り返しても結果が変わるようだ。
競馬や宝くじも違う結果になっていた。ということは全く同じ世界に戻っているわけではなく世界線が微妙に違うんだなと理解した。
さらに1日戻りをした後は財布のお金がもとに戻っていた。
というような1週間の調査で以下のことが分かった。
・自分の体力と記憶は引き継ぐ。
・使ったお金、稼いだお金は引き継がない。
・宝くじの番号や馬券の当たりは戻る前の日と変わっている。
・引き戻せるのは1日限定。
・自分が書いたメモは引き継ぐ。
自分がメモした内容が引き戻しをした日も残っていたのは意外だった。買った物は引き継がないのに。ただ自分が書いたプログラミングのコードや資料までは引き継がなかった。さらにご飯を食べた直後に引き戻しを行うと満腹の状態で朝を迎えた。どうやら自分に関する状態は記憶を含め引き戻しの範囲に入るらしい。初日は俺が亡くなったから体の状態もリセットしたようだ。
この能力は短期的に儲けることはできないらしいが、仕事に関してはチート能力だった。
なんせほぼ同じことが繰り返される。その日に失敗したことや次はこうしようと思ったらメモに書いておけばいい。
私は仕事を先回りできるようになった。PMが頼む前に仕事を済ませておくことは思ったよりPMに信頼されるらしくすぐにフルリモートに戻った。
webエンジニアとして働いてる私は工数が実質2倍になったようなものだった。
初日のメモとしては、1時間ごとにしたことをメモして、少しでもはまったところと解決策を記入していった。意識としては初日のメモで引き戻しの日を最大限に効率よく仕事することだ。
注意された箇所と時間を記入して、同じミスをしないようにした。
こうすることで、引き戻しの日は手元に初日のメモがある状態ですすめられるから、一度も手を止めることなくコードの実装や資料作成を行うことができた。
繰り返していくうちに自分の仕事において共通作業があることに気がついた。
そういった作業はライブラリを作って自動化させていった。
会話した内容を録音してこういえばよかったとメモしておくこともした。
一度議事録を取ってしまえば引き戻し日の会議の流れがほぼ完ぺきに把握できた。
このメモによって良平はシングルタスクでの時間の見積もりが完璧にできるようになって仕事の解像度がはるかに上がった。また、仕事での論点もつかめるようになった。
そして1か月たった時に良平はあることに気が付いた。
石の力を使わなくても仕事ができると。
石の能力は言ってしまえばメモの能力。もちろん記憶も残っているが、メモさえあれば実際にやらなくても大体中身が把握できる。
メモの内容は
シングルタスクでの正確な見積もり時間。はまったところと解決策。レビュー指摘。議事録の内容。自分の言動、だ。
このメモだけ取っていれば初日の仕事開始前に大体今日はこのタスクに何時間かけて、ここがはまるポイントで、注意されやすいところだなと見えるようになったのだ。仕事を2回しなくて済むならそれはそれでいい。
引き戻しの力を使わなくても力を使ったときの速さと質で仕事ができるようになった。
大体仕事の進捗が4倍くらいになって開発のトップメンバーと遜色ないレベルになった。
トップパフォーマンスを出せる人は仕事の解像度が高いんだなと亮平は理解した。
「鈴木さん、急に仕事ができるようになったじゃないですか?どうしたんですか?」
もちろんPMからも褒められる。
良平はここで単価交渉に打って出ることにした。