俺には感情がない
俺には感情がない
俺には感情がない。
うぉぉぉぉぉ!ぎゃはは‼
嘲笑と侮蔑に満ちた笑い声が広場を包む。国民が取り囲んでいるのは木製でできた台。
それは正面に階段があり、それを上ると人間を一人固定するための機構がついているだけの台。
そう、処刑台だ。
この国、マルス王国では公開処刑が法律で定められている。なぜそんなことを?悪趣味だと思う人もいるかもしれないが理由は二つある。
一つは犯罪を犯すとこういうことになるという国民への脅し、これがなかなかどうして効果があるらしい。
公開処刑の義務化が決まったのは100年前、それ以来斬首刑になるほどの凶悪犯罪は減ってきているのだ。
そして二つ目がこれだ。
ざまぁっ!いい気味だぜ‼
おいおい見ろよあの顔!面白れぇ‼
そう、娯楽である。
一般市民は皆刺激が欲しいのだ。代り映えのしない毎日、それは平和の証なのだが裏を返せば退屈という訳だ。
だからこそ斬首という非日常に酔いしれるのだ。
だが俺たち処刑人からするとそれは本当に辛い行為なのである。
この国では処刑人はかなりエリート、選ばれし存在だ。
しかし処刑だけやればいいってもんじゃない。普段は刑務官に交じって同じ職務に当たっているのだ。
囚人たちは悪い連中だ、身の毛もよだつような行為に走った者もいる。しかし彼らも私達も人間、長時間一緒にいれば情も湧いてくるというもの、そんな彼らを殺すとなるとやはり辛いのだ。
処刑人の離職率は高い、さっき言った通り情の湧いた人間を殺すことに耐えられなくなるからだ。
そうなると酒でも飲んで忘れたくなる、だが仕事帰りに酒場へ行くと…
よう!処刑人‼今日は何人殺したんだ?俺も犯罪者殺してみてぇぜ‼
処刑人さん!今日の斬首良かったよ‼あの罪人の苦痛に満ちた顔!最高だったなぁ、次もよろしく頼むよ‼
このように尊敬に満ちた声をかけられるのだ。
これじゃあいくら酒を飲んでも忘れられない。
そして精神の逃げ場を失った処刑人は…こうなる。
なぁ知ってるか?処刑人のザラさん、首吊ったらしいぜ。
聞いた聞いた!何で自ら命を絶ったんだろう?あんなに楽しそうな仕事なのに。
なんか罪人を殺したりなくて地獄で罪人を殺しまくるために自殺したって聞いたぜ。
流石処刑人!職人気質だなぁ‼
こんな風に自らを処刑してしまうのだ。
実を言うと俺も昔はそうだった。
処刑することに耐え切れなくて処刑人を辞めようと思っていたのだ。
5人いた同期も自分を除いていなくなってしまった。
えっ死んだのか?辞めたのか?それを聞くのは野暮だよ。
だがある時俺は変わった。
何も感じなくなったのだ。
首を切っても何も感じない、罪人に睨まれても何も感じない、処刑を褒められても何も感じない、美味しいものを食べても何も感じない、親に会っても何も感じない、友人と遊んでも何も感じない、酒を飲んでも何も感じない、部下がやめても何も感じない、可愛いと噂の女性に交際を申し込まれても何も感じない、何をしても何も感じない。
俺には感情がない。
俺は首を切った。何人も何人も罪人の首を切った。民衆の歓声、罪人の嗚咽、何を聴いても何も感じない、熱気、興奮、絶頂、何も感じない、何も、何も…何も感じない。
俺には感情がない。
何も感じないが社会は変わるものだ。
マルス国では静かな革命が起こり、残酷だという理由で斬首刑は禁止になった。
斬首の更なる効率化のため、ギロチンとかいうものを作った者もいたようだが革命の折に危険人物として最後に斬首された。
俺が斬首した。
斬首刑が禁止された今、俺は普通に刑務官をしている。
相変わらず罪人に何を言われても俺は何も感じない。
おい!あいつ元処刑人じゃねぇか?
あの人殺しの?斬首なんて残酷過ぎよ!人間じゃないわ‼
死ね!
あれは確か酒場で罪人を殺したいとか言った奴だったな
だが別に何とも思わない、俺には感情がない
民衆は元処刑人に石を投げた、それが元処刑人のこめかみに直撃し血が流れる。
だが俺は何も感じない、何も感じない
何も感じない、何も…
イラッ!
交際を申し込まれた女性と人間じゃないと言い放った女性は同一人物です。




