ケーキの甘さと君の優しさ part1
少し間が空いてしまいました!
葉月さんとLINEを交換したその日、僕は返事が来るのを今か今かとそわそわしながら待ったり、送られてきたLINEを見てニヤニヤしたりして夜更かしをし、結果次の日僕はとてつもない寝不足で登校することになった。
LINEでしたやり取りはおすすめの本の話だったりと色気のないものではあったが、それでも前よりは確実にいい関係にはなれてる。一歩前進の繰り返しでも進んでいれば良しとしよう。
学校について自席でうとうとしながら彩花や冬姫の話を聞いて、うんうんと適当に相槌を打っていると、葉月さんが登校してきた。葉月さんは僕の斜め前の席なので、僕たちが話してるほうへと歩いてくる。
「あ、葉月さん、おはよう。」
こちらのほうに向かってくる葉月さんに気付いた僕は一気に眠気が覚めた。今まで一度もできたことがなかったが、昨日の勢いそのままに挨拶をしてみる。
「あ…えと、お…おはようございます…東雲君。」
すると少し動揺しつつもちゃんと挨拶を返してくれた。
ちゃんと挨拶を交わせたことに満足していると
「よかったじゃん、うまくいったみたいで。」
と彩花が耳打ちしてきた。
「ああ、うん。でもまだ全然だよ。先はすごい長い。でもありがとうね。」
この関係の進展には彩花も一役買っているため一応お礼を言っておく。
「え?なになに?なんでこそこそ話してるの?…ってか春雪、栞ちゃんと仲良かったの?」
僕と彩花のやり取りを見て冬姫が質問してくる。
「いや、なんでもないよ。葉月さんとは昨日たまたま図書室で話したんだよ。」
今、冬姫に本当のことを話すのはややこしくなるので、はぐらかしておく。
「そっか、なるほどね!…それでさっきの続きなんだけど…」
今の答えで納得してくれたらしい。すぐにもともとしてた話を再開しだした。切り替えが早いというかなんというか…
この日は部活があったため図書室にはよらず軽音部としての活動に勤しんで、そこから家に帰り次の日の仕込みを手伝った。うちの部活は部員も二人しかいないため、特に活動日は決められておらず、予定が合ったら活動しましょうというスタンスなので家の手伝いもしやすい。
そんなこんなで、仕込みの手伝いを終わらせた僕は自室に戻ってスマホを開く。
すると葉月さんから一件のLINEが届いていた。
『明日、図書館に来ますか?』
これはどういう意図で送られてきたのだろう。もしかしてなんだかんだ僕が図書室に来ることを楽しみにしてくれているのではないか?自惚れてもいいのではないか?
『明日は行こうかなって思ってるよ』
もとより明日は行こうかなと思っていたところだったので、その旨を伝える。
そして五分くらいすると返信が来た。
『分かりました。楽しみに待ってますね。』
これは来たんじゃないか?もうこれはそういうことだろう。
『僕も楽しみだよ』
思いの丈をそのまま送ると、ニコニコしたウサギのスタンプが送られてきた。
葉月さんもこういうスタンプ好きなんだな…とかそんなことを思ってるうちにそろそろ寝ないといけない時間になっていた。さすがに二日連続で寝不足はよくない。
なんやかんやでそれなりに早い時間に寝ることができた僕は、いつも通り五時半に起きて自分の弁当と両親の分の昼食をつくる。
というか両親に作った昼食の余りを自分の弁当箱に詰める…のほうが正しいかもしれない。
「ねえ、春雪。あんた明日は暇?」
僕が手際よく料理を作っていると、仕込み中のかあさんが家に戻ってきて聞いてきた。うちの店は一階が店になっていて二階が家になっている。
「明日は…土曜だから学校はないし、部活もたぶんないから暇だと思うけど。」
「よかった、明日ちょっと店を始めたときにお世話になった人が、新しくお店を開くみたいで、その挨拶に行かないといけないの。一人でお店回しててくれない?夕方くらいには帰れるとは思うんだけど…」
もともと土日は店に立つことも多いし、なによりそこまで忙しい店でもないので一人でも大丈夫であろう。過去何度か一人で店をまわしたことがあったが、問題なくこなせたし心配することはない。
「分かった。僕は大丈夫だからゆっくりしてきな?」
「ありがと~。じゃあお願いね。」
母さんはお礼を言うといそいそと一回の仕事場に降りて行った。
弁当を作り終えた僕は学校の支度を済ませ家を出た。
もっとゆっくりしてから家を出ても十分間に合うのだが、家にいても仕方がないのでいつも早めに家を出ている。そのためだいたい僕が一番乗りで教室につく。
今日も一番織だと思って教室に入ったが、今日は違ったようだ。
「葉月さん?おはよう。今日早いね。どうしたの?」
何と葉月さんが一番乗りだった。
「あ、東雲君…おはようございます。えっと、今日はなんだか早く目が覚めたので…早めに登校してみようかと…」
「そうだったんだ。こういう早い時間に登校すると、なんだかすごい静かで、まだ町が全体的に活動を始めてない感じがして違って見えるよね。」
まだ人通りの少なく、あまりお供しない住宅街の景色が僕のお気に入りでそれを見るために早く学校に来ているところもある。
「そうですね。なんだかいつもと違う感じがして新鮮でした。東雲君はいつもこの時間に?」
葉月さんは少し微笑んでいた。
「そうだよ。弁当を作るために早く起きてそのまま早めに家を出るからだいたいこの時間かな。」
僕は答えながら葉月さんの左となり、僕の前の席に腰を掛けた。
「え!?東雲君は自分でお弁当作ってるんですか?」
「そうだよ。実家がケーキ屋でさ、朝早くから仕込みをしなきゃいけなくて、両親は作れないから、両親の昼ご飯と僕の弁当を作ってきてるんだ。」
「すごいです!お料理ができるなんて…それに実家がケーキ屋さんなんですか?」
葉月さんは本当にびっくりした様子だ。
「そう。いつか跡を継ぎたいって思ってるんだ。だから今から店を手伝ってるんだ。」
「いいなぁ。私甘いものが大好きなんです!」
何時になく興奮した様子で葉月さんは目を輝かせている。
「そうなんだ。だからこの前フルーツサンドを買おうとしてたんだね。」
「そうなんです。あの時はありがとうございました。購買にフルーツサンドがあるらしいという噂を聞いて行ってみたんですけど…あまりの人の多さにどうすることもできなくて…」
「でも、そのおかげでこうして葉月さんと仲良くなれたし、僕はあの購買に感謝してるけどね。」
「え、…あ、私も…です。」
葉月さんの顔がどんどん赤くなっていく。
「そうだ、甘いもの好きなら明日うちの店に来なよ。明日は僕一人しか店にいないんだけど、ケーキ自体はほとんど朝に両親と三人で作ったものだから味は保証するよ。」
「え、いいんですか?」
「もちろん!ぜひ来てよ。場所はあとでLINEで送るからさ。」
「じゃあ、お邪魔させてもらいますね。」
やった、葉月さんを家に招待することに成功したぞ!家といっても店のほうなんだけど。
その後ぞろぞろと他の生徒も登校してきたのでお話は終了し、いつも通りに授業を受ける…はずだったのだが、全く授業に身が入らない。
ごめんなさい先生!僕は色恋にうつつを抜かして学生の本分である勉強をおろそかにしてしまいました!
「はあ、やっと終わった…」
悶々としながらも一日の授業をすべた僕は、とてつもない疲労感に苛まれていた。
「どうしたんだ?そんなぐったりして。」
机に突っ伏してため息をついていた僕を見かねて、友大が話しかけてきた。
「いや、いろいろ考え事してて…」
「そうか?ならいいんだけど…なんかあったら言えよ?」
「ありがと。大したことじゃないから大丈夫だよ。」
なんだかんだで気遣いもできるし、いいやつなんだよな。人気なのも頷ける。
「でもお前、一人で抱え込むタイプだろ?」
「どうしてそう思うんだ?」
今までそんなこと言われたことはないが…
「見てりゃ分かる。お前は他人には迷惑かけたくないとか言ってあんまり人に頼ろうとしないやつだ。」
「そうなのかな?自分じゃわかんないわ。」
「まあ、そういうことだから、何かあったら遠慮しないで相談しろよ?」
「うん、まあ…わかったよ。何かあったら相談する。」
「よし。んじゃ、俺今日バイトだから、また明日な。」
「おう、また明日。」
今日は友大も冬姫もバイト。彩花も彰も用事があるということで教室で解散した。僕はみんなを見送ると、葉月さんのほうへ向かう。
「じゃあ、行こうか。」
「はい。」
明日のことばかり考えていたが、今日は葉月さんと図書室行く日。よくよく考えるとこれは図書室デートなのでは?
こんな不純なことを考えているのは僕のほうだけなのだろうか?葉月さんも少なからず意識してくれているのだろうか?
そんなことを考えているうちに図書室についていた。
「どうしたんですか?東雲君?」
ボーっと何かを考えている僕を見て葉月さんが不思議そうに聞いてきた。
「ああ、いや…ちょっと考え事を…そうそう、今日は何を読もうかなって!」
いきなり声を掛けられたため、動揺してしまった…
「そうですか。…あ、じゃあこの本なんてどうですか?この間東雲君が読んでいた恋愛小説の作者さんの小説なんですけど…」
少し変な返答をしてしまったかと思ったが、葉月さんは怪しむことなくおすすめの本を紹介してきた。
「ああ、この前賞か何かとってたやつでしょ?」
「そうです!今までの作品とは一味違って、恋愛小説ではあるんですが今までの作品よりも青春要素が強めで面白かったです!さすがにまだここには置いてないと思うので、私のを貸してあげますよ。」
「いいの?葉月さん。」
「いいですよ、この前あの小説を読んでいたので、もしかしたらこの作者さんの作品がお好きなんじゃないかなと思って持ってきたので。」
そんな、僕のことを思って…これは借りない手はない。
「この作者さんの作品はだいたい読んでるんだけど、これはまだ買ってなかったんだ。丁度良かったよ、ありがとね。」
「いえ、私もこの作者さんが好きなので仲間が見つかってうれしいです!」
葉月さんから本を借りた僕はいつも葉月さんが座っている端っこのほうの席へと向かう。葉月さんが定位置に座ったので僕はその隣に座って本を読み始める。
そこから図書室が閉まるまでに間会話はなく、集中して本を読み続けた。
「危なかった…家だったら泣いていた…」
葉月さんから借りた本は素晴らしかった。もう感動も感動。ここが学校であるという意識が無かったら確実に泣いていただろう。
「分かります!私は家で読んでいたので泣いてしまいました!」
「やっぱり?だよね、さすがにこれは感動するよね!」
「やっぱり、東雲君とは気が合うと思ってたんです!ほかにもまだ読んでほしい本がたくさんあるんですけど…読んでいただけますか?」
葉月さんは満面の笑みを浮かべると、上目遣いで聞いてきた。
「もちろん。葉月さんが紹介してくれる本ならきっと面白いだろうしね。」
だいたいこんなに可愛い顔で聞かれたら、断るなんて無理じゃないか。
「よかったです!じゃあ次また持ってきますね!」
ほら可愛い。
そのまま二人で本の話をしながら最寄りの駅まで向かった。
僕たちは同じ駅から電車に乗って帰るのだが、僕が上り線で葉月さんが下り線を利用している。
「それじゃあ、僕はこっちの電車だから。」
ホームにつくと僕の乗るほうの電車がすでに到着していた。
「はい、それじゃあ明日お伺いしますので。」
「うん、じゃあ帰ったら場所送るからね。」
「分かりました。じゃあまた明日。」
「まあ明日。待ってるからね。」
葉月さんと別れの挨拶を済ますと電車の発車の音楽が鳴ったので、僕は急いで電車に乗り込んだ。
電車が発車すると、葉月さんが小さく手を振っているのが見えた。
あまりの可愛さに心臓が止まるかと思った。
しばらくして心臓も落ち着いたので明日のことを考える。するとなんだか今から緊張してきた。
葉月さんが来たときいつも通りの接客はできるのだろうか?
…ていうか、明日は土曜日。ということは葉月さんは制服ではなく私服?そんなものを見て僕の目は無事でいられるのだろうか?
そんなくだらないことを考えていると自宅の最寄駅についていた。
駅から出るとまっすぐに徒歩数分圏内にある自宅へ向かう。
自宅に着いて早々に風呂を済ませ夕飯を食べる。その後自分の部屋に戻り布団にダイブする。
「ん?LINE…」
充電してて触ってなかった携帯を手に取ると一件のLINEが届いていた。
『明日夕方頃に伺おうと思います。』
「葉月さんか…わざわざ律義に…」
『了解です!場所は○○駅から出て右の道をまっすぐ歩いて三分くらいのところです!』
今しがた場所を送ろうと思っていたので丁度良かった。
「本当に明日来るんだな…」
こうして時間まで指定されるとさすがに実感がわいてくる。…というか夕方に来るということは父さんと母さんと行き会わないか?
もし行き会ったらまずい…あの二人のことだ、余計なことを聞きまくるに決まってる!
「明日はいろんな意味で、戦争かもしれない…」
次回、葉月さん襲来!