本の森のお姫様
第二話です!よろしくお願いします!
好きな女の子と仲良くなるためにはどうしたらよいのだろうか…まさか高校生になってはじめてこの課題に直面するとは思ってもみなかった。
この間の購買の一件から一週間。このまま二人の距離は急接近!?とか思ってたんだけど…現実はそう甘くはないみたいでコレといった進展がない。
これは第二のアクションを取る他ないようだ。
「ねえ、ハルユキ?友大ってどこにいるかわかる?」
僕が朝早くまだほかの生徒があまり登校してきていない静かな教室で一人頭を悩ませていると一人の生徒が話しかけてきた。
「友大?まだ来てないんじゃないかな?いつも通りならそろそろ来る頃だと思うけど…」
話しかけてきたのは友大や冬姫と同じく僕とよくつるむメンツの一人椿 彩花である。ブロンドのロングヘアでギャルっぽい雰囲気を纏っている。少しツンケンしているが基本的には優しい(仲のいい人には)。
実は友大のことが好きでよく僕や冬姫に相談をしてきている。
「そっか、じゃあ来るまでここで待ってるね。」
彩花はそういうと僕の隣の席に座ってきた。
「友大になにか用でもあったの?」
一応それとなく質問しておく。こういう時に何も聞かずにいると、もっと興味を持てと怒ってくるのだ。
「いや、今日の放課後に遊びに行きたいな~…なんて」
まあ、そうだろうなという答えが返ってきた。
「ふ~ん。今日こそは僕とか冬姫とか連れてかないで二人で行ってきなよ?」
「いや、ちょっとそれは…」
彩花は恋愛は百戦錬磨ですみたいな見た目をしていて彼氏がいたことがないそうで意外と奥手なのである。
しかしその見た目からかよく女子の恋愛相談にはには乗ってあげているみたいで知識だけはそれなりに持っているそうだ。
そうだ、この際彩花に相談に乗ってもらえばいいのではないか。女子側の意見もこういう時は必要だ。
「あのさ、彩花。ちょっと聞きたいんだけど…」
「ん?どしたん?」
「あんまり話したことない女の子と仲良くなるにはどうしたらいいと思う?」
「どうしたの急に?ハルユキなら引く手あまたなんじゃないの?」
彩花はあまりにも突拍子のない質問だったからか「は?」みたいなを顔している。
「え、なに急に?もしかして好きな人できたの?ハルユキに?」
「いや、別に好きってわけじゃ…というかそれじゃ僕が人を好きになることなんてない冷たい奴みたいじゃないか。」
確かに今までの僕を知ってれば当然の反応なんだが
「ごめんごめん。でもあんまり話したことのない人ってことは…冬姫じゃないってこと?」
「冬姫じゃないんだ。でも同じクラスの子。」
「そっか~…冬姫たぶんハルユキのこと好きだよ?…やば、これ言っちゃいけないやつじゃね?」
「いや、なんとなくそんな気がしてた。」
そう、僕は昔から人に好意を向けられることが多かったため、自分を好いてくれてる人を見ると何となくそれが分かるようになっていた。
「だから彩花にしか相談できないんだよ。絶対他の奴らには言うなよ?僕と彩花の二人だけの秘密だからな?」
「そういうこと言うから、勘違いして好きになっちゃう子が増えちゃうんだよ?」
そういうこと?よくわからないが今はスルーだ。
「とにかく、秘密は秘密だ。特に友大や冬姫には絶対言わないでくれよ?」
「彰は?」
「彰は…ぎり大丈夫かも…あいつは誰かに言いふらしたりするタイプじゃないし、そもそもこういう話に興味もないだろうしな…」
彰とはこれまた僕とよくつるむメンツの一人である遠藤 彰のことである。すごいイケメンで頭も学年トップレベルでいいのだがどこか近寄りがたいような固いような感じのする人物である。
それでも、そこがまたいいとファンクラブがあるとかないとか…そんな噂が立つほどには女子には人気がある。
「僕がどうしたって?」
そんな話をしていると後ろから声をかけてくる一人の生徒が…
「おお、彰。おはよう。」
タイミングよく現れたのは件の人物、彰であった。
「おはよう。それで、僕がなんだって?」
「アキラ、おはよ~。なんかハルユキに好きな人ができたんだって。それで彰には興味ないだろうから話していいよって。」
おいおい、なんでそんな赤裸々に話すんだよ。
「なるほど、春雪に好きな人か…冬姫じゃないのか?」
「私もそうだと思ったんだけど、違うみたい。」
「そうか、じゃあ誰なんだ?」
あれ?意外と興味ありげか?
「まだ教えてもらってないの。ねえ、ハルユキ~、好きな子って誰~?」
こいつ、自分の話の時はいじらしい感じになるのにここぞとばかりにグイグイ来やがって…
「葉月さん。」
「「え?」」
もう黙っててもしょうがないので正直に話すと二人は固まった。
「え?誰って?」
彩花が確認するようにもう一度聞いてきた。
「葉月さん…葉月栞さんだよ。同じクラスの…」
「葉月さんっていうと眼鏡をかけた少し地味目の?」
彰は確認するように恐る恐る聞いてきた。
「そうだよ。あの葉月さん。」
「栞ちゃんか~。確かにリスみたいで可愛いよね~。」
彰は少し驚いていたようだが、意外にも彩花は納得したような顔をしていた。
「そうなんだよ。あの何とも言えない小動物感が可愛いんだよ。」
さすがは彩花…しっかりと葉月さんの魅力を分かってるみたいだ。
「まあ、好みは人それぞれだしな。僕がとやかく言うことじゃないか。」
彰も面食らってはいたものの納得はしているようだ。
「でも、そっか~栞ちゃんみたいな子がタイプなのか~…そりゃ、冬姫とか他の子じゃ相手にされないわけだ。」
「別にそういう子が好きってわけじゃないよ。たまたま葉月さんがそういうタイプだっただけで。」
「そっか、でも確かに栞ちゃんと仲良くなるのはハードル高いかもね。私もほとんどしゃべったことはないし…。」
「そうなんだよ…だから相談に乗ってほしくてさ。」
しかし彩花でも話したことがないとなるとどうしたものか。
「やっぱ、積極的に話しかけに行くのが一番じゃね?」
「そりゃあそうなんだけど…いつ話しかけていいかも分かんないし。」
何より今話しかけに行くと逃げられるような気もする。
「そういえば、僕が図書室に勉強しに行ったときは毎回端っこのほうで本を読んでいた気がする。」
僕と彩花が頭を悩ませていると彰がぽつりとつぶやいた。
「マジ!?」
「ああ、毎日行ってるかどうかは分かんないけど、僕が行くときは毎回いるような気がする。」
急に有益な情報が降って湧いてきたぞ!これは何かしらの兆しが見えてきた!
「二人ともありがとうな、さっそく今日図書室に行ってみるよ。お礼といってはなんだけど、友大には彩花と遊びに行くよう言っておくから。」
「私はいつも相談乗ってもらってるしね~これで私ら恋バナ仲間だね。」
なんていい子なんだ…友大も隅におけないやつだな。
「彰は…なんか参考書とかあげればいいか?」
正直彰は何が好きかもよくわからないので適当に提案してみる。
「僕のことを何だと思ってるんだ。別にお礼はいいよ、ただ図書室にいるかもって教えただけだし。」
「それでもありがとうだよ。じゃあお前に好きな人ができたら僕と彩花で相談に乗るから。」
「それいいじゃん!でも彰って好きな人と書いたことあるの?」
「あるよ。僕だって男なんだけど?」
ここで意外な情報が…彰が好きになる人ってばどんな人なんだろうか?これはあとで問い詰めなくては。
そんな馬鹿話をしているうちに友大や冬姫が登校してきたので話し合いはお開きとなった。
その後友大と彩花を遊びに行かせるのに紆余曲折あったりなんだりで放課後になっった。
「じゃあ、私らはカラオケ行ってくるね~。」
無事に友大と遊びに行く約束をすることに成功した彩花が上機嫌で話しかけてくる。
「いってらしゃい。楽しんできなよ。」
「うん!また明日ね~」
「おう。友大もじゃあな。」
「じゃあな~」
軽い会話を済ませた二人は教室を出て駅前のカラオケ屋に向かう。
「じゃあ私はバイトだから。」
そんな二人を見送ると次は冬姫が話しかけてきた。
「そっか。頑張ってね。」
冬姫はファストフード店でバイトをしている。おしゃれにもスイーツにもお金がかかるからという理由らしい。
「ありがと!またね!」
冬姫は笑顔で手を振りながら小走りで教室を出て行った。
「よし、じゃあ僕は図書室に行ってくるわ。」
そして僕は残った彰にそう告げる。
「うん、いってらっしゃい。頑張って…ていうのはなんか変か…」
「いや、頑張ってくるよ…といっても何を頑張ればいいんだか。」
「まあ、気負わずにな。」
「ありがとう。それじゃまた明日~」
彰の激励を受けた僕は図書室へと向かう。
「さあ、入るぞ…」
僕は意気込んで図書室の扉を開けた。
図書室の中にはほとんど生徒はいなかった。いるのは図書委員くらいのものだ。葉月さんはいないのかな…僕は図書館の中を見渡した。
そして図書室の端のほうに目をやるとある光景が目に入ってくる。
葉月さんが一人で本を読んでいた。もうすっかり秋なので日も落ちるのが早く、窓から夕焼けの光が差し込んできて葉月さんを照らしていた。
とてもきれいだ。僕は目を奪われていた。夕日に照らされ黙々と本を読む姿は、どんなに着飾った女性よりも美しいと思えた。さながら図書室という本の森に住むお姫様のようだった。
僕は今すぐにでも話しかけたいと思ったが、それはやめておくことにした。あれだけ本の世界にのめりこんでいるのに邪魔をするのは悪い。あの後彰に聞いた話だと閉館時間まで葉月さんはここにいるようだ。それまでは待つとしよう。
せっかく図書室に来たので僕も本を読むことにする。
僕は新刊コーナーから恋愛小説を一冊取って席に向かう。どうせなら隣に座ろう。
そして僕は葉月さんの隣の席に座る。すると葉月さんは驚いた顔でこちらを見てきた。邪魔はしたくないと言いながら結局邪魔をしてしまったみたいだ。
「ごめんね、邪魔しちゃったね。隣、座ってもいい?」
一応、謝罪をして隣に座る許可を取っておく。
「え、あ…はい。」
驚きながらも僕がここに座ることは許してくれたみたいだ。
「ありがとう、大丈夫だよ。ただ本読むだけだから。」
そう告げて僕は読書に入る。
葉月さんも最初は僕のほうを気にしていたが僕がちゃんと本を読んでいる様子を見て自分も読書を再開した。
もともと僕は本を読むのが好きなほうだ。本を読んでるとその世界に没頭できるし余計なことは考えなくてもいいからだ。中でも感動系や恋愛系が気に入っていて今読んでる恋愛小説は好きな作家さんの最新作である。
僕は葉月さんのほうには目もくれず本に集中した。葉月さんもまた、本に集中しているようだった。そして僕が読んでる本を丁度読み終えたとき、チャイムが鳴った。これが鳴ったということは図書室、もとい学校が閉まるということだ。
僕と葉月さんは各々が本を取った場所に本を返却して図書室を出た。
「あ、あの…」
すると葉月さんが話しかけてきた。
「今日はどうしたんですか…?何か…用が…?」
僕がどうして図書館に来たのかが疑問なようだ。
「いや、葉月さんに会おうと思って…ていうか仲良くなりたいと思って…」
隠しても仕方ないので正直に打ち明ける。
「へ!?あ…いや…なかよ…」
みるみるうちに葉月さんの顔が赤くなっていく。
「それで、葉月さんがここにいるって聞いて来てみたんだ。」
「な、なんで私なんですか…」
「なんでといわれても…」
さすがに好きだからとは言えない。
「罰ゲームとかですよね?私慣れてますから…」
あろうことか罰ゲームだと疑ってくる始末。それに慣れてるって…
「罰ゲームじゃないよ。ちゃんと僕の意思で来てる。この前も言ったけどなんか気になるんだよ葉月さんのことが…本心で仲良くなりたいって思ってるよ。」
「あ、あれですよね…クラス全員と仲良くなるチャレンジみたいな…」
いったいどこからそんな発想が出てくるのか…
「違うってば、葉月さんが特別なんだよ。葉月さんだから仲良くなりたいんだよ。」
「私が…特別…?」
「そうだよ。葉月さんが特別なんだよ。」
何度でも伝える。分かってもらえるまで何度でも。
「そ、そんな事初めていわれました…」
少し葉月さんの口角が上がった気がした。
「本…好きなんですか?」
いきなり葉月さんが質問してきた。
「好きだよ。昔からゲームやったりとかテレビを見てるときよりも本を読む時間のほうが好きなんだ。」
「私と…同じですね。」
笑顔で喋る葉月さん。凄く可愛い。
「だからでしょうか?」
だから…とはどういうことだろうか?
「今までは図書室に人がいると気が散って本を読むのに集中できなかったんですけど…東雲君が隣にいても集中して本が読めましたし、なんだか心地よい気がしたんです…」
なんだろう…今僕はとてつもない恥ずかしいことを言われている気がする…
「あ、ありがとう?」
「…あ、いや、私は何を言って…忘れてください…」
葉月さんも自分が恥ずかしいことを言ったことに気が付いたのか顔をさらに赤くしている。
「いや、今の言葉は大切に僕の心の中でとっておくことにするよ。」
「そ、そんなぁ…」
少し意地悪すると泣きそうな目になった。とても可愛い。
「うそうそ。ごめんね、からかっちゃって。…そうだ、これからもたまにここに来てもいい?」
「え、あ…はい。」
よかった許可が出た。
「ありがとね。断られたらどうしようかと思ったよ…」
「私も少し東雲君と…仲良くしたくなってきましたから…」
思いもよらない言葉が葉月さんから飛び出した。
「はは、そっか。じゃあさ、LINE交換しようよ。」
「LINEですか?」
「あ、やってなかった?」
「いえ、やってはいるんですけど…家族以外と交換したことが無くて…」
「じゃあ僕が記念すべき第一号?」
「はい…」
「そっか、一番目なんて一人しかなれないんだし嬉しいよ。」
「ふふ、東雲君は些細なことでも幸せを感じれるタイプなんですね。」
「そうかもしれないね。そのほうが楽しいじゃない?」
「私も見習いたいです。」
なんだかいい感じに会話ができている気がする。
「じゃあはいこれQRコード。」
「ありがとうございます…登録できました。」
「じゃあ、これからよろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
この時の葉月さんの笑顔を僕は一生忘れることはないだろう。
やっと第一歩目だ。これからきっともっともっと長い道のりになるんだろう。でも葉月さんとならきっとその道のりも楽しく過ごせる気がする。
筆は早いほうではないですが気長にお待ちください!
ぜひ、ブックマーク、評価、感想、レビューなどをよろしくお願いします!