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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

きっと、夢。

 



 私は、何故かそこに立っていた。

 橋の手前に、ポツンと立っていた。


 妙に立派な欄干付きの木製の橋、人が歩いて渡れそうな浅い川、綺麗に整備された河原、古き良き緑豊かな田舎の景色、そんな場所。


 私は今からこの橋を渡らなければならない。


 辺りを眺めながら、一歩一歩ゆっくりと進み始める。

 河原には鮮やかな緑色の野草が沢山生えていた。

 真夏のジリジリと照りつける太陽。蝉がわんわんと鳴き、むせ返るほどに様々な匂いがした。

 草と、水と、土と、血……妙に鉄臭い、匂いだった。




 ふと橋から右手側の河原に視線を向けると、太腿の付け根から脚が切断された遺体が二つ、地面にならべられていた。

 ブンブンと大量の蝿がたかり、傷口にはウヨウヨと蠢く白く小さいもの。ここからはよく見えないが、蛆なんだろう。

 そんな遺体を沢山の人々が囲み、事件だなんだと騒いでいた。


 橋を挟んで左手側の河原には、何故かビスクドールのような球体関節がついた滑らかな材質の白い脚が四本、綺麗に並べられてポツンと置かれていた。

 太腿の付け根部分から外され、接続用のゴム紐がピョンピョンと飛び出ていた。

 まるで、右側の遺体に足りない脚の代わり、かのように。




 ゆっくりと橋を渡っていると、右手の川の中に畳くらいの大きさの楕円の額縁のようなものが漂っていた。

 橋を渡らなければならないのに、どうしてもそれが気になり、欄干から身を乗り出し気味に額縁らしきものを覗き込むと、それは大きな鏡だった。

 私は、それを鏡だと認識した。

 鏡なのに……鏡面には右手にドレスを着たビスクドールを抱き微笑む、着物姿の黒髪の可愛らしい女の子が映っていた。

 ビスクドールの頭は、無かった。


 橋を対岸に向けて歩きつつ、妙に気になるその鏡を何度か振り返ったが、どの角度から見ても着物姿の女の子と首なしビスクドールが映し出されていた。




 橋を渡り終えたところで、ふと視線を感じた。

 橋の左手側の河原に、鏡に映し出されていた着物姿の女の子がいた。

 右手には、首のないビスクドールを抱いていた。

 左手には、川の中にあった鏡の縮小版とも言えそうな手鏡を持っていて、私の方に向けていた。

 彼女の足元には、ビスクドールの頭部が転がっていた。

 ビスクドールの青い瞳は、私をジッと見つめていた。

 私はビスクドールから鏡へと視線を移し――――。




「づはぁ!」


 ゼェハァ、ゼェハァ、と激しい呼吸。バクバクと鳴る心臓。妙に明るいラジオパーソナリティの声。ゴロゴロゴロゴロと猫が喉を鳴らす音。

 それらが異様な程に不協和音を醸していた。

 

『はーい、今日の放送はこれまで! 皆さん、どうでした? 今日のテーマの、実体験した怖い話、かなぁり鳥肌が立ったんじゃありません? いやぁこの時間にやるもんじゃないねぇ――――』


 私はラジオを聞きながら寝落ちしていたらしい。今日はちょっと仕事で疲れていたからかなぁ。

 そして、どうやら怪談話をしていたみたいだ。

 きっと、そのせいで訳の分からない夢を見たんだ。

 たぶん、そういうこと。


 何故か私の首の上で寝ている猫は、無理矢理に退かした。

 夢の中で、まるで私の首が無くなるような雰囲気だったのは、猫のせい。

 きっと、妙な息苦しさが夢の中であんな形で現れたんだと思う。




 あれは夢。

 きっと、夢。

 ラジオの音が、私に見せた夢。

 息苦しかったのは、猫のせい。

 今ふと見た時計が『3:33』なのは、たまたま。偶然。


『ザーーーーーザザッ、うふふっ……、ザーーーーーーーー』

「……」


 急にラジオの音が聞こえなくなったのは……きっと、アンテナの固定部が最近ちょっと緩くなっていて、立てていたアンテナが倒れたせい。

 今聞こえた、女の子の笑い声も……きっと、そのせい。


『ザーーーーーーーーザザザッ、クスッ……あたま、ザザッ、ちょうだい? ……ザ、ザザザザッ……』

「――――っ⁉」




 ◇◆◇◆◇




「って夢を見たんよー! めっちゃ怖くないっ⁉」

「ほへー」

「興味なしか!」

「いや、橋の右側と左側、どっちかに行っても死にそうだなぁって」

「やろっ⁉」


 翌日、妹の家にお中元のおすそ分けを持って行き、お昼ごはんを食べながら昨日見た夢の話をした。

 妹は怖い話が割と嫌いだ。なので、聞き流すか、変な分析をして怖さを緩和させている。今日はその複合タイプだった。

 ということは、やっぱり怖い夢だったんだよね?

 よしよし、ここからが更に怖いんだよね、あのラジオの音と、たまたま拾った声っ!


「あたま、ちょうだい?」

「へ⁉」


 妹が真顔で、『あたま、ちょうだい?』と言った。


「あたま」

「なっ、なんで…………」

「は? 姉、魚の頭とか目ン玉食べないじゃん」

「あ……うん、どおぞ」


 おすそ分けに持ってきてお昼にしていた、ホッケの一夜干しを指された。

 『あたま』は、ホッケのことだった。

 あれは夢。

 きっと、夢。

 ただの偶然。

 なのに、あのラジオの音が頭の中に響き渡る。


『ザーーーーーーーーザザザッ、クスッ……あたま、ザザッ、ちょうだい? ……ザ、ザザザザッ……』


 あれは夢。

 きっと…………。




 ―― 終 ―― 




 閲覧ありがとうございました。


 評価、ブクマ、いいね、感想などなどいただけますと作者が喜び小躍りします((o(´∀`)o))


 ではでは、またどこかの何かの作品で。


                 笛路

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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいて一瞬、ひやり、としました。 妹さんの台詞の所が特に……。 怖い夢を見て起きてしまうと、いつも気にならないことが怖く感じてしまうなぁと読みながら思いました。 折角なら楽しい夢を見たい…
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