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間違いなく君だったよ


「さて、今回のお題は?」


「オマエ、もう自分で考える気無いだろ?」


「そんなことは無い。毎回、これでヒントを得てなんとか書いてるんだ」


「そうなのか? 書いたの見せてみろよ」


「いや、オマエに見せるのはなんか恥ずかしいからイヤだ」


「なんだそれは。ま、本気で書いた小説を見せるのは、心のうちを人に見せるようなもんか。精神のストリップみたいなところはあるか」


「だって先輩の楽しむものってポエミイな奴になるけど、オマエはそういうの趣味じゃ無いだろ」


「意外にマジメな答えが返ってきた。なるほどね、オマエは先輩の為にポエミイな奴に挑戦してるのか。やっぱりマゾだろ」


「なんだよ、それじゃ小説書くのはみんなマゾかよ」


「芸術家ってそういう気質が必要なんじゃね? 人のメンタルに作用させようってんなら尚更じゃね? ま、オマエがマジメなら俺もちっとはマジメにやるか。今回のお題は?」


「『間違いなく君だったよ』コレって簡単そうじゃないか?」


「逆に難しいだろ。お題は制約でもあるから、なんでもアリになると余計に悩むもんだ。俳句も五七五と書けばそれっぽく見える。簡単っていうなら何が思い付く?」


「推理サスペンス、犯人は『間違いなく君だったよ』というのはどうだ?」


「オチがそれってなる。これまではそこに涙やら春風やら絡んでいた。コレが縛りになる。『間違いなく君だったよ』はそういったニュアンスに拘らないから雰囲気を作らなくていい。だけどポエミイにさせたいから雰囲気を指定されてたわけだ」


「そっか、文章から感じられる風景とかイメージの縛りが今回無いのか」


「なんでもアリは逆に難しい。ダンスも振り付けが決まってて、それをなぞるとそれなりの形になる。音楽に乗って自由に踊れ、というのはダンスが好きでやりこんでる奴の為のもんだ」


「そっか、そういう考え方もあるのか」


「推理もので犯人が『間違いなく君だったよ』でお題に添っても、それだけじゃ弱くなっちまうだろ。それにいくらでも思い付く。例えば無人島に流れ着いたときに、」


「来たな無人島」


「その島は無人島だと思っていたが、謎の奇妙な部族がいた。漂着した俺はその謎の部族に囲まれ、彼らの村に連れて行かれた」


「ふむふむ」


「その謎の部族の長らしき人物は、間違いなく君だったよ」


「なんで俺が未開の孤島の謎の部族を取りまとめてんだよ?」


「征服したんじゃね? 大航海時代かもな。あとはセリフの頭に、間違い無く、とあるのは逆に見間違いが考えられる。そっくりさん、というのもある。わざわざ間違い無く、と言うからには言われた当人に身に覚えが無かったりとかな」


「それって、ドッペルゲンガー、とか? オカルトだな」


「生き霊、というのもアリだよな。他には当人に覚えが無いことから、夢遊病、多重人格、というケースもアリだ」


「サイコサスペンスになった?」


「思い違い、ということなら、ふむ、俺と前世で愛を誓いあったのは、間違いなく君だったよ」


「サイコさんが来た!」


「前世で俺と共に邪神と闘った光の戦士は、間違いなく君だったよ」


「改めて本気で言われると怖いセリフだ」


「あのとき政府軍に火炎瓶を投げていたのは、間違いなく君だったよ」


「知らないところでテロリストの容疑が?」


「丑三つ時に神社の裏の林の中で、藁人形に五寸釘を打っていたのは、間違いなく君だったよ」


「俺は夜中に誰を呪っていたんだ?」


「あのとき、僕のカップラーメンを勝手に食べたのは、間違いなく君だったよ」


「しんみりせつなく語られているが、やってるのはちっさい食い逃げだ」


「あのとき、満員電車で痴漢してたのは、間違いなく君だったよ」


「痴漢冤罪だ!」 


「と、まあいくらでもやれてしまえるわけだ」


「よくもまあポンポンと出てくるもんだ」


「こうなると逆に、間違いなく君だったよ、という部分を効果的に使うのは難しくなる。効かせるのが難しいお題だよな」


「なるほどね、お題の部分をいかに強く強調させるのか、に捻りが必要になるのか」


「そういうこと。間違いなく君、と言われてしまうような、もう一人の自分と出会うとか、自分の知らない自分を見つけてしまうとか、そこを掘り下げるとおもしろくなるかもな」


「うーわ、今回は楽勝とか思ってたのに」


「楽勝ではあるぞ、何でもできるっちゃできる。そこにもうひとつ何かが欲しくなる感じではあるけど」


「それって、例えば? ヒントかネタくれ」


「そうだな。被せるってのが使える。あのとき、間違いなく君だったよ、と言ったのは、間違いなく君だったよ、とか」


「なんかややこしくなってきた? タイムリープか? 違う世界線か?」


「実はこの君、というのが死んだ人間のクローンで過去の記憶が無い、とかな」


「SFになってしまった!」


「ところで、話は変わるがこの前貸した金はいつ返してくれる?」


「は? 覚えが無いけど?」


「いや、おととい俺が千円貸したのは、間違いなく君だったよ」


「まるで身に覚えが無いぞコラ!」


「本当に? じゃ、あれは誰だったんだ?」


「おい待て、冗談だよな? 流れで出た冗談なんだよな? 俺はオマエに金借りて無いよな?」


「もしかしたらあいつは、違う世界線のオマエだったのかもな……」


「いきなり遠い目をするな! 何かあったようなことをそれっぽく言ってんじゃない!」


「どうりでアイツは、赤い石のペンダントなんて妙なものを探してたわけだ……」


「俺の知らない俺と過去にいったい何があったあ!?」



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