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願いをさえずる鳥のうた


「今回のお題は、『願いをさえずる鳥のうた』だ」


「鳥か、おまえの文芸部の先輩、何か嫌なことでもあったのか?」


「なんでそうなる?」


「鳥は自由の象徴ってのもあるから。鳥は空を飛ぶ生き物で、翼で自在に大空をあちこち飛べるところからそんな風に使われたり」


「いや、先輩に変わったところは無かったような。俺の書いたものを読んで、ニヨニヨした顔で俺を見るのもいつも通りだったし」


「それがいいっていうオマエは、やっぱりマゾだろ」


「いや、違うから。俺をマゾにすんな」


「あの先輩の何処がいいんだ?」


「いやまあ、先輩はあれで優しい人なんだよ。ただ、その優しさがちょっと分かりにくいってだけで。人をからかってニヨニヨしてるけれど、それも気を許した相手にだけで」


「すっかり調教されてやがる」


「なんでそうなる? それはともかく、とにかくお題は『願いをさえずる鳥のうた』これって鳥が主役ってことだよな?」


「別に鳥が主人公でもいいけどな。我輩は猫である、みたいに人とは違う生き物の視点から見たものを描くってのもいいけどな」


「なんだよ、鳥が主役はイマイチだってのか?」 


「鳥の気持ちってわかるか?」


「いや、そんなこと言い出したら人が他人の気持ちを本当にわかるかってのも怪しいもんだろ。他人の気持ちなんて悪魔でも分からないって言うし」


「そういうところ。つまりはこのタイトルは、人が人と違う生き物、鳥に願いを託すとか、鳥に願いや思いを代弁させるものにも繋がるわけだ」


「つまりは、どういうこと?」


「例えば囚人。幽閉されて建物に閉じ込められて自由が無い。長く牢屋の中で暮らしていて、いつかは外に出たいなんて考える。そんな囚人が窓の外から大空を舞う鳥を見上げたら?」


「あー、鳥になりたいとか考えるのかもな」


「歌にもあるだろ。悲しみの無い自由な空へ、翼はためかせ、とか」


「歌で言うと、空を自由に飛びたいな、ってのもあるぞ」


「ハイ、タケトンボー」


「微妙に似てる! 初代のほうに!」


「まあ、鳥には鳥の苦労とかあるんだろうけど、それは人にはわからない」


「それを言うなら鳥にも人の苦労はわからないと思う」


「どうかな? 高みから見下ろして同情されてるかもしれないぞ?」


「なんだか、鳥が自由、人が不自由みたいに思えてきた」


「現状に不自由を感じる人が、鳥を見て何か思うというパターンが多いわけだ。幸せの青い鳥なんてのもそうだろ」


「鳥、となれば無人島にはいっぱいいそうだろ?」


「そういう発言が出るところにも人の問題があって、そういうのがテーマになったりする」


「え? どういうこと?」


「無人島、人がいない島に鳥が多そう、っていうのはつまり、人がいるところには鳥は少ないっていうことだろ。それは人が自然の敵だ、というのが当然と考えてるから出てくるセリフなわけだ」


「おおう、テーマは環境破壊か?」


「こうなると鳥の願いは、『人間よ、私たちの森を返せ』だったりしてな」


「うわお、環境保護団体とかが言ってそう。なるほど、そうやって鳥に代弁させるってのもあるのか」


「人が地上で鳥は空、まるで違うところを領分とする鳥に願いを託す時点で、その願いは叶わないものと諦めてるところもあるかもな」


「なんだか、悲しい話になってしまいそうな」


「犬の鳴き声を翻訳する機械、バウリンガルみたいに鳥の鳴き声を翻訳する機械、なんてのが出るのもおもしろいかもな」


「そんなのあるのか?」


「タカラトミーから販売されてるぞ。あと猫向けのミャウリンガルというのもある」


「科学の進歩って何処に向かっているんだ?」


「やってみたいところにだろ。まあ、鳥の言うことを翻訳しても、エサくれ、とか、鳥かごから出たい、とかかも」


「飼われてる鳥だとそうなるのか? インコやカラスが喋るってのも、人の言葉の真似してるだけで意味まで解ってるわけじゃ無さそうだし」


「案外、あの小さい頭でいろいろと考えてたりしてな」


「例えば?」


「例えば、願い、それは意識の産物にしてクオリア。つまり物質では無い。随伴現象説によれば、意識の世界で起こる変化には、必ずそれに対応する物質的変化が脳内で起こっていることになる。意識は脳細胞の活動の結果であり、意識や願いが脳細胞を変化させるという逆転は有り得ない。一方で心身並行説は、この世界では心的なものと物的なものという全く異なる二種類があり、その二つは並行して進行しており、心的なものは物的なものに影響を与えないとする説。しかし、長くタクシーやバスの運転手を勤めていた者は脳の空間把握領域が肥大するという事例は、意識的な活動を繰り返すことが脳に変化を及ぼす例とはならないだろうか?」


「なんか難しいことを考えてた? 鳥のくせに?」


「さて、鳥が人より賢いかどうかは分からない。例えばナマコなんて脳を持ってない生き物だが、無駄を省く生き方という一面で見れば、人間はナマコの足下に及ばないほどに賢い生き物とも言えるし。鳥だって人よりずっと賢いかもしれないぞ」


「いやでも、人は科学でいろいろ作ったりしてるし」


「科学か、今の科学じゃ人工光合成もできないし、生命の創造では大腸菌ひとつも作れない。その辺の雑草や虫が当たり前にしていることすら、人類の科学では再現不可能だ。科学の進歩なんて、まったくたいしたもんじゃあ無い」


「そう言い切れるお前が、たまにすげえなって思う」


「科学の産物、でいうなら願いを囀ずる鳥、というのも生物の鳥じゃなくてもいいわけだ。飛行機のことを鉄の鳥と言うように」


「お、そういうのもアリか。SFになりそうだ」


「飛行形態に変形するロボットでもいいし、宇宙船でもいい。鋼の鳥の歌、なんてどうだ?」


「それだと機械の人工知能の願いとかって話になるのか?」


「もしくはその人工知能を作った人の願いとかな。ありがちだけど人がほとんどいなくなるまで戦争して、だけど機械は人のプログラムした通りにずっと戦争していたりとか」


「ディストピアになってしまった」


「敵を滅ぼせ、という人の願いに忠実に戦い続ける戦闘機とか爆撃機。その鋼の鳥の願いの歌ってのは、搭載された機銃の掃射音かもな」


「酷い話になってしまった。他にマシなネタはないのか?」


「おまえの先輩が喜びそうなポエミイな奴? そうだな。参考にするなら幸せの青い鳥、鶴の恩返し、幸福な王子、イソップのからすときつね、このあたりか?」


「で、どれがいいんだ?」


「お前の先輩が好みそうなのは幸福な王子、とかじゃないか? 図書室で探して読んでこい」


「それはそれで後で読むとして、しかし、願いをさえずる鳥の歌、か。なんだか漠然として掴み所がわからない」


「そういうのがタイトルからいろいろ膨らませることができるってものだろ。それに曖昧としたものを形でハッキリと描き出そうってのが芸術なんじゃないか?」


「小説も芸術か?」


「エンタメでもいいけど、創作物というのは芸術の範囲の中じゃないか?」


「鳥の歌、ってのが鳥の願いじゃ無くてもいいってのはわかった。鳥の囀ずりに願いを重ねた人ってのもアリなわけだ」


「さらにはその鳥もいなくてもいい場合もある。気候変動からの環境変化で絶滅した鳥とか。その鳴き声はもう、記録に残る音声データでしか聞くことはできない、なんて使い方もできる」


「お、その鳥を再生させる、というのはどうだ? 絶滅した種をなんとかクローンで復活させて、再び自然に、とか」


「その鳥が生きられる環境も再生させないと、また絶滅しそうなんだが。人の都合で滅ぼされたり復活させられたり、たいへんだなその鳥も」


「子供の頃に身近にいた鳥を復活させようという願いから生物学者になった主人公、というのはどうだ?」


「いいんじゃないか? 象を使ってマンモスを復活させようっていう遺伝子の研究とかあったような。絶滅した鳥の遺伝子からその鳥を復活させるプロジェクト、なんて実際にやってそうだ」


「そして生物学者は、鳥版のバウリンガルで復活させた鳥の鳴き声を翻訳して聞いてみる、とか。その鳥、なんて言うだろうか?」


「だまれ小僧! お前に鳥が救えるのか!」


「もののけー!」



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