プロローグ
ここは、地獄の四番地四四丁目の畑。沢山の黄色のスライムが実を収穫していた。実とは、人間界からの魂。赤ん坊の手の平くらいの赤い玉が、畑の魔力で順番に並んで待っている。
「♪スライム、スライム、スライムよーん。」
F28は、上機嫌。何故なら、地獄のスライムとなって地獄暦で10年になったので願いが叶うのだ。このスライムは、「人間に生まれ変わる」で申請している。
「スライムは、もうすぐ生まれ変わる。嬉しいなー。」
「おい、F28。お使いに行ってくれないか。直ぐ済む用だ。」
「スライム、はーい。管理人さま、なーに?」
「お前の10年の願いは、人間に生まれ変わるだったな。ついでだ、予備練習して来い。」
「スライム、へっ?(嫌な予感)」
「じゃ、送るぞ。身代わりで働いてくれ。貴族のお嬢様だそうだ。」
「スライム、どのくらいやれば?」
「2年とか言ってたかな、直ぐだ。頑張れよ。」
「スライム、2年?直ぐじゃないわ、嫌だ!」
管理人さんは、人の話は。違った、スライムの話は聞いてない。むんずとスライムを掴んで投げ飛ぼした。豪速球で、畑に空いている穴に放り込む。
それは、魂が人間界から来る通用口。それを、地獄から送ったのだった。権力の横暴だぞ。
地獄から人間界へ送られたスライムは、どうなるの?
スライムは、地獄に来て初めての異界移動に失神してしまっていた。そして、無くした意識の底で夢を見ていたのだ。
「透、逢いたかった!」
F28は、よく知っている若者を見つけて走る。両腕を広げて抱き締めた。大好きな恋人。自分の物。嬉しい。
「三沙ちゃんー。」
名前を呼ばれて、背の高い彼を見上げる。うーん、素敵!見飽きない甘いマスク。うっとりする。
綺麗な瞳が悲しげな色をして見つめるの。そして、掠れた声で言ったわ。
「ごめん、三沙ちゃん。好きな人ができた。別れてくれ!」
やっぱり、そうだったのね。最近、会ってくれないと思ってたら。他に女がいたのか。2年も付き合った年下の男と呆気ない別れ。
(神さま。奥田 三沙子、32歳。異次元でもいいから、お姫様にして。そして、王子様と結婚させて!)
なんて、夢みたいな話。信じないわ。この世は、弱肉強食の世界。奪うか、奪われるかよ。
人の物でも奪ってやるからーと決意したものの、不運な交通事故で生涯が終わってしまう。
やめて、やり残してるの。未練が満載、暴れさせてーー!
『じゃ、お願いしようかな。』
何だ、あの声は?天の声か。近づいてくる別な声は、嫌な感じ。誰かが、誰かとヒソヒソ話してるみたいだわ。
「子豚ひめさまは・・・。」
「みたいよ、子豚ひめさまは。」
「このまま、寝てればいいのにね。大人しいから。」
「駄目よ、聞こえるわ!」
「大丈夫よ、寝たきりだもの。子豚ひめさは。」
娘達の笑い声。楽しそう、何が面白いのかしら。気になった。
(うー、うぐっ。ゲゲゲーのぐっ。身体が、動かないわ。何でよ?)
手を動かすどころか、瞼も上げられない私。どうなってんのよ。
(奥田 三沙子、32歳で寝たきりは辞めてよね。まだ、結婚もしてないのよ!)
「結婚とは、異なこと。スライムと聞いておったのに?」
側で聞こえた声に天の助けと救いを求める。だって、私の声が聞こえたみたいだもん。お化けだろうと、すがりつくわよ。
(ね、ね、助けてよ。目も開けられないし、身体が動かないんだから!)
「不便そうだな、開けてつかわそう。」
もったいぶった声の後に目が開いた。目の前には、金色の豚。輝く豚さんは、牙を剥き出して笑う。
「お目覚めであるか、ビアンカ・ダンバーグ公爵令嬢。少々、待ちくたびれた処だ。」
豚が、喋った。これは、きっと夢なんだ。仕事し過ぎて疲れてるのね。寝よう。
私は、再び目を閉じた。
でも、それは、悪夢の始まりだったんだ。逃れられない運命という名の。