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我が家の神話生物  作者: 矮小なる人類であれ
2/5

這い寄る混沌

 休日と書いて天国と詠む。割とこれは世の中の真理だと思うし、実際真理。しかも7連休で明後日の登校日に登校すれば夏休みである。やったね!

 そしてそんな休日の今、俺は自転車に乗って行きつけのゲーム屋に向かっている。店長から欲しかったゲームを入手できたと連絡が来たから受け取りに行っているのだ……なかなか売ってないのよね~。早く地球を守りたいな。


「一万年と二千年前からお前のことが好きだったんだよ!(唐突)」


 なんてちょっとした替え歌を歌いながら蝉の声と照り付ける太陽をできるだけ気にしないようにしながら坂を猛スピードで下る。事故らないようにしなきゃな……まぁ、事故らんやろ。


 夏休みに入ったであろう小学生とその保護者であろう大人、あと平日昼間から歩いている大人……有給だよな? 自宅警備員じゃないよな? あの人。ま、いっか。




 さ~ってと、店に到着。因みにゲーム屋の名前は『ドリームランド』である……大丈夫? 千葉の夢の国に怒られたりしない? ハハッ↑って来たりしない? まぁ、11年間無事なんだから大丈夫なのだろうな。


 てか、なんとなくだけどゲーム店の周りの建物って空き家が多いよな。あそことか前まで人が住んでた気がするんだけど……ここ一応東京までとは言わないけどそこそこ都会だよ? 底々(そこそこ)だけどな。


 自動ドア(手動)を開け、中に入る。あ^~……涼しいわぁ~~うん、クーラーガンガンについてるな! 設定温度15度ではと思うほどの強風が吹いてる、あの人そんなに暑がりだったっけ?


「ん、ああ、いらっしゃい」


 俺が来たことに気付いたのか、店の奥から店主である黒野(くろの)ラトさんが出てくる。滅茶苦茶顔が良いのとスタイルがいい、本人曰くエジプト王家の血が入っているから褐色なんだそうだ、ファラオの血筋ってマ?


「マッマ、さてと。EDF4.1でしょ? 用意できてるよ」

「いやもう本当にありがとうございます……1.2.3.4はやってるけど4.1がなかなか手に入らなくて」

「ふふっ、いやいや気にしなくていいよ。いつもご贔屓にしてもらってるからね」


 ラトさんはコロコロという擬音が付きそうな笑い方をする、なんか妖狐みたいな感じがする、こう……色々な物に化けてそうなイメージ。


「いやいや、それは失礼じゃないか?」

「毎回思うんですけど……なんでそんなに考えてることが解るんですか?」


 本人曰く、大学と大学院で心理学を学んでいたとか。心理学のスペシャリストとしてそういう界隈では有名らしい。なぜゲーム屋の店主に?


「違うよ、私は心理学の特別スゴイスペシャリスト……久しぶりに3でもやろうかな」


 金属の歯車ネタ……この人なんでこんなにゲームネタ知ってる……つまりゲームを相当やり込んでるのに難関大を現役で卒業してるんだろうか。てか、この人外国の大学だったから飛び級してるんだ。すごいよな……俺よりたった5歳年上で有名人なんて。


「さてと、ホラ。お金は前払いで貰ってたから財布を出さなくていいよ」

「あ、そうだ。忘れてた」

「そんなんだから補習にかかるんじゃない?」

「グフッ」


 やれば出来るんだ……実際やれば出来たんだ。だが、そのやる気が著しく出ないんだ、やる気を出すところまでが実力だからしょうがないね。運も実力の内って言うのと一緒だね、だから英語のテスト赤点だったのに英検準1級の一次試験に当てずっぽうで運だけで合格したアイツはヤバい。


「っとと、せっかくだしゆっくりしていきなよ。ここまで来るのに暑かったし疲れたでしょ?」

「え、良いんですか?」

「うん、いいよいいよ。10年以上の付き合いだしね」


 因みに今でこそラトさんは店主だが6年前までは別の人が店主をやっていた。あの人は今どこで何をしているのだろうか。気にしなくてもいいな、あの人嫌いだったし。


「ほら、どうせ人あんまり来ないしそこのテレビでやって良いよ……データ残らないけどね」

「あ……そうだ、この前言ってたゲームってあります? あの、荷物運ぶ奴」

「ああ、監督の最新作ね。今ちょうど入ってるからやって良いよ」

「ザッス」

「君運動部みたいになってるね」


 ラトさんはどこからか持ってきたお菓子を食べていた。あ、ありがとうございます……美味い。ゲームを起動してゲームを始める……この感じ監督作品だわ。


「ねぇ……君には好きな人っているの?」

「ウゲップ!? ゲボッゲボッッバァッ」

「え、ちょ、思ったより汚い声出てたけど大丈夫!?」

「……思春期に聞かんどいてくださいよ」


 そういえば、と思考を半ば無理矢理切り替える。いつの間にかゲームの試供プレイする場所に畳が敷かれてくつろげる様になっている。個人的に畳は好きなので嬉しい……畳ってなんというか、独特なにおいするよね。ここの畳は何というか良い匂いがする、ラトさんの匂いやでぇ……。


「で、いるの?」

「……居ないよ、問題あるか!?」

「……童貞か」

「よぉっし、この近くに建設現場があったな」

「ごめん冗談だからそれだけはやめて」


 お、ラトさんが謝るなんて珍しい。なんというか自分本位な人だからなこの人。自分が面白いと思ったことに一直線って感じ……多分血液B型だと思う。


「そういえばですね、最近思うことがあるんですよ」

「お、なんだい?」

「うちで飼ってるカブトムシが神話生物じゃないかって」

「…………クトゥルフ神話の?」

「そそって、あ……コンテニュー」


 死んじゃった。こっちが1人も殺してないんだからそっちも殺すなよな。本当に不平等だと思う。わ……ここからなのね。ツライ。


「いや、まさか君が厨二病なんてね……」

「違うよ、違う。本当にそうだと思うんですよ」

「ええ……《xsmall》アイツしくじったな《/xsmall》」

「アイツ10年以上生きてるし。そういう種類も居なくはないらしいんですけどね……完全にヤマトカブトムシだったし」

「ふーん……そうだ」


 一瞬、厳しめの顔になったかと思えば呆れ顔になり、そして最後には何か悪いことを思い付いたような顔になる。その顔がなんとなく嫌な感じがしてゲームを停止させて後ずさりする。


「君は、もし可愛い神様に求婚されたらどうする?」

「え……うん、オタクだし普通にOKしちゃいそうですね」


 なんだこの質問、あとそのぶかぶかの服で四つん這いで迫ってこないでほしい。何がとは言わないけど見えるし思春期にはつらいんです。ナニがとは言わないけど!


「私、邪神なんだ」

「……は?」


 え、ラトさんって厨二病なの? 不思議ちゃんだったの?


「神話生物でもあるよ。無貌の神……解るでしょ?」


 無貌の神……旧支配者のナイアーラトテップ……。


「そっち? ニャルラトホテプの方じゃなくて?」

「え……なんでそっち? wikiだとこっちが表示されてるんですけど」

「……そうか、ニャル子がこの世界にないもんね」


 にゃるこ? にゃるこってなんだよ。知らないよ、あとすっごい良い笑顔だしなんか嘘をついてる雰囲気じゃないし? え、何? SAN値直葬するの?? オイラ死にたくないよ!?

 周りを見ればゲーム店の風景ではなくなっている。なんとも形容しがたい場所であるが……恐怖に思わず叫びそうになってしまう。


「うん、そうだよ。私はナイアーラトテップだよ……」

「……御冗談を」

「これでも?」


 瞬きの瞬間、ラトさんの顔が全くの無になっていた。顔のあるはずの場所には宇宙が広がっているような風景が広がっている。それを見ていると何となく意識が鈍化していっている気がする。


「ま、これ見てるとSAN値がピンチだから戻すんだけどね……ねぇ、今、私が言おうとしてること解るよね?」


 分かる、しかし解せない。ラトさんに戻った無貌の神は俺に覆いかぶさり至近距離で恍惚とした表情で俺を見つめている。


「ああ、やはり君は私達を、神話の者達を惹きつける……私は君が好きだ。それこそ今すぐ食べてしまいたいくらいに。狂わせて私だけのものにしてしまいたいくらいに……」


 何を言っているのだろうか? 俺は今どこに居て何をしているのだろうか。


「……でも、私は、まだ君とゲーム店の店主の関係を楽しみたいんだ」


 俺の意識はついに消えた。




「ああ、起きたのかい。いやぁ、人の店で寝るなんて君は意外と図太いんだねぇ」


 至近距離にラトさんの顔。俺はラトさんにぶつからないように起き上がる……膝枕柔らかかったです。時計と外を見ればすでに夕暮れだ。


「あ、すいませんでした! 時間来たので帰ります!!」

「っと、気をつけて帰るんだよ~」

「ウィッス!」


 俺はさっさと自転車に乗り、家路につく。そして、家まであと1分と言ったところで気付いた。


「やっべ、ゲーム忘れてきた」


 明日か明々後日に取りに行かないとなぁ……そん時はラトさんとなんかゲームしよ。そうしよう。

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