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我が家の神話生物  作者: 矮小なる人類であれ
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偉大なる種族

 『神話生物』という単語がある。20世紀のアメリカ人作家であるハワード・フィリップ・ラヴクラフトが執筆した怪奇小説群、通称『クトゥルフ神話』に出てくる人間よりもはるかに強大で偉大な生物の総称である。神や邪神、挙句の果てには宇宙よりも強大な者さえもいる。


「で、それがどうしたって言うんだい?」


 俺がここまで話すと、話を聞いてくれていた幼馴染が疑問を投げかけてくる。それに俺は、少々深刻な顔で答える。


「俺が飼ってるカブトムシが神話生物かもしれない」

「は、はぁ!?」


 中二病でもなかなかしないであろう俺のトチ狂った発言に驚いたのか、幼馴染である、五十鈴(イスず)(すみれ)は素っ頓狂な声を上げた。その声に、放課後なのに教室に残っている変わり者のクラスメイト達がこちらを一斉に見る。


「声がでけぇよ」

「ご、ごめん……いや、そもそも君がおかしいことを言ったからじゃないか……」

「でもな、多分マジなんだ」


 俺のカブトムシが神話生物だと思う理由その①、14年生きてる。これを言うと菫は渋い顔をする……嘘じゃないぞ、嘘じゃ。小さな声で話しているからクラスメイト達には聞こえていないだろうが、先程の菫の大声のせいでまだ怪訝な目で見られている。


 その②、放し飼いにしてるのに逃げない。これを言うとちゃんとケースに入れなよと呆れ顔で言われた。別にいいじゃないか。特に何もないんだし。


 で、その③、偶に増えてる……うん、俺のカブトムシって何故かは知らないけど変な傷が付いてるんだけどな、そこまで完璧に一緒の奴が何匹かいたのを見たことがあるんだよ。


「この3つから、アイツは多分神話生物だと思っている……予想ではイスの偉大なる種族じゃないかなって」

「ふ、ふーん……面白いじゃん。ネット小説にして書いてみたらどうだい? 意外と人気出るかもしれないじゃないか」

「生き恥を晒す気はないぞ」

「全世界のネット小説作者に土下座してこい」


 正直ああ言うのって絶対に、ぜぇったいに後々黒歴史になるやつだろうし。黒歴史を喜々として生産し続けるあの生き物は多分神話生物の類に乗っ取られているであろう。哀れなり。


「はぁ、放課後に教室に残ったのはこんなくだらないことを話すためじゃないだろう? ほら、今日の小テストを見せて」

「見ろよ、5点だぞ、5点」

「100点満点中のね! 全くなんで君はこんなにィィィィィ!」

「復習と予習をまったくしないからだな」

「自覚があるならしなよ!」


 と、思わずオカンと言いたくなる怒り方をした親愛なる幼馴染様と共に特別補修を始めるのである。早く帰ってゲームをやりたいでございます。




 最終下校時間。俺と菫は二人で帰路についていた。


「いやぁー……アイツ絶対イス人だと思うんだよなぁ……」

「まだ言ってるのかい? クトゥルフ神話は架空の物語なんだろう?」

「せやけど工藤……」

「誰が高校生探偵じゃ」


 他愛もない話をしながら、蜩が鳴く公園近くの小道を歩いてゆく。ふと、風が吸い込まれるというか、異様に強い風を感じてそちらを見ると、巨大な化け物が口を開けてこちらに向かってきていた。


「っつ、菫!!」

「え、ちょどうし――」


 俺は菫を突き飛ばし、俺自身も化け物から逃げる。なんとなく、化け物は俺を狙っている気がしていた、悲しいことにそれは当たりで、化け物は一瞬スライムのように形を変えたかと思えば再び俺を追ってきた。

 今にも泣き喚きたいほどの死の恐怖が俺を押し潰そうとする。ふと、昨日色々調べた神話生物の中に今追ってきている者に酷似した奴がいたことを思い出した。ショゴスだ、俺はそう思った。


 体力が続く限り俺は走って逃げ続けた。逃げ切れてはいるが、走るのを辞めれば確実に食われてミンチだろう。幸いなのは正気を保っていられることだ。


「テケリ・リ! テケリ・リ!」


 やっぱりショゴスだ。主に鳴き声が!

 突然、俺は気が付いた、俺は今どこにいるのかが全く分かっていない。否、そもそもこんな場所を知らない。人一人いないなんておかしいし先程まで聞こえていた蝉の声も聞こえない。


 一瞬、気をそらしてしまったからか、俺は足を絡ませて転んでしまう。ああ、死ぬんだなと、俺は不思議と納得できた。菫が生き残っているし特に誰も巻き込んでいないしそれでいいやとも思った。そして、迫りくるショゴスを見て、目をつぶった。


 映画でよく聞く音。光線銃っぽい音が辺りに響いた。目を開けば、目の前に居たはずのショゴスは消え去り、右腕に何か銃のようなものを持った菫が俺を守るように立っていた。あれ、菫の首の傷……うちのカブトムシと同じ傷――――







 目を開ける。なんで俺は目をつぶっていたのだろうか。体を起こすとどうやら自宅の自室のようだった。横を見ると、机の上に書置きが置いてあった。


『熱中症で倒れるとか君は小学生かい?』


 菫の字だった、どうやら熱中症で倒れた俺を運んでくれたらしい。机の上に諮ってきたのであろうスポーツ飲料が数本置かれていた。

 何というか……違和感を覚えたがとりあえず、スポーツ飲料をイッキのみした。その時、カブトムシがじっと俺を見ていることに、窓の外、電柱の上に巨大な虫が鎮座し、俺を見ていたことに、俺は気付かなかった。

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