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54_トリガーに爆弾

 アズサは慎重に足跡を追うようにして暗闇の中を進んだ。


「仲間がいるんです。彼らの様子を見に行きます」


 村人たちにそう告げると皆一様に心配するような目線を送ってきたが、先程仰っていた少女を探してきます、と付け加えると、父親だと名乗っていた男がお願いしますと頭を下げてきた。


 ミストリたちと別れたT字の分岐までくると、ミストリたちが進んだ方向その奥から土埃がうっすらと空中に漂い、徐々にこちらに向かって流れてくるのが目に見えた。


 それに構わず早足で前に進む。


 進んでいくにつれて、徐々に土煙が濃くなり、手で口を押さえない限りには息をするのも苦しくなってくる。


 支保は意外にもどこも崩れておらず、木のフレームの表面が時折綺麗に削げている程度だった。


 進むにつれ周囲の温度が上がっていっているように感じ、足を動かしながら両手の袖を捲った。


 汗が額から滴落ちて顎を撫でるように落ちていくと、それがライフルの金属部分に当たってアズサにしか聞こえないような小さい音を立てた。


 慎重に進み過ぎだろうか、私一人がここで足運びに気をつけるように進んだところで、さっきの大きな音が落盤事故であれば今この瞬間にも天井が裂けて土砂に押し潰されるかもしれない。


 どこか自分の姿を滑稽に思いながら、それでも大股で進むことは出来ない。


 視界も進むたびに前方数メートルが見えなくなるほどの土煙で満たされ、時折ライフルの銃口を槍のように突くようにして障害物の有無を判断していく。


 進んだ先に地面が急に灰色で満たされ、土ではなく、コンクリートで出来ている箇所に遭遇した。


 さっきの村の人たちの居たところと同じだと思った矢先、土煙の奥から小さな呻き声が聞こえてきて、思わず、誰!、とアズサは怒鳴っていた。


 ライフルを構え、土埃の奥をじっと見据える。


 呻き声の主は、土煙の中シルエットしか見えなかったが、何かを喋ろうとするたびに口に詰まった嘔吐物を吐き出すように咳をし、あ、アズサか、と嗄れた声を出した。


 シルエットは不思議と広い空間の中にポツンと点在していた。


 先細った通路の先にこんな何もない空間があるなんて、と不思議と意識を持っていかれそうになる。


「ミストリ、、、?」 

 

 ライフルを下ろし、土埃の中を進む。濃霧のように進めば進むほど濃くなるそれが、周囲の視界を満たしていてくれるおかげで、土の匂いに混じった血や動物の臓物の匂いに意識が進まなくてよかったとアズサは思った。


 おそらく、―――何人かはここで死んでる。


 土埃の先にいたシルエットにたどりつき、それをライトで照らす。


「――――――!!!!」 


 息を飲むにも、口の中の土の味がどうしてもそれを邪魔していて、―――思わず唇を噛んだ。ガリっと砂粒を噛み砕いたとき特有の不快な音が頭の中に弾ける。


 ミストリは左の肩から先がなかった。


 顔は左半分が吹き飛び酷い火傷の後が側頭部を覆っていて、まるで人の手程の大きさの鳥の鉤爪で抉られたようだった。


 左の眼球にもその傷は到達していて、側頭部の裂傷がそのまま眼球を上を通過して前髪の生え際まで続いている。


 医者ではないアズサから見ても、ミストリの左目が見えていないことは一目瞭然だった。


 左足は服だけを溶かすことの出来る薬品でもかけられたかのようにズボンは吹き飛び、その下から筋肉の繊維が見えていて、どこか捌いた時のうさぎの足を思い出した。


 アズサは近づき、ミストリの右肩を支える。


「お、お前、無事だったか、、、良かった」


 言葉を聞いて、アズサはすぐに死ぬような傷ではないと直感的に思った。


 声にまだ力がある。


「喋らないで!、すぐに手当するから」


「だ、だめだ、そんな暇はない、す、すぐにここから出るんだ」


「こんな状態で、動くなんて無理よ!」


「―――いけない、この場から離れないと、きっと、夜になる前に―――彼らはここを通る」


「―――彼ら?」


「あいつら、、お、俺たちを爆弾に―――」


「―――爆弾?」


「そうだ、き、っと、ベストだ、あれは爆弾だったんだ」


 アズサは自身の着ているベストを見た、それから胸のあたりや背中の部分などを触ってみるが、どこかに爆薬が仕込まれていそうな気配はない。


 ミストリを見るがベストは吹き飛んだのか身につけていなかった。


「どういうこと?」


「だめ、だ、説明している暇はない。あっ、。おー、らく、そういうデアランだ。爆発させることを得意としている奴がいる。そうか、そういう、ことか」


「ジュールは、どうしたの」


「あいつは、―――死んだ」


 分かりきっている答えを聞いた自分をどこか攻めたくなった。 


 何かに納得したような表情で数回頷くと、ミストリはアズサに向かって、とにかく外に連れ出してくれと言った。


 喋っていると時折、張り詰めた神経を見えない誰かに指で引っ張られ、それを弾かれたように、ミストリは小さな痙攣を発した。


 アズサはその場の周囲の確認もせずにミストリの体を支えて、来た道を戻る。


 いや、嘘だ、とアズサは思った。


 周囲の状況は見えていた、ただ、確認したくなかっただけだった。


 ライトでそこそこ周りを見渡せば、ここは確実に地獄だと、アズサにはわかっていた。


「そうか、だから、―――か。トリガー、はデアラン、あっ、。だったんだ」


 ポツポツと、ミストリは意味の分からない言葉を話す。

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