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45_坑道内

 ガタン――――――、コンコンコン

 

 と、物音は暗闇から聞こえてきた。


 それは限りなく小さな音だったがアズサの耳には確かに聞こえた。


 ボールのようなものが机の上から落ち、数回床の上でバウンドするような、そんなリズムの音だった。


 アズサは反射的に自身の横に立てかけていたライフルを両手で掴み、手に持った重さで銃弾が装填されているか無意識に確認する。


 隣に座っていたミストリとジュールは、アズサがなぜ咄嗟に動いたのか分からず、おい、なんだ、と声を上げた。


 瞬時にアズサは自身の左手の人差し指を口の前に立て、音を立てないようにと身振りで示す。


 それを見て、意外にもジュールの方が先にライフルを手に持ち、腰を浮かせる。


 ミストリは手に持っていた地図に目を通してから、一息後に自身のライフルを掴み、それからヘルメットを被る。


 音は断続的に暗闇の奥、二つある道の片側から聞こえてくる。


 音がしたのは木の板で塞がれている通路の方で、覗き込むと5m程先からは右側に緩やかにカーブしていて、ミストリが手に持っているライトで先を照らしはするが、光の先端は奥まで照らしきれなかった。

 

 アズサはライフルを構えたままゆっくりとしゃがみ、目の前の【進入禁止】と書かれた木の板を潜り、通路の先に進んだ。


 すると、アズサを追い越すようにして同じように板を潜ったミストリが目の前に立つと、乾いた音を立ててライトを点灯させた。


「何か聞いたのか?」  


 小声で聞いてくるミストリにアズサは首を縦に振って答える。


 ジュールはライフルを通路の奥に構えたまま、【進入禁止】の板を潜ることなく、先程多少整えたはずの息をそのままに、目に穴が空くのではないかという程に暗闇の奥を凝視している。


「ジュール、お前のデアランは?」


 ミストリが唐突に、小声で聞く。


「な、なんでそんなこと言わなければ」


 ジュールの言葉を遮るようにして、ミストリは続ける。


「もしも、この先に敵がいるなら、是非お貴族さまにお手伝い願おうと思ったんだよ。それで能力は?」


 ジュールはどうしてだか、渋るように二、三度首を横に振ると、アズサの方向を見た。


 おそらく言いたくないのだろうが、現在の状況で断る理由が見当たらず、助け舟を求めていたが、アズサはそれを無視した。


 アズサに今その会話に構っている余裕はなかった。


 ミストリ、そのままライトは前方に構えていて、一旦先に進むわ、ルートはこの先で合ってる?


 自身は小声で聞いたつもりだったが、どうしてだか今はとても大きな声で話してしまったように思えて、小さく後悔する。


 ミストリは小さく、ああ、と頷く。


 その返答を聞くと同時にアズサは前に進んだ。


 ミストリ、はたまたジュールまでも多少驚いて、アズサの方を見る。


 アズサは緩やかなカーブを出来る限り音を立てないようにして進む。


 【進入禁止】の板を超えたあたりから、急に足元がぬかるみ、泥の混じったような土がところどころに顔を出す。


 進んだカーブの先はT字路のようにまた二手に分かれていて、突き当たりには矢印の形の看板が二つ背を向けるようにして並んでいて、それぞれの通路の行先を指し示している。


 突き当たりの左側には【2J―14】、その反対には【1K―14】との記載がある。


 アズサは左の壁に背を向けまず右側の【1K―14】の方に銃口と目をやる。


 右の通路はライトで照らして見る限り、緩やかな傾斜かつき地下に向かって降りており、いくつか小さな通路が木の枝のように分岐して行っている。


 ミストリが傾斜の先の地面を照らして見ると、何者かが通った後であろう幾つもの足跡が散見される。


 急に地質が変わったかのように、進むごとに泥の比率が増していったこともあり、足跡が残ったのだろう。


 それに、まだ乾き切っていないところを見るとつい最近通ったもののようだった。


 それから背にしていた【2J―14】の左側の通路に銃口を向け、覗き込むようにして通路の奥を見る。


 ミストリも合わせてライトを向けるが、十数メートル先がこの場所と同じように突き当たりがT字路となっていて、少なくとも生き物が動く気配はなさそうだった。


 アズサ自身、自分の肩から力が抜けるのがわかる。


「―――とりあえず、何も居なかったな」


 ミストリが言うと、先程聞いたはずの音がまるで夢か幻だったかのように思える。


「でも、そっちの足跡は新しいわ」


 それでもアズサは自身の感覚を信じていた。


 自身が見ている方とは逆の方向の通路を指さす。泥の上に形作られた靴なのかブーツの跡は乾き切っておらず、また窪みは自然に慣らされる前のようでまだ深かった。


 それによくよく見ると、足跡は複数のものが伺える。だが通った場所は特定の範囲に限られているところを見ると、複数人が一列縦隊で進んだのだろう。


「人が最近通ったってことか。でもこの感じ―――」

 

 アズサとミストリの背後からジュールが首を伸ばして、同じように通路の先を見る。


 おい、俺に銃口を向けるな、とミストリから小言を言われてジュールは憮然として、手に持っていたライフルを肩にかけ直す。


 ジュールは視界の中に何にも居ないのを確認して、数回溜息をつき、少しむせるように咳払いをしてから、


「なんだ、何も居なかったんだろ。おい。いいか、もしも聞いたっていう音が空耳だったら」


 そう言いかけたところで、


 ダン!―――っと、


 【2J―14】の通路の先に、ミストリが発砲する。


 小さくない音がこのトンネル内に響き、すぐ近くにいたアズサは反射的に両手で耳を塞いだ。


 それでも間に合うはずもなく、頭の中心にある小さな金属製の鐘が別の金属の棒で打ち据えられたように、幾度も鳴り響く。


 マズルフラッシュが瞼の上で白く抽象画のように数回瞬き、鋭い矢のような閃光が数秒目の中に残像として残った。


 数回の瞬きと共にそれも和らぎ、アズサは改めて通路の先を見据える。


「な、なんだ、何が」


 ジュールも急な発砲に驚き、焦るようにして肩に担いでいたライフルを手に持ち、弾倉を確認して、すぐさま発砲出来ることを確かめる。


「今、通路の先を、何かが通った」


 そう言ってミストリはライトを自身の腰にくくりつけた。


 アズサは先程まで見ていた幾つもの足跡から、ミストリの見ていた方向に目を向ける。


 ミストリが発砲した先に向かって走り、それを追うようにして、アズサとジュールが続く。


 聞きたいことはたくさんあったが、それをグッと飲み込む。


 ミストリは突き当たりの前までくると、右側の壁に背中を付け、恐る恐ると言った形で、T字路の右側の通路の奥を見据える。


 それから頭を戻して、銃弾を装填しなおした。


 ガチャリと、無骨な音が聞こえる。


 アズサはミストリを追うようにして彼の手前までくると、同じように背中を壁に付ける。


 ミストリの息遣いは細かくそれでいてリズムが速い、浅く息を吸い込んでは浅く吐き出す。


 ミストリは腰から予備の電球を取り出すと、アズサに手渡した。


 それはミストリが腰につけているものとは一回り小さく、そして回すようなレバーが付いていなかった。


 これには電池が入ってる、中身は液体だからな、大袈裟に動き回っても支障はないけど、逆向きにしてると十数秒で使えなくなるから注意しろ、そう言い含めてアズサが被っているヘルメットの先端に取り付けた。


 ジュールもアズサの後ろに追いつき、敵か?、カムデンの奴らか?、と聞いたがミストリはそれを無視して、地図を広げた。


 もう目的地はすぐそこだ、だけどあれは確実に人だった、そう言って二人に警戒するようにと促す。


「俺はさっきの奴の後を追う。ジュールは俺の後ろから付いてきて援護してくれ」


「ま、まて、僕にはライトがない」


 ジュールが慌てるようにして聞く。


「嘘つけお前、その腰に巻き付けてるウエストバッグには小奇麗なライトが入ってるんだろ」


 そう言われてジュールはぐっと押し黙った。


 アズサはそれを見て、ミストリ、それなら私は反対側を見るわ、と言い向かい側の壁に背を付けた。


「―――、ありがとうアズサ。ジュール、俺の後を付いてこい」


 そう言うと、ミストリとアズサはタイミングを合わせてT字路の先に出た。


 銃を構えて、それぞれの先に進み始める。


 ライトで照らされた先を見る。


 その先は随分と奥まで続いていて、吸い込まれるようにアズサには思えた。

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