最高画質
いま、男がコールドスリープの殻からおもむろに抜け出した。彼が冷凍されたのは百年前であった。ここはビルの二五階で、眼下には群れ立つ建造物が見える。見たところ、百年前と変わりはない。
時代を写す鏡とは、すなわち家電である。男はそんなイメージを百年前から持っていたため、さっそく店へ向かった。百年たっても、人はまだ足を使うようだった。
「最新のテレビジョンがございます」
「ほう」
「最高画質なのです。現実を超越した高解像度」
「それはいいな。ぜひ見せてくれ」
そうして案内された売場。店の中央。陳列されたテレビ。映し出された映像の画質のほどは――
「なんだ、百年前と大して変っていないではないか」
なるほど、たしかに画質は進化しているように見える。しかし、男を感動させるほどではなかった。百年たっても、こんなもんか。
「ええ……お客様、なにか勘違いをされてはいませんか?」
店員が遠慮がちに口を開いた。
「なにがだ?」
「これはたしかに現実を超越した画質なのですよ」
店員はため息をついた。
「この時代、こんなに美しい景色がある場所はどこにも……」