序章6
スーリアさんからこれから、国王陛下に謁見すると言われた。
裸で現れたあたしが王様に会うって。どう考えても変でしょうが。
「…セダ様。陛下はあなたが新しい巫女だとお聞きになられたから、会ってくださるのです。そこはお間違えのなきよう。後、逃げるのも駄目ですからね。わたしや騎士たちで捕らえて、牢獄に放り込みますから」
冷たい目で見据えられながら、あたしは体を縮こませる。スーリアさん、表情が怖いですよ。
「…わかりました。ただ、緊張していまして。国で一番偉い方にお会いしますからね」
「セダ様。月玉の巫女として陛下に認められたら、すぐに月の女神のルシア様の神殿に行っていただきます。そこで神官長様から月玉を授けていただき、正式に巫女となります。そして、あなたは月の神殿で暮らすことになるのでそのおつもりでいてください」
「…じゃあ、魔物の退治はどうなるんですか?」
あたしが尋ねると、スーリアさんはふうとため息をついた。
「魔物の退治は危険ですよ。第三王子であられるアデル殿下や魔物退治を主にしている退治屋、聖騎士たちが出向いていますが。中級までだったら、何のことはありません。けど、上級の魔物になると、太陽の剣を所持しておられるアデル殿下や手練れの者でないと太刀打ちできません」
巫女とはいえ、あなたには無理ですと付け加えられ、あたしは落胆した。
落ち込んだ気分のまま、あたしは国王陛下がおられるという謁見の間に入った。後ろにはスーリアさんとダレスさんの二人が付いてきている。
沈黙が落ちる中であたしは一歩ずつ進んだ。ハイヒールを履きながらだから、転びそうになるのを何とか我慢しながらだけど。
そして、謁見の間の紅い絨毯を見ながら、あたしは深呼吸した。
ひざまずき、頭を軽く下げる。思わず、日本式の挨拶をしてしまったけど、周りは静かだった。
「…異界からの客人よ、よくぞ参られた。頭を上げられよ」
威厳のある声が謁見の間に響く。
あたしはゆっくりと頭を上げた。目の前には階段があって、その向こうに玉座がある。
玉座に腰掛けていたのはソテルさんより少し上くらいの男性だった。
アデル様とよく似た顔立ちで髪は栗毛色で瞳は何故か、カティス様と同じ琥珀色だったので驚いた。あたしはしばし、まじまじと見つめてしまう。すると、 横から咳払いをする声がして、我に返った。 目だけでその声の主を確かめると、宰相補佐のソテルさんだった。
あたしは慌てて、陛下に挨拶を述べる。
「失礼しました。あの、私はハルナ・セダと申します。初めまして、陛下」
「…セダ殿というか。わしは知っているだろうが、この国の王だ。名をアレクセイ・カルーシェという。ここにはいないが、妻の王妃はロイトガルトというのだ。普段はロイと呼ばれている」
にこやかに笑うと穏やかそうに見える。あたしは和みながらも陛下にもう一度、礼をした。
その後、アレクセイ様こと陛下はあたしに巫女として認めるとお言葉をくださった。意外とすんなりと認められたので、拍子抜けする。
何でだろうと首を傾げていると、陛下は笑いながら、こうおっしゃった。
「セダ殿、いや、巫女。これからは月の女神の神殿にて、この国を守ってほしい。魔物を退治するためにも早く、月玉を授けてもらいたいな」
「…陛下、あの。質問してもよろしいですか?」
あたしがおずおずと尋ねかけたら陛下は何かなと許可してくださった。
「月玉というのは何なのでしょうか。月の女神から授けられたとは聞きましたけど。どんな物なのかが想像できなくて」
「…月玉は、月の女神が自身の身を飾った首飾りでな。強い月の力が込められている。太陽神ーアスナ神と月神、ルシア神は闇の女神のカティス神の兄と姉にあたられる。お二方は国の守護神となられた妹神のことを心配なさり、自身の力を込めた剣と首飾りを天上からお贈りになったという」
そして、地上にあふれた悪しき者たちを滅するために闇を司るカティス神は初代の王に太陽神の剣を授けた。王のすぐ下の妹君に月神の首飾りー月玉を授けたという。
「…国王が剣で魔物を倒し、月玉で妹君が王や仲間たちの傷を癒し、時には魔物を鎮めた。二人は協力しあって、魔物たちが出てこないようにカルーシェ国の今の都にある魔界と地上の境目に結界を作った。そして、兄は玉座に着き、妹は初代の巫女になったのだ」
壮大な話にあたしは聞き入るばかりだった。