序章5
アデル様の部屋から、ウェル様たちが出て行くと、あたしは大きくため息をついた。
立ち上がって、ソファから離れるとドアに近づこうとする。
だけど、アデル様に腕をまた掴まれて、ベッドへと引きずられていった。
「ハルナといったな。ここはそなたの部屋として用意させた。私の部屋から少し離れている。意識を失って、半日は経っている」
そう言われて、あたしはええっと大きな声を上げた。半日だって?!
「あたし、そんなに寝ていたんですか。道理で暗いはずだわね」
「…そなたはあの後、意識を失った。衣服はスーリアに侍女を呼ばせて、やらせたが。その間、抗議するような視線を送られて大変だったぞ」
ため息をつきながら言われて、あたしはうつむいた。
「じゃあ、部屋を移動させたのはその。スーリアさんですよね」
あたしがどもりながら言うと、アデル様は首を横に振った。
「移動させたのは私だ。そなたを荷物のように肩に担ぐわけにもいかないからな。とりあえず、抱き抱えてこちらへ運んだが」
あたしは頭が恥ずかしさのあまり、パンクしそうになった。抱き抱えてって、お姫様だっこですか! 普通のだっこでも恥ずかしいのに。あたしは頭を抱えて、うなだれた。
「…それって、横抱きですか」
「そうだが?」
何を今更と言う感じでいうアデル様にあたしは詰め寄っていた。
「あたし、その時は裸だったんですか?!」
「い、いいや。今の格好だったが。裸のそなたを人目にさらすような真似はしていないつもりだ」
それを聞いて、あたしはへなへなと床に座り込んだ。あたしの裸はアデル様には見られたかもしれないけど、公衆の面前にさらす真似はしていないらしい。
「そうですか。よかったあ」
きょとんとした表情のアデル様を放って、一人納得したのであった。
その後、深夜だというのでアデル様はあたしの部屋ー客室を出て、自室に戻っていった。あたしはそのまま、寝ることにする。
けど、目がさえて眠れない。
仕方なく、部屋の明かり、蝋燭が置いてある机に近づいて、火を吹き消した。ベッドに戻ると、目を閉じた。
その後、目を覚ますまで夢は見ずに深い眠りについた。
翌朝、あたしは昨日のことが夢でないと思い知った。最初にいたアデル様の部屋とは違い、自分で開けたカーテンの隙間からこぼれる光の中で見る部屋の様相は落ち着いた女性らしい感じだった。
部屋の壁紙は薄いベージュ色でカーテンは茶色がかった薄い赤色だ。
中に置いてある机は飴色に輝いていて、棚や他のインテリアも一流の品には違いがないと思う。
けど、よけいな装飾はなくてそれが上品さを感じさせる。
それに浸っていると、ドアをノックする音がした。
我に返って、返事をする。
「あの、セダ様。スーリアです」
声を聞いて、あたしはすぐに返事をした。
「スーリアさんですか?入ってください」
「…失礼いたします」
スーリアさんはドアを開けて、静かに入ってくる。後ろから、見知らぬ濃いめの藍色のワンピースに白いエプロンを付けた女性が五人、続けてやってきた。
そして、スーリアさんはあたしのすぐ目の前まで来ると、きちんとしたお辞儀をする。
「おはようございます、セダ様。唐突ですみませんが。今日からあなたの身の回りのお世話をする侍女たちを連れて参りました。朝のお支度とお食事のお世話などはこの者たちがお手伝いしますので。そこのところはあしからず」
一気に言われたけど、話がうまく飲み込めない。首を傾げている間にスーリアさんはパンパンと手を鳴らした。
「さ、あなたたち。まずはセダ様の身支度をわたしとジーナ、ゾフィが。ベッドやお部屋のお掃除はアンナとマリー、シルビアがやってください」
六人で手分けしてあたしの身支度と部屋の掃除をやり始める。たちまち、あわただしくなった。
あたしの歯磨きと洗顔に始まり、髪を整えたり、ドレスを着せるのまで手際よく三人はこなす。
スーリアさんがコルセットを付ける時、思いっきりお腹を締め上げられた時は悲鳴をあげてしまったけど。
とにかく、メイクを施され、ヒールを履いたらあたしは見事なお嬢様になっていた。見かけだけはね。
そして、隣の応接間に案内されたのだった。広すぎるだろ、あたしの部屋。
そう、胸中でツッコんでしまった。