序章4
アデル様にきつい調子で問いつめられながら、あたしはカティス様のことについて説明した。
自分を呼び寄せた理由も話した。
まず、月玉を守る巫女が不在であることであたしが次の巫女候補として呼び寄せられたことやアデル様が対にあたる太陽の剣の持ち主であることも教えられたこと。
結界の修復と魔物を退治する事。これがあたしに与えられた役割であり、ある人の望みを叶える為にもこれから動かなければいけないとも言われたとそこまでを話し終えるとアデル様は考え込んでしまう。
沈黙が続いて、気まずくなる中、ふいにドアを叩く音が響いた。
「殿下、スーリアです。神官長様と宰相補佐殿をお連れしました。開けてもよろしいでしょうか?」
ドアの向こうから、一番最初に出会ったあの女性の声だった。スーリアさんか。あたしは短剣を突きつけられた時のことを思い出して、身震いした。
「…いい、入れ」
低い声で答えると、ドアがゆっくりと開かれた。あたしはソファに座ったまま、部屋に入ってきた人ヶを見て、驚いた。 スーリアさんと赤毛が目をひく若い男性、白髪に髭を蓄えた老人に中年といえる薄茶色の髪と目の男性の四人が入ってきた。
「…赤毛の男がダレスだ。後、老人が神官長、薄茶の男は宰相補佐だ」
アデル様が小声で説明してきた。何でと目線で問いかけたら、こう答えてきた。
「そなたが月玉の巫女だというのはわかったからな。対にあたるのに、無碍にはできない」
あたしはなるほどと納得した。
ちなみに、名前もいったから、あたしがスパイだという疑いは晴れた。その後、部屋に入ってきた神官長さんや宰相補佐さん、スーリアさんにあたしは立って、お辞儀をした。アデル様がスーリアさんにカーディガンをあたしに羽織らせるようにいってきたので、それとナイトドレスを身に纏った状態で自己紹介もした。
「…初めまして。あたしは瀬田春奈といいます。その、殿下にはお話しましたが。女神カティス様のお告げにより、月玉の巫女に選ばれました」
それを口にした途端、部屋の空気がぴんと張りつめたものになったのが自分でもわかった。
「…ふむ。あなたが月玉の巫女か。確か、巫女は月の女神の神殿か月玉が安置されている国王陛下のおられる奥の宮へ赴き、月玉を受け取らねばなりません。王が替わられるたびに巫女が選ばれ、月の女神の身を飾ったと言われる宝玉が託されてきました」
そういった男性を見上げるとそれは神官長だった。
月玉がどんな物なのかはわからないけど、月の女神の神殿に行かなければならないわけね。しかも、国王様にお会いしないといけないのか。あたしは小さくため息をついた。
神官長と宰相補佐はそれぞれ、一人掛け用のソファーに座っている。二人はアデル様のいるドアを背に向ける方に座り、あたしが一人でドアに向かう方に座っていた。すぐ後ろにはスーリアさんが立っている。
「そうですか。先代の月玉の巫女は騎士団の副団長と恋仲になり、嫁がれました。そのせいで国の気の均衡が崩れて、結界に綻びが生じたとか。セダ殿、カティス様のご神託により、あなたを巫女として受け入れるか協議をします。しばし、お待ちいただきたい」
そういったのは宰相補佐だった。
あたしは頷いたのであった。
「わかりました。お願いします」
「ええ。お任せください。セダ殿、お休みのさなかだというのに、申し訳ない」
あたしは笑いながら、気にしないでくださいといった。
「それはいいですから。宰相補佐さんや神官長さんにはご迷惑をおかけします」
「…セダ殿、そういえば、我らの名をいっていませんでしたな」
「…はい」
まず、赤毛の男性から、自己紹介をしてくれた。
アデル様の護衛役で騎士団に所属しているらしいダレスさんは、いかにも軽そうな見た目とは違い、真面目そうな人だ。
「わたしはもともと、侯爵家の三男で。父が宰相をしています」
侯爵と言われて、あたしは驚いた。それはスルーして、神官長が微笑みながら、名をいってきた。
「…わしは名をウェルといいましてな。元々は中級の神官でした。それを先代の神官長の抜擢で上級の神官に出世し、今に至ります」
そして、ウェルさんは隣に座る宰相補佐を見た。
宰相補佐は咳払いをしながら自己紹介してきた。
「最後にわたしはソテルと申します。今は宰相補佐を務めさせていただいています」
礼儀正しく、頭を下げながら名をいってくれた。
「…神官長はウェル様で宰相補佐はソテル様ですね」
「セダ殿、わたしに様を付けることはありませんよ」
ソテル様がいってきたのであたしは頷いた。
「わかりました。ソテルさんと呼ばせていただきます」
すると、ソテルさんは笑いながら、それでいいですよといってくれた。
あたしに一通りのことを伝えたからか、神官長ことウェル様とソテルさんは部屋を出て行った。