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一章4

  巫女様はゆっくりと語り出した。


「…これはわたしがまだ幼い頃に聞いた話です。月の巫女の初代の方は名をシェイラ様とおっしゃいました。初代の国王の妹君に当たられたのですが。生涯、独身を貫き通したといわれていましてね。今から、六百年前の話ですけど、シェイラ様はとても強い霊力を持ち、黒髪に琥珀色の瞳をした美しい姫君だったそうです。月神、ルシア神と闇の神、カティス神。お二方の力を引き継いだ闇と月の巫女と呼ばれていました」


 あたしはその話を聞いて動悸を覚えた。初代のシェイラ姫もカティス様とルシア様の加護を得て、力を引き継いでいた。こんな偶然あるだろうか。

 あたしもカティス様とルシア様の加護を得ている。けど、異世界から来た人間が二柱の神から守られていいのだろうか?

 冷や汗が出てきそうだ。

 巫女様はあたしの危惧など気づかずに話を続ける。


「…シェイラ様は光の神子でもあった王と一緒に行動されることが多かった。けど、強い霊力は国が安定した後も無くなることはなかったのです。それが災いしたのでしょう。シェイラ様は初代の王が即位なさって、五年後に病のせいで亡くなられました。闇の力に精神が保たなかったのでしょう。まだ、二十八という若さだったそうです」


 眉をひそめながら、語られたことにあたしはショックを隠しきれなかった。ひゅっと息を吸う音が聞こえる。


「…そんな若くして亡くなられたんですか。その、あたしも闇の女神様から加護を受けているのですけど」


 それを聞いた巫女様は驚いたらしく目を見開いた。


「何と、あなたもですか。でしたら、闇の巫女に力を託してしまった方がよろしいでしょう。アナスタシア殿がおられる以上、月の巫女にとって闇の力は不要のもの。力を明け渡せば、寿命が縮まることはないでしょう」


「…でも、あたしは闇の巫女としての力も有効利用したいんです。月の巫女の力だけでもよいのはわかってはいるんですけど」


 あたしは巫女様に力を渡すつもりはないときっぱり告げた。

 アーシェ様に渡すくらいだったら最初から受け取っていない。腹をくくって言った途端、巫女様は黙り込んでしまう。

 しばらく、沈黙が続いた。あたしはじっと蝋燭の火を見つめる。

 巫女様は再び、口を開いた。


「…そうですか。アナスタシア殿に闇の力を譲るつもりはないのですね。わかりました、でしたら、あなたに寿命を縮まらせないですむ方法を教えておきましょう」


 あたしは頷いて、先を促した。


「それはまあ、簡単なことです。太陽神の剣の気を得るか、光の神子の力を分けてもらうか。このどちらかです」


「…じゃあ、光の神子の力はどうやったら分けてもらえるんですか?」


「それは言いにくいのですが。触れてもらうのが一番、手っ取り早いですね。もっと言ってしまうと、昔にも光の神子と月の巫女が恋仲になった事例はあります。闇と月の巫女の場合は。その。光の神子と恋仲になったことにより、寿命が伸びたという言い伝えもありますが」


 意外なことを聞いて、今度はあたしが驚く番だった。


 その後、あたしは巫女様の部屋を出た。去り際に巫女様は、『また、いらしてください。今の光の神子とあなたは兄弟ではありませんから、結婚なさることも可能です』と言ってくれた。

 それに曖昧に頷きながら、別れを告げたのだった。


 あたしは神殿の礼拝堂に赴いた。

 待ちかまえていたのはウェル神官長だ。


「失礼します。昨日はすみませんでした。体調は回復したので、今日はよろしくお願いします」


「…いえ、かまいませんよ。殿下とも話し合って、シェーンに行くのは十日後に延期しました。猶予を増やしていただきましたから、その分、魔術の練習に打ち込むことができます」


 にこやかに笑いながらいった。

 あたしもそうですねと答える。

 そして、神官長は真面目な表情になるとあたしに一本の杖を手渡してきた。


「これは神官も持つことができる杖です。初歩の魔法から、練習しましょう」


 受け取ると、神官長も懐から小さめの杖を取り出した。

 その先端に小さな炎を出してみせる。


「…では、わたしがやったように炎を出してみてください。火がつくのを頭で思い浮かべてみるのです」


「わかりました」


 頷いて、頭の中で火がマッチでつくのを思い浮かべる。が、なかなかつかない。悪戦苦闘しながら、火がついたのは夕方になる頃だった。

 最初はこんなものですよと神官長に慰められながら、特訓初日は終わった。

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