一章3
この回はR15の描写が入ります。苦手な方はご注意ください。
あたしは手を引っ込めようとしたけれど、アデル様の手の力が強くて出来ない。
しっかりと握られたままでそれだけで顔が熱くなる。
心拍数は確実にあがっているだろう。
「…新月の日は私の部屋に来い。神官長にも話を通しておく」
耳元で囁かれて、あたしはくすぐったさのあまり、身をよじろうとした。けど、アデル様は逃がさないとばかりに前のめりの姿勢で両手をあたしの顔の横に置いて、阻んだ。
ちょうど、押し倒すような感じになる。紅い瞳は射抜くように見てきた。
「あの、アデル様。近いですよ」
「……ハルナ。だったら、新月の日は私からそなたの元へ行く。よく考えれば、そなたが神殿から王宮へ移動している間に魔物に襲われる危険性があるからな」
はあというと、額に手が触れられて、アデル様は自分のをこつんと当ててきた。鼻が擦り合う形になって、後もう少しでキスができそうなくらいに顔が至近距離にある。あたしは何もいえなくて、ただなすがままになっていた。
「…あの。神殿に来てもらえるのはありがたいんですけど。でも、アデル様が危なくないですか?」
「大丈夫だ。私は魔物を寄せ付けない結界を作ることができるからな。だから、心配することはない」
そういいながら、アデル様はあたしから少しだけ体を離すと頭を撫でてきた。
優しく撫でられた後、頬に軽く触れるだけのキスをされた。 いきなりされたからパニックになる。
「え。アデル様、手は出さないと約束していたはずじゃ…」
「…撤回だ。そなたのしどけない姿を見ていたら、自制がきかない」
あたしの唇にもキスをすると、アデル様は甘い満面の笑みを浮かべた。
「そなたの髪は柔らかいな」
「……なっ。アデル様」
さらに顔が熱くなる。アデル様は笑いながら、あたしの髪にもキスをした。
「倒れた時に運んでやったのだからな。その分の礼はしてもらおうか」
甘い艶やかな声で言われて、頭はショートしそうになる。
何とか、逃げようと手足をじたばたさせたけど、それもアデル様が体全体を使って押さえ込みにかかった。
「逃がさないぞ。本当は手を出さないつもりでいたが。ハルナ、私に関することで月の女神に何を言われたか、教えてくれないか?」
「…あの、光の神子に気を分けてもらえと。後、あたしに触ってくださいといったらどうかといわれましたけど」
「なかなか、月の女神もいい性格をしている。私に触れられるということは巫女としての資格を失うことにもなるかもしれないぞ」
脅すように言われて、あたしは首を横に振った。アデル様はサドの気がある。
「…わ、わかりました。アデル様に触ってとは言いません!だから、離してください」
そう叫ぶと、アデル様はすんなりとあたしから離れてくれた。
「そうか。残念だな。だが、次は手加減をしないからな。そのつもりでいろ」
そう言い残すとアデル様はドアを開けて、部屋を出ていった。
次の日はあたしも真面目に朝の礼拝をすませた。
そして、二代前の巫女様に話を聞きにいった。
巫女様の部屋は神殿の本当に奥で薄暗く、陰気な感じだった。そのためか、日が昇っているのにも関わらず、蝋燭が灯されていた。
「…ああ、あなたが新しい巫女ですか。名は聞き及んでおりますよ。確か、セダ殿とおっしゃいましたか?」
「はい。そうです」
答えると巫女様は立ち上がり、こちらに近づいてきた。背がしゃんとしていて、髪に白いものが混じった初老の女性だった。
黒髪を後ろできちんとまとめて、白の装束を身にまとっている。
部屋はカーテンを引いてあるから暗いけど、散らかってはおらず、物は整頓されていた。
「…あの、どうしてこんなに暗いんですか?」
「ああ、瞑想をするためにこうしているのです。いつもはカーテンを開けているのですけどね」
穏やかに微笑みながら、巫女様は答えてくれた。
「えっと、今日は巫女についてと月玉について。この二つのお話を聞くために来たんです。教えていただけますか?」
「かまいませんよ。陛下からも手紙で依頼されましたから」
巫女様は快く返事をしてくれる。
あたしは早速、勧められた椅子に腰掛けて、話を聞かせてもらった。